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「藍に王家の証を渡せと言われた?」

 雅の言葉に良は驚いた。

 まさか、藍がこの部屋に来たとは思わなかった。

 そのことに愕然とする。

「それで?」

「…渡さなかったわ。

 だってこれはとても大切なものだもの」

 雅の言葉に良は安堵した。

「良かった。それなら大丈夫だ」

 でも藍の言葉を拒否したのなら危険だ。

 良は考えをめぐらせる。

「逃げたほうがいいかもしれない」

 藍が王に言うかは分からない。

 だが、藍が気づいたということは、他の誰かが気づいても不思議はない。

 そうすれば雅に待っているのは破滅だ。


「逃げよう、雅」

 良の言葉に雅は目を見開く。

 逃げることは雅も考えていたことだった。

 でも雅は一人で出て行くつもりだったのだ。

 だからそう言われてとても驚いた。

「雅?」

 返事を促されて雅は逃げる、と頷いた。

 良と一緒にどこまでも遠くへ。

 それはとても素敵なことに思えた。

「…でもいいの?

 全てを捨てることになるのよ?」

 王族としての身分も、安定した未来も。

「別に王族の身分など惜しくないよ。

 俺が欲しいのは君だけだ」

 そっと良の手が雅の頬に触れる。

 その体温を感じて良はとても安堵していた。

 ありがとう、と雅が微笑む。

 本当はとても不安だった。

 一人で逃げるつもりでいたが、一人では怖かったのだ。


「逃げるなら陽の国がいいわ」

 ふわりと蝶が現れて告げる。

 初めて蝶を見た良は驚いている。

「精霊?」

 そうよ、と蝶は笑う。

「行くなら早くしましょう。

 ここはとても窮屈なのよ」

 そう言うと蝶は消えてしまった。

 その様子を唖然として眺めてから良はため息をつく。

「…とりあえず、行くか」

 そうね、と雅は微笑んだ。

 重かった心は良のお陰で随分と軽くなった。

 きっとこれから大変だろう。

 旅は楽なものではないはずだ。

 それでも良と一緒にいるなら頑張れる。

 きっと大丈夫。

 そう思えた。


 二人がそっと城を出て行くのを藍は窓辺から見ていた。

 二人が選んだ未来。

 それが幸福であれば良いと思いながら。

 元々、姫は死んだと報告されている。

 だから一緒にいたとしても問題はないだろう。

 王家の証さえ持っていなければ。

 あれを持っている限り、姫の身は危険にさらされる。

 それを守る覚悟があるのなら、良はどんなことでもするだろうと思った。

 予想通り、良は姫を守るために出て行った。

 その結果に藍は満足している。

「頑張れよ、良」

 弟に向かってそう告げると藍は窓辺から離れた。


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