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24.急転


 目が覚めたらクレアの抱枕にされていた。そのクレアごとリルに抱枕にされていたりもする……

 最近、抱枕にされることに慣れてきている俺がいる。


 リルとの穏やかな日々の為にも、今回の脱出はなんとしてでも成功させなければならない。クレアとアルフレッドも俺の想像していた貴族と違って、本当いい人達だしね。

 俺にできることは何だろうか……



◇◇◇



「王都側に抜けようと思う」


 皆で軽く朝食を済ませたところで、アルフレッドが提案してきた。


「現状、森の広さに対して侯爵側は山狩りするには人員不足だとは思う。ただ、だからと言って大人しく待っているだけでは何も解決しない」


 昨日状況を聞いた限りだと、伯爵側つまり味方が山の捜索を開始するとは思えない。そもそも襲撃されたこと自体、まだ伝わっていないのではないだろうか。救助を待つのは無しか。


「そこで、領地側と王都側のどちらに抜けるか悩んだが、王都側の方が巡回兵等の目もあり、侯爵側の監視の穴を見つけやすいはずだ。こちらが徒歩というのは不利だが、一番可能性が高い方法だと思う……」


 アルフレッドの発言の最後の方が少しだけ弱くなったように感じた。どちらに向かうにしろ、数日は歩き続けなければならないし、成功するにしても過酷な道のりになることは想像がつく。

 余程運に恵まれて、馬か馬車を途中で借りることができればベストだが、そんなに上手くはいかないだろう。途中の休息をどうするか等も悩ましいところだ。


「分かりました、携帯用の食料の準備はすぐできるで、向かう方角と大体の距離を教えてください」


 アルフレッドの提案を受けて、リルが準備を始めようとする。

 その後、打ち合わせと準備を並行して行い、午前中の間に出発の準備が整った。



◇◇◇



 森の中、皮製のショルダーバッグを背負った三人の隣を歩く。

 正午過ぎに出発した俺達は王都に向かう為、西に進んでいる。周囲を警戒している為か、体力を温存する為か皆黙々と歩いている。


 魔物との遭遇も無く、三時間程歩いた時だった。

 リルが空を見上げていると思った瞬間、弓を構え空に向けて矢を放った。


「外れた……今の鳥の魔物はこの森では見たことがないよ」


 リルはどうやら鳥の魔物を狙って矢を放ったようだ。リルが森で初めて見る魔物ということに嫌な予感がする。


「この辺りにいない魔物? まさか……」


 アルフレッドが狼狽している。俺が今考えている通りだとすると最悪のケースだろう。


「魔物使いである傭兵団副団長ザールの操っている魔物かもしれない……」


 やはり、その可能性があるのか。見つかった状態で進むのは危険すぎる気がするが……。


「すまない! 一度戻ったほうが良さそうだ。このまま進むと囲まれる可能性がある」


 俺達は出発三時間にして、現状を甘く考えていたことを痛感した。

 来た道を戻り、数日前に雨を凌ぐために使った洞窟に入ることにした。少しでも空からの監視の対策になってくれればと。


「すまない、俺の考えが甘かったせいで迷惑を掛けてしまう」


 洞窟の中で一息ついたところで、アルフレッドが謝ってくる。


「しょうがないよ、これからどうするか考えましょう。とりあえずここは空から見つからないはずだし、今夜は休んで明日行動を開始しましょう」


 リルの言う通りだ。なってしまったものはしょうがない。なんとか状況を打開する方法を考えないと。

 ただ、もう日は暮れてきているし、戻りは緊張の中で急いだこともあって皆体力的にきつそうだ。


「分かった、今夜はここで休ませてもらうことにする」


 俺達は不安の中、無理やり眠りについた……



◇◇◇



 いつもより早く起きたが、すでにリルは見当たらなかった。アルフレッドとクレアも起きていて、その様子を見た感じだと、どうやらリルは外の様子を見に行ったようだ。


 それから少し経つとリルが帰ってきた。


「周囲の様子は特に変わったところは無かったけど、念の為に周囲の罠を強化しておきました」


 空から探索されている以上、下手に動けないし。籠城するにしても救助が来るわけではない。


「リルが伯爵領に行って、助けを連れてきましょうか」


 アルフレッドがここを動けない以上、その方法しか無いとは思っていた。昨日鳥の魔物に矢を射掛けたが、あの鳥が傭兵団の探索だった場合、どこまでこちらのことが分かるのだろうか。鳥の目で見えた物まで分かるとすると、リルの姿を見られてる可能性まである……


「リル殿……すまない、ここまで迷惑をかけるつもりはなかった。ただ、現状を打開する方法が、他に無い。すまないが、危険を承知で頼みたい……」


 アルフレッドが沈痛な面持ちでリルに頼む。クレアは肩を落として俯いている。どれだけ危険なことか分かっているのだろう。


「分かりました! このリルに任せてください!」


 リルがクレアの頭を撫でながら、明るい口調で承諾した。リルも危険な依頼であることは分かっているはずだが、場の雰囲気を明るくする為に、わざと明るく振る舞っているのだろう。リルのこういうところは、俺も頭が下がる思いだ。


「頼む……」


「では、急いで準備をしてニ時間後くらいには出発しますね」 


 急遽作戦を変更して、リルと俺で伯爵領に救援を呼びにいくことになった。


「――ッ!?」


 準備をしようかというところで、リルが洞窟の外へ視線を向けた。

 耳を澄ましてみると、微かだが遠くで動物の大群が走る音のようなものが聞こえる。この世界だから魔物か……

 リルが洞窟の入口から外を覗き警戒している。


 アルフレッドとクレアにも魔物の足音が聞こえているようで、不安そうにしている。

 徐々に足音がこっちに近づくように大きくなってきて、魔物の叫び声が混じるようになってきた。


「罠に魔物の大群が突っ込んで来てる……」


 リルが驚愕の表情で呟いた。


「クソッ! ザールが魔物を操ってやっているってのか」


 魔物使いの副団長は魔物の大群まで操れるのかよ。広い森を魔物の大群でローラー探索する気か……大群の前には罠も尽きるぞ……。

 そうこうしているうちに魔物共の足音は近付いてきた。


 突然、今までの騒ぎが嘘だったかのように魔物共の足音がピタリと止んだ。


「多分見つかった……」


 リルが俺達の方を向いて囁いた。俺達は恐る恐る外の様子を伺う。


「そこに居るのは分かっている!! どうせ結果は変わらねえし、面倒だから大人しく出てきな!!」


 ダチョウみたいな魔物に跨っているニ人の男が見える。声を出したのは背の低い方だが、その圧倒的な威圧感は、今まで感じたことのないものだ。野生の虎に相対した方が、まだマシな気がする。


「ガストマ……」


 存在感でなんとなく誰か分かってしまった相手……アルフレッドが想像した通りの名を呟いた。

 最悪の状況に陥ってしまった……

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