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13.美味しい生ハム

 楽しい日になる予感を感じてたら、リルがこっちを見てることに気づいた。

 ……? こっちを見てはいるのだが、目が合わない……

 俺の顔を見ているというより、胸?のあたりを見てる? しかも若干気まずそうな表情をしてる気がする。


 なんだろう?と思って俺は自分の胸を見てみる。


「…………」


「…………」


 2人とも俺の胸を見つめるという変な格好のまま、沈黙の時間が過ぎていく……

 

 胸のあたりの毛が濡れている……

 これは、間違いなくあれだよね? お得意のあれだよね……?

『猫枕』されてる時にいたされたようだ。首から胸にかけての毛が白くエプロン状になっているのは、通称『エプロン』なのであって、『よだれかけ』ではないのである。

 断じて『よだれかけ』ではないのである……。

 

クルルニャーン(よだれおおかみ)!」


「……っ!?」


 あ……なんかショックを受けてる……

 言葉になってはいないのに、何か伝わったのかな……?

 

 フゥ……少し意地悪だったかな……

 別に嫌じゃないし、気にもしてないしね。


 それから十分程、謝られながら撫でられる時間を過ごした。



◇◇◇◇◇


 

 現在、一緒に周囲を見回り中。俺はリルの肩に乗っている。


 周囲の罠に魔物がかかることがあるから、定期的に見回ることにしているとのことだ。


「あ! 見て見てっ! かかってるよ!」


 リルが指差す方を見ると、遠くの方で何か灰色の魔物っぽいものがモゾモゾ動いてる。大きさは一メートルくらいだろうか。


 近付いたら罠にかかっていたのは猪だった。直径二十センチくらいの丸太の先を尖らせたものが、猪の肩の辺りを貫いてる。


 うわぁ……痛そう……迷子になったら、うっかり罠に嵌りそう……

 そんなことを考えてるうちに、リルはサッと近づいて一瞬でトドメを刺した。


「今日は朝からいい日だねっ! ワイルドボアは凄く美味しいんだよ!」


 うん、凄くいい笑顔。兎も美味しかったし、食べるの楽しみになってきたよ。


 罠を設置し直してから、いつもの寝床から少し離れた広場に移動した。猪結構重そうなのに、リルが軽々担いできたよ。


 え? 俺? 後ろをトコトコついてただけだよ……


「ちょうど、五日前に用意してたワイルドボアがあるんだよね」


 そう言って、リルは近くに吊るしてあった肉の塊を持ってきた。五日前から干して水分を抜いてたらしい。その代わりに、今日手に入れた猪を切り分けて干していた。


「これを煙で燻すと、癖になる美味しさになるんだよ」


 持ってきた肉の塊に串を刺しながら教えてくれた。


 おお……! 燻製ではないですか!?


「お肉を固くなるまで干したものの方が長くもつけど、味は断然こっちなんだよ」


 リルが逞しすぎる……

 さすが一人でサバイバル生活してただけある。よくある『無人島に連れていけるならランキング』堂々の第一位、一家に一人リルさんだねえ……

 そんなくだらないことを考えてる間に、リルが手際良く準備を進めてた。


「ちょっとけむいけど、我慢だよぉ」


 リルが目を細めて肉の様子と火加減を見ている。俺は邪魔しないようにジッしている。決して何もできないからジッとしているわけではない……

 その間、お互いに無言だったけど、落ち着いた時間が流れるのは心地よいものだった。


 暫くしたら完成したのか、リルは満足そうな顔をして火を消してから、俺の近くに座った。


 肉の塊を板の上に乗せ、ナイフで薄く切り分け始める。断面は水気が抜けて凝縮したような赤色をしている。

 美味しそう……と唾を飲み込んだところをリルに見られ、クスッと笑われた。


「お待たせっ」


 切り分けた一枚の肉をつまんで、俺の口元に持ってきてくれた。見た感じはちょっと厚めの生ハムに見える。見た目だけで絶対美味しいことを確信しつつ、リルの手を噛まないように肉に食いついた。


