表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/41

28.マグマ


 俺は今全力で逃げている。

 幸いにも下り坂になってる所だったから、文字通り転がるようにして逃げている。


『あれはヤバイ……』


 なんとか逃げ切れたのか、追ってくる気配は無くなった。

 あの巨大なムカデ。全長五メートルくらいあっただろうか……

 あの硬そうな外殻はまるで攻撃が通る気がしない。


「ニャー……」


 溜め息をついたつもりが鳴き声が出てしまい、締まらない感じだ。

 周囲を警戒しながら洞窟を進んでいたのに……まさか天井から来るとは思わなかった。

 上から聞こえた微かな音に危険を感じて飛び退いたが、あと一秒でも遅かったら今頃餌になってただろう。


『クソッ』 


 俺は現状この洞窟のカーストの中で最底辺に近いだろう。

 徐々に戦う敵を強くしていくべきだと頭では分かってるけど、現実は中々上手くいかない。

 時間が限られてることから、焦燥感が増していく。


『!?』


 歩いていたら、左前方の壁に大きな蜘蛛が張り付いてる。

 蜘蛛の大きさは一メートルくらい。

 つい先程逃げ回ってる間に強化された「暗視(強)」が、蜘蛛の体の毒々しい赤いラインを見せつけてくる。


 この距離なら逃げられそうな相手だが、逃げてばかりでは話にならない。

 まだなんとかなりそうな部類だろう……


 一応周囲に糸がないか注意して蜘蛛との距離をつめる。

 何処を見てるかよく分からない蜘蛛。

 左右にフェイントをかけながら相手の足にタックルする。


 思ったより簡単に足を取れた。俺のほうがスピードがあるのだろうか……

 それよりも、まず足を一本折り、次に別の足を狙おう。

 手で足を抑えての、猫キック……ゴキッという音がして、蜘蛛の足が折れた手応えがある。

 すぐ……次の足……と思ったところで、右腕に痛みを感じた。


『――ウグッ』


 息が出来ない……蜘蛛の神経毒だろう……

 だが、この程度は想定の範囲だ。

 (うずくま)る俺はさらに蜘蛛に噛まれる。

 息が出来ないし、目の前がチカチカする……けど、ここだけ耐えることができれば……

 幸いにもこの蜘蛛には打撃系の攻撃方法が無いのか、俺が毒で死ぬのを待っているようだ。


 これが蛇とかだったら、この間に丸呑みされてたかもな……

 そんなことを考えていたところで、急に楽になってきた。

 これを待っていた! 自己鑑定すると「毒耐性(中)」が目に入った。

 

 すぐに起き上がり、蜘蛛に襲いかかり足を追加で数本折ったところで勝負がついた。

 蜘蛛をひっくり返して、頭部付近の柔らかそうな所に噛み付きトドメを刺す。

 蜘蛛の毒腺の部分を探して、少し手につけて舐めてみるが、耐性ができたからか少し苦いだけで何も感じない。さらに耐性が上がるようだったら良かったけど、さすがに望みすぎだったようだ。


 やっぱり一つ課題があるな……

 耐性は付くけど、攻撃する手段が足りなすぎる。

 あの大ムカデとかどうやっても攻撃が通る気がしない。

 レベルを一気に上げられれば何とかなる気もするが。

 あとは魔法でも使えればいいんだけど……

 

 きっと何か方法があるはずだ……



◇◇◇



 この洞窟は奥に行く程、下に向かって潜っていく作りをしているようだ。

 それにさっきから洞窟内の温度が上がってきている。

 これ、マグマとかあるんじゃないのか……


 なんてことを考えてたら本当にマグマがあったよ、しかも視界一面。

 狭い通路を進んでいたら、突然広間に出たと思ったら、広間の半分はマグマの沼だった。


 これはチャンスかもしれない……

 新たな耐性と攻撃手段が手に入るかもしれない。

 しかし、いくら加護があるからって、マグマの中に落ちたら一瞬で溶けて死ぬだろう。

 女神様の加護は適応力が高いってだけで、適応力を越えたダメージや状態異常を喰らったら否応なしに死ぬだろう。それは間違いないだろう。


 さて、いくつか今後の動き方の候補があるが……


『よし、決めた!』


 俺はマグマの沼の淵に歩み寄る。近付いただけで、息苦しさと酷い熱さで死ぬんじゃないかという気がしてくる。近づくだけで耐性ができていないか確認するが、特に変わっていない。

