10.川で水遊び
チョロロロロ…………
俺の後方で湧き水が流れてる……山だからそういうこともあるよね…………そんな風に思い込もうとしたけど……無理でした…………
猫って耳の形のせいで、自分の手で自身の耳を塞ぐってことができないのね。猫になってこそ分かる猫のこと…………
まあ、耳を塞ごうとする猫自体、俺くらいかもしれないだけどさ……
耳を抑えても、隙間が空いちゃって、音は聞こえてしまう。手を耳の奥に突っ込めば、音が聞こえなくなるかもしれないけど、それは流石に……
まあ何が言いたいかというと。
「ルン♪ ルンルンルルーン♪」
俺を膝に載せて、ご機嫌で鼻歌を歌いながら『お花摘み』をしてる狼っ娘が、油断しすぎな件について!?
なぜかリルは『お花摘み』に行くのに俺を抱えて連れてきた。
まあ本人は猫と傍に居たくて連れてきただけのつもりで、何も気にしてないのも当然かもしれないけど……けど……俺は気にする。振り向いてリルの顔を見ることができない……
耳を塞ごうとして塞げなかった俺は、心を無にして自然の湧き水のイメージで頭を埋め尽くそうとした。そこで冒頭の部分に戻る……
猫って確かにトイレの中でもついて来たりするよね。その猫が人化するようなことがあったら、恥ずかしい思いをするよ世の中の飼い主さん。
その後、リルは何も気にしてない様子で(当然だよね……)今日のお出かけの準備を始めた。
◇◇◇
「今日は川に遊びにいっくよー!!」
「ニャン!」
「ついでに魚が取れたらいいね!」
「ニャーン♪」
そんなわけで、三十分程歩くと川に到着した。
「この川が、シュンの流れてきた川だよ。あっちの方からプカーって流れてきたんだよ」
リルは上流を指差して教えてくれた。気を失ってたから覚えてないけど、そんな出会いの場所だと思うと感慨深いものがある。
「クルニャーン♪♪」
『助けてくれてありがとう』の気持ちを込めて鳴いたら、頭をナデナデされた。
少しでも気持ちが伝わってるといいな。
リルが川用の服に着替え終わったみたいだ。リルが着替えてる間、紳士な俺は川の方を見てたよ。耳が後ろを向いてたのは……気のせいだということにしよう。
振り向くと、リルがなんだか可愛らしいポーズを取ってた。
着てる服は、水着のビキニに似てる。皮製の茶色のブラを皮紐で結んでるものだ。
サバイバル生活してるのに、シミ1つ無い白磁のように透明感のある白い肌。メラニン的にアレだったり、異世界的な何かだったりするのだろうか。
白い肌に革のビキニというリルの姿は得もいえぬ色気がある。それでいて、躍動的でもあるのだから、魅力満載すぎると思うのは俺だけじゃないだろう。
そして忘れてはならないのが、ビキニのボトムの穴からファッサっと出て揺れている尻尾!
俺の尻尾が左右に勢い良く振れて、飛びつきたくてウズウズしてるのは猫の本能に違いない。ネコジャラシに戯れる猫の本能であって、俺の欲望では決してないのだ。
「いっくよー!」
俺はリルにガシッと掴まれた。体力に差があるからだろうか全く反応できず、掴まれた後も身動きができない。ちょっと獲物の気分が分かってしまった俺は悪くないと思う。
そのまま一緒にザバーンと勢い良くダイブした。
「冷たくて気持ちイイねー」
「ウニャー!」
ちょっ!待っ!人間としての泳ぎ方は分かるけど、猫の状態で泳げるかがまだ分からないんだってば!
ただでさえ落ちて流されたばかりで、なんとなく川が怖いんだってば!
「ニャハッ! シュンがホッソリしちゃった」
濡れて毛がペッタリ張り付いてる姿を見て笑われた。
両手で持ち上げて水面から出されている。
まあ……リルが喜んでる姿を見てたら、川が怖いとかどうでも良くなってしまった。
そんな感じで暫く一緒に水遊びをしてる内に、不格好ながら泳げるようになった。完全に『猫かき』で、はたから見たら溺れてるようにしか見えないと思う。
途中、近くを魚が泳いでるのをリルが見つけ、シュパッと手で掴まえた。
『あ……ドヤ顔してるリル可愛い』
こっちを振り向いたリルが得意気だった。
昨日の狩りといい、なんでもできるリルを見て、この世界では『俺TUEEEじゃなくて、ヒロインTUEEE』になる気がした俺であった。
水遊びした後で、川原で食べた焼き魚はとても美味しかった。
『お花摘み』って花を摘んでる姿と見た目が似てるからだったんですね。