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21.侯爵の陰謀

「有難い、このアルフレッド・ベルモンド、心より感謝する」


 そう言って、アルフレッドが頭を下げた。

 それに合わせてクレアは手を胸の前に組んで、こちらにお辞儀した。


「ちょ……ちょっと待ってください! そこまでされるようなことでは」


 リルがあたふたして、手をパタパタしてる。あたふたリル可愛い……

 あまり人とコミュニケーションを取ってなかったみたいだし、こういうの苦手そうだもんね。

 それより、ベルモンドって確かさっき……


「えっ? それにベルモンドって、領主様の家族?」


 リルも気づいたようだ。 


「私事に巻き込みリスクを負わせてしまう以上、敬意と礼節をもって接するのがベルモンド家の家訓だ。私はベルモンド家当主をしている。だがその事は、君達との関係においては気にしないで欲しい」


 ベルモンド家当主ってことは、この人が伯爵ってことかな。身なりから貴族の可能性も考えていたけど、思った以上の大物だ。しかしそれを鼻にかけないところがいい。


「あと力を借りると言っても、生死がかかる戦いとかではなく、この山の地理や知識での協力を頼みたい」


「は、はい……」


 リルは領主と聞いて少し恐縮しているようだ。でも確かに、この山についての協力ならリルに頼むのは良案のように思う。


「力を貸してもらう以上、こちらの事情は全て話そうと思う。そして、問題が解決した際には、可能な限りの礼をさせていただくつもりだ」


「お礼なんてそんなっ」


 リルはあまり欲とか無さそうだもんね。代わりに俺がしっかり覚えておこう。リルが冒険者になる時とかに役に立ちそうだからね。


「礼のことはまた後でゆっくりと考えてくれてもいい。では、まず現状を伝えたい」


「はい」


「ああー、その前に話し方を本来に戻させてもらう。伯爵になったということで、堅苦しい話し方をしていたんだが、性に合わないからな」


「…………」

 

 リルがポカーンとしている。まあこの人伯爵というより、冒険者の方が似合ってそうだしね。


「俺がベルモンド家の当主になったのは、先代当主である父が三ヶ月前に亡くなった時で、実務上はそこで伯爵となるのだが、正式に伯爵となるのは王都で継承の儀を行ってからになるんだ。今回、王都に向かっていたのはその継承の儀の為だった」


「そうだったんですか」


「そして、クレアを連れていたのは王都の社交界にデビューさせる為だった……」


 アルフレッドは少し渋い顔をした……。クレアを巻き込んだのを後悔しているのだろうか。


「まず領地の事情だが、ベルモンド伯爵領は教会の力があまり及んでおらず、教会や周囲の領主の中にはベルモンド家を敵視している者が少なくないのが実情なんだ。うちは昔から獣人を領地全体で歓迎している風潮があるんだが、それも奴らの癪に触るらしい」


 いい領地じゃん。伯爵領行ってみたいね。


「特に伯爵領と隣接する領地を持つ、ルードリヒ侯爵からは強く敵視されている。先日、街道で襲撃してきた奴らは偽装してはいたが、間違いなくガストマという傭兵団長率いる傭兵団『暴風の蛇(ギガンテス)』だった。ベルモンド家の情報網で侯爵領に以前から『暴風の蛇(ギガンテス)』が滞在していることは掴んでいた。さらに侯爵領には侯爵の娘婿として俺の叔父がいる。この叔父は父の弟なんだが、父がいた為に継承できなかったことを恨んでいて、境界近くの町同士の小競り合いにも絡んでくることがある厄介な奴でな」


「…………」


 リルも俺も黙って真剣に聞いている。


「ここからはそれらの状況を元に推測を交えるが、侯爵は今回の継承を機に、俺を排除して叔父をベルモンド家の当主に据えようとしているのだと思う。叔父が当主となれば、伯爵領は実質侯爵の手足となるからな。タイミングと襲撃者が『暴風の蛇(ギガンテス)』だったことを踏まえれば、大きくは間違っていないはずだ」


「一度、他家に入った方を戻すことなんてできるのですか?」


 リルが聞いたが、それは俺も思った。


「普通は難しいが、中央の有力貴族の何人かを買収すれば、体裁上はなんとかできてしまうだろう。特に侯爵はその手の工作を得意とするし、教会勢力はあちら側に味方するだろう。俺を殺して行方不明にした上で、叔父の継承権を主張しようとしていた可能性が一つ。ただこれだと余程上手く中央で工作しないと、継承者無しで伯爵領が国の一時預かりになる可能性が高い。侯爵達にとって一番望ましいのは、俺が継承を拒否し叔父の継承を認めることだろう。だが、俺が叔父の継承を認めることはない。そこで裏技になるが、奴隷紋で俺を支配下に置いた上で、叔父の継承を認めさせることだろう」


 ファンタジーよろしく奴隷はやはり存在するようだ。中央って王都のことだよね、ドロドロした中枢の権力争いは関わりたくないね。


「奴隷にするのは簡単なのですか?」


 俺も気になった事をリルが質問した。


「必要な人材・道具を揃えることができるなら、あと必要なのは時間だ」


「時間?」


「ああ、奴隷紋を刻むには描いた魔法陣の上に、対象者を七日七晩置くようにしなければならない。普通にしてたら、魔法陣から逃れられてしまうから、拘束するなりして魔法陣の上から動けないようにするんだ」


「…………」


 ラノベとかのファンタジーの定番である奴隷。この世界ではそういう方法なのか。


「おそらく侯爵達は俺の奴隷化を目論んでると思う。だから俺達は、なんとかして追手を撒き、伯爵領まで戻るか王都まで逃げ切らなければならない」


 なるほど、現在は山に入ったことでなんとか追手を撒けてるけど、伯爵領と王都への道は監視されてるというわけか。


「事情は分かりました。山に関しては力になれることもあると思います。力を合わせてなんとかしましょう」


 リルの発言を聞いてアルフレッドは少しほっとした表情をした。クレアはキラキラした目でリルを見てる。

 

 いつもの住み処までの帰り道、アルフレッドから街のことや世の中のこと等いろいろと話を聞くことができた。

 それをリルは興味深そうに聞いていた。

 

 

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