 さすがにそんなに甘くはないか……


『さて……』


 これから俺がやろうとすることは、少しでも加減を間違えたら死ぬだろう。いや、下手したら加減を間違えなくても死ぬかもしれない。


 リルの顔が浮かび、あの時何もできなかった絶望が胸を締め付ける。


『死ぬことに恐怖はない……けど、ここで死ぬわけにはいかない……』


 マグマ……今の俺の胸にある奴等への怒りの気持ちのようで丁度良いじゃないか。

 俺はおもむろに右手をマグマの沼に入れた……


「ニ゛ャッ!?」


 入れた端から指が溶けた。

 覚悟していた熱さや痛さを感じる暇もない。

 一瞬で体の一部が溶けてなくなる恐怖に、体中の血が抜けてしまったような錯覚に陥る。


「ニャー!!!」


 叫ぶことで自分を奮い立たせ、もう一度ゆっくり右手をマグマに入れていく。

 手首から先が無くなったところで、体毛に火が付いた。

 火が付いたことで、もう引き返せないと覚悟を決める。


 肘までマグマに溶けたが、まだ熱いだけだ……


『このドロドロした熱を必ず……必ず奴等に喰らわせる……』


 え? 熱い? ふとさっきまで熱さすら感じない程だったことを思い出し、自己鑑定をしてみる。

 この段階で何も変化が無かったら、心が折れていたかもしれない。

 「火耐性(大)」が視界に入る。

 自分の腕が今まさに無くなっているというのに嬉しくなる。

 

 焦らないように肘から肩付近までをマグマに入れたところで、熱さを全く感じなくなった。

 自己鑑定してみると、「火耐性(大)」が「火無効」に変わっている。


『やった……』


 確認の為に恐る恐る右足をマグマに入れてみるが、熱くないし溶けていない。

 肩の付け根から先、右腕は完全に無くなってしまったけど、悲しみより喜びの気持ちの方が大きかった。よく見ると全身の体毛が燃えてしまって、見える範囲だけでも酷い見た目になっている。


『リルに会えたとしても、この見た目は気持ち悪がられるだろうな……』


 今はそれより次だ……

 マグマの沼に入り、泳いでみる。粘性が高いからか水の中より泳ぎにくいけど、慣れれば何とかなるだろう。

 次に一度マグマから出て、マグマを口に含んでみる。


『――――!?!?』


 苦しい!! 体の中が……どうにかなってしまいそう……

 何だこれ? 体の内側が石化するかのような感覚……



◇◇◇



『……フゥ』


 しばらくのたうち回っていると、何とか落ち着いてきた。

 熱さが平気だからと甘くみていたようだ……

 よく考えると、マグマって鉱物やらなにやら毒になるものばかり溶けているよね。

 まあ、「毒耐性(中)」が「毒無効」に変わってたからピンときただけだが……


------------------------------------------------------

名前:シュン

種族:ワイルドキャット

レベル:11

体力:18

魔力:19


スキル:「自動翻訳」「自己鑑定」「火無効」「毒無効」「暗視(強)」  


称号:「シャスティの加護」

------------------------------------------------------



 さて、これで少しは攻撃の方法が考えられる。

 三本足になってしまい、ふと「八咫烏(やたがらす)」が頭に浮かんだ。

 八咫猫といったところか……

 だからどうってことは無いのだけど……


 まだ先は長い、油断したらすぐ死ねるのはまだ同じだ。

 気を引き締めていこう……

 




 

率直な評価・感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