「……!?」


 リルがこっちを見てニヤニヤしてる。美味しいでしょと言わんばかりだ。

 悔しいけど……いや、悔しくないな。想像していた以上に美味しい。熟成してるのか、肉の旨味が凝縮してる感じで、噛む程に旨味が増していく。

 さらに燻ったことによる香ばしさが口の中で広がり嗅覚も同時に刺激されてる。歯応えも程良く、生ハムの弾力性と厚切りの満足感を兼ね備えていて、記憶にあるハムよりはるかに美味しい。

 

 リルが自分でも食べながら、こっちが一枚食べ終わるタイミングで、おかわりの一枚を持ってきてくれる。

 味わいながらも何度もおかわりしてると、結構大きかった肉の塊がもう既に半分無くなってしまった。美味しい食べ物が減っていくのって、少し寂しさを感じるよね。


「ここからは違う食べ方にしようか」


 リルが途中の道で採ってた野草を手元に用意した。


「こんな感じでお肉と一緒に食べると、食べやすいし美味しいんだよ」


 幅が細めの野草で肉をくるくる巻いて、リルは口に入れた。肉をサンチュで巻くみたいなものかな。

 俺の前にも野草を巻いた肉を持ってきてくれたので口にする。確かに野草の程よい苦味のおかげで食べやすく、パクパクと三回くらいおかわりしたその時だった。


『!?!?』


 目の前がチカチカする!? 目が回って頭がクラクラする。そして、壮絶な吐き気で気持ち悪い……


『え? な……??』


 地面に倒れるように突っ伏してしまった。


 ふと目の前にある自分の手を見ながら「自己鑑定」してみた。


-------------------------------------------------

名前:シュン (状態:弱毒)

種族:ワイルドキャット 

レベル:2

体力:4

魔力:4


スキル:「自動翻訳」「自己鑑定」  


称号:「シャスティの加護」

-------------------------------------------------


 毒の状態が追加されてる……


 なぜ?

 まさか、肉を巻いた野草が毒?

 毒だったらリルが俺に食べさせるわけないし、そもそもリルは平気そうだし。


 あ……もしかして体が猫だから? 

 ネギ類が猫にとって毒だったことを思い出した。場合によっては死ぬほどの……


 気持ち悪くて辛い……

 でも……リルに心配かけたくない……

 俺が喜ぶと思って好意でしてくれたことが俺にとって毒を盛るようなことだったとリルが知ったら…………


 お腹いっぱいでグデーっと伸びてる風を装おうとする。ちゃんとそんな風に見えてるだろうか……怖くてリルの方を見れない……


 …………さっきより少し症状が軽くなってきた気がする。そう思ってたら、突然気持ち悪さがなくなった。


 視界がクリアになり、体が軽く感じる。


 不思議に思って「自己鑑定」をしてみる。


------------------------------------------------------

名前:シュン

種族:ワイルドキャット

レベル:2

体力:4

魔力:4


スキル:「自動翻訳」「自己鑑定」「毒耐性(小)」  


称号:「シャスティの加護」

------------------------------------------------------


 あ……、毒耐性がついてる。もしかして、「シャスティの加護」の効果? 

 確か…………


------------------------------------------------------

「シャスティの加護」――――尋常ならざる適応力を手に入れる。異世界(どこ)でも生きていける。

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 毒に適応できたってことかな……

 尋常じゃない速度で毒に適応して、耐性ができたって考えることはできるけど……

 そんな風に加護について考えていると……


「シュン? 大丈夫?」


 挙動が変だったとリルに思われてたようだ。


「ニャー♪ クルニャーン♪」


 なんでもないと気持ちを乗せる。

 毒で少しピヨった以外は、美味しい食事だったしね。

 一時辛かったけど、おかげで耐性できたし、トータル完全にプラスでしょ。


 朝からいい日になる予感がしてたけど、やっぱりいい日だったよ。

 生ハムが絶品だったしね。また今度食べたいニャア……



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