映画と弁士
皆様ご存知、喜劇王のチャップリン。
彼が出演するのは、パントマイムのように台詞のない無声映画です。
ものすごく流行ったそうで。
祖母も映画を見ていました。
当時の数少ない楽しみの一つです。
その後、無声映画から台詞付きの映画へと変わっていきます。
とは、いうものの音楽と台詞がフィルムに入っているわけでは無いそうです。
フィルムを映すスクリーンの横に弁士という人がいます。
この弁士が映画の登場人物の台詞、さらにはナレーションまでをこなします。
映画が面白いかどうかは、弁士の腕にかかっていたようです。
祖母がよく行く映画館に
弁士の「あけしゃん」と、いう人がいました。
この弁士さんが大人気。
映画そっちのけで、あけしゃんの語りを聴きに来る人も多かったそうです。
時代劇から洋画まで弁士が語ります。
時代劇で当時流行っていたのが「鞍馬天狗」です。
黒いイカみたいな頭巾をかぶり馬に跨がり駆け付けて、鉄砲を撃つ。かなり目立つ恰好の主人公でした。
鞍馬天狗が悪人のところに、人質を助けるため走っていったりするシーンでは
見ている人が立ち上がり
「はよ走らんかぁー、間に合わんぞー」
と、スクリーンに向かって叫んだりしていたそうで、今では考えられない盛り上がり方ですね。
フィルムは各映画館をまわります。その間に擦れるのかよく上映中にちぎれます。
画面がいきなり消えますが、こんな時が弁士の腕の見せ所。
真っ暗なスクリーンの前でお客さんを飽きさせないようおしゃべりをしたり、歌をうたったり、
その間、係がちぎれたフィルムを繋ぎます。また上映再開。何事もなかったよう弁士は続きを語ったそうです。
映画は一つの話がフィルム三つくらいに分かれています。番号はつけてあるのでしょうが上映の順番を間違う事もあったようです。
そんな時も上手い弁士は焦らない。順番が入れ代わり、中盤、終盤、序章のようにストーリーが乱れてもうまく話をつなげ映画を終わらせたとか。
洋画にももちろん弁士がつきます。翻訳の人がそうしたのか、弁士がそうしたのかはわかりませんが、
登場する外国人女性の名前がみんな「メリーさん」
若い女優もベテラン女優もメリーさん。
祖母も不思議に思っていたらしいです。
今となっては弁士の語りで映画を観る事はかないません。
当時観客が上映中、叫ぶ程熱狂していた映画。
昭和初期の映画は、娯楽の王様だったのかもしれません。