19.アルフレッドの受難
「はぁ……、美味しい」
クレアは食事をしてやっと人心地がついたようだ。
リラックスしている姿は年相応に見える。
食事は俺がリルと出会った時に作ってくれたスープに似ていて、あの時の春菊のようなのと、細かく刻んだ肉が入ってる。
この春菊は疲労回復の効果とかあるのかもしれない。
「リル殿、食事と呼べるものを食べたのは五日ぶりだ、感謝する」
アルフレッドも、満足そうにしている。
そうだろう、そうだろう。リルの作るご飯は美味しいのだよ、ちょっと自慢気な気分だ。
俺達は焚き火を挟むようにして、リルの正面にクレアとアルフレッドが並んで座っている。
俺はというと、定位置であるリルの膝の上だ。
しかもリルが手ずからスプーンで俺の口元までご飯を運んでくれている。
クレアがニコニコしながら、こっちを見ている。
「まず、私達がなぜ森の中にいたのかを話してもいいだろうか」
「はい」
アルフレッドが事情を説明してくれるようだ。
「私達は所用があって伯都ベルーナから、王都ラウルバーグへ旅をしているところだった」
リルが頷く。
リルは周辺の地理をある程度は両親から教わっていると言っていたが、知っている地名なのかもしれない。
「あれは、伯都から王都までの街道を十日程馬車で進んだ時のことだった……。」
アルフレッドがそこまで話した時、クレアが悲痛そうな顔をした。
その時のことを思い出しているのだろうか。
「街道の人気の無い場所で、私達は盗賊に偽装したとある傭兵団の襲撃を受けた……。護衛はつけていたが、多勢に無勢で徐々に討ち取られていき…………」
アルフレッドは歯噛みして続きを話そうとしている。
今の話で気になったのだが、まるでその傭兵団を知っているかのような口ぶりだ。
リルは黙って続きに耳を傾けている。
「いよいよ全滅するというところで、私とクレアを逃がすために護衛と従者が足止めになってくれたのだ。その間に私達は街道から外れ、この森の中に逃げ込み、五日程彷徨っていたところでリル殿と出会ったというわけだ。あの時はクレアを休ませている間に、近くに水や果物がないか探していたところだった」
隠すつもりなのか、とりあえず大枠の説明をするつもりだったのか、所々重要な事を伏せているのを感じる。
リルの方を見ると、分かっているというように、俺に向かって頷いた。
「分かりました。今日のところはゆっくりと休んでください。今後どうするかと、詳しい話はまた明日聞かせてください」
リルのその言葉を聞いて、アルフレッドは感心した様子だ。もしかしたら、大まかな話をして信用できるかどうか、リルを試したのかもしれない。まあ、明日には分かることだろう……。
リルが二人を寝る場所まで案内して、周囲に罠が仕掛けてあるから魔物の心配はいらないことを説明した。
うっかり罠に引っ掛からないように、リルが起こしに来るまでは下手に動かないこと、リルと俺が寝る場所までの間にも罠があるということも伝えた。
こちらが警戒を残していることに、アルフレッドは当然のことというように嫌な顔一つせず受け入れていた。
寝床に入って暫くは無言のリルに撫で回されたが、途中で俺はリルの抱きまくらに転職した。いわゆるジョブチェンジだ。
「おやすみ、シュン」
「クルニャン」
いつもより、リルの抱きしめる力が強かった気がする…………。