1.猫と女神と魂と
「お主はどれが良いのじゃ?」
オレンジ色の髪に猫耳の美少女が、目前の猫に問いかけている。
十代前半に見える幼い少女が、「のじゃ」口調を使うというシュールな光景。
周囲は壁、床、天井全てが白く、その中に立つ少女と目前の猫。
「クルニャ?」
問いかけられた猫は、何の事だかまるで分からないといった様子だ。
「ふむ、分からないなら分からないなりに、本能で選ぶのじゃ」
金色の左目、青色の右目、神秘的なオッドアイで選択を迫る少女。
「クルルゥ……」
薄茶色の長毛が愛らしい仔猫は、困っているようだ。
「さあ、『普通の猫』 『犬』 『遠く別世界の男』 『ドラゴン』の中からお主の魂を選ぶのじゃ」
少女と猫の間には薄青色の玉のような物が四つ並んでいる。
どうやら少女が言った四種の魂のようだ。
少女の猫耳がピクピクと動いている。
「猫女神である妾、シャスティのオススメはソレ……なんじゃが、皆が『普通の猫』を選びよるからのう……。体は魂に引っ張られるというか……」
このシャスティという名の少女。
猫を司る女神である。
全ての猫がこの神界で魂を選ぶことによって、世界に猫としての生を受けるのである。
選ばせるという形式を取ってはいるが、ここ数億回はずっと『普通の猫』を選ばれ、シャスティにはもはや期待する気持ちは無いように見える。
「クルニャン」
クンクンと四種類の匂いを嗅いでいる猫。『普通の猫』の魂の前でヨダレを垂らしている様子は、それを本能的に好物と判断しているかのようだ。
その時、四つの玉の内の一つが輝き始めた。「こっちの魂が美味しいよ」と言わんばかりの輝き。
「ほ!? ちょ、ちょ!? え? こんなの初めて……」
慌てる女神を尻目に、玉の輝きが増す。その輝きはまるで、別の世界から光が移ってくるかのようだ。
「クルルン!」
猫が輝く玉に飛びついた……。
玉が猫に溶け込み、猫自体が淡く輝いてるかのようだ。
光は徐々に落ち着き、猫の体内に吸収されたように見える。
「フゥ……ビックリしたわ……。お主が取り込んだのは『遠く別世界の男』の魂じゃ。もはや普通の猫として生きることは叶わないじゃろう……。お主が何を成すか見届けさせてもらうぞ……」
猫女神シャスティは独り言のように呟く。
どことなく嬉しさと寂しさが混在しているように見える。
「せめてもの妾からのプレゼントじゃ。『自動翻訳』 『自己鑑定』そして妾の『加護』を授けるぞ」
猫の頭を撫でながら語りかけるシャスティ。
猫は気持ち良さそうに目を細め、フワフワの大きな尻尾をパタパタと振っている。
「そろそろ時間のようじゃ……。頑張るのじゃぞ……」
名残惜しそうに猫を撫でるシャスティ。
猫はその場から徐々に消えていった――。