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知らない男が急に部屋に入ってきたので雅は驚いた。
「…君は、もしかして?」
その男の顔は良によく似ている。
彼の兄弟なのだろうか?
雅は怪訝そうな顔をして男を見た。
「僕は藍。君の元婚約者だよ」
男の言葉に雅は驚く。
この人が本当の藍?
「ふぅん。君が亡国の姫君なんだ。
なかなか可愛いね。
死んだと聞いたけれど、良が連れてきてたんだ。
なるほどね、納得したよ」
そう言って藍は楽しそうに笑う。
優しそうなその笑顔にドキリとした。
「それで、君はここで何をしているの?
敵国の王族と一緒にいて、いつか俺らを滅ぼすつもりなのかな?」
藍の言葉に愕然とする。
そんなこと考えたこともなかった。
「私は…」
震えながら言葉を捜す。
でも言いたい言葉が見つからない。
「君はここにいるべきじゃない。
それは分かるだろう?」
分かっている。
私はここに居ていい存在じゃない。
「君は良の邪魔になる。
ここから消えるべきだ」
違うかな?と言われて何も言えない。
雅は藍を見上げた。
本当なら、この人が夫になる人だった。
良は身代わり。
だけど、実際に会って、話して、手紙のやり取りをしてくれたのは良なのだ。
私が恋をしたのは良なのだ。
改めてその事実に気づいた。
「君は王家の証を持っているよね?
王が躍起になって探してるということは、まだ見つかってないということ。
あれはとても危険なものなんだ。
持っている限り君は狙われ続ける。
そして一緒にいる良も」
ちらり、と藍が雅を見る。
王家の証。
蝶。
「それをこっちに渡してくれれば、君に協力しよう。
悪い話ではないと思うよ?
良の傍にいたいのだろう?」
優しい顔からは想像もできない計算された言葉。
これがこの国の跡継ぎなのだ。
雅は鍵を渡さなかった。
ぎゅっと鍵を握り締めて、首を横に振った。
「ダメよ。これはとても大切なものなの。
例え、命を狙われることになっても手離せないわ」
雅の答えに藍はため息をつく。
「じゃあ、良を諦めるんだな」
「それもダメよ。
私は良が好きなの。
諦めることなんて出来ないわ!
私はとても欲張りなのよ」
雅の言葉に藍は笑う。
「分かった。君の思った通りにやってごらん。
僕はただ見ていることにする」
君がどこまで出来るか見ていよう、そう言って藍は出て行った。
二人の未来は破滅かそれとも幸福か。
藍は二人のことを憂いた。
どうにか力になりたいと思ったが、それは拒否されてしまった。
それなら仕方ない。
二人の運命がどう動くか、それを見守るしかない。
藍に出来ることは少ない。
王子という身分はしがらみが多いのだ。
面倒な身分だと思う。
藍はそっとため息をついた。