5話 6月13日の『夢』
今回も過去回。
――またこの夢か。
俺は、無駄に豪華なベッドの上で目覚めながら考える。
どうすれば、この夢は先に進むのだろうか――と。
その夢はひどく不思議な夢で、大きな問題点が3つあろ。
1つ、俺の体が推定7歳の状態であること。これのせいで行動に制限がかかる。小さい体で出来る事は少ない。
2つ、過程は変わるが、結末が毎回同じであること。これに関しては割と深刻だった。結末というのは、俺が必ず地下室で死ぬ――、というものだ。
3つ、夢の中に出てくる幼女に俺は――恋をしていること。これのせいで、気が付いたら俺はロリコンになってた。無論、現実世界――日本において非常に住み難い。
結果、起床後に現実の体に激痛を与える夢は何とかしたいが、少女にはどうにかして会いたい、という矛盾が生じる。
少女に恋をしていると自覚した途端、夢から解放されたいという気持ちは薄れた。現状維持でも構わない、という気持ちが心の中に少しでもある俺は、真剣に問題解決をする気が起きない。
それでも、せめて地下室に行かない方法はないだろうか――、と行動するのだがうまくは行かない。
とにかく先に進みたい。どうにかしたい。
「今回はどう動くかな」
これまた無駄高い天井を見上げつつ、これまでにわかっていることを整理する。頭に鈍い痛みを感じる――。
これから先、必ず起きる出来事は、爺さんとそのメイド、少女と俺の4人で行われるおやつタイムもとい茶会。そして少女と遊んでいると、一定の時間経過でメイドに引きずられるように地下へ行き――。
「どーうごくのー?」
思考の途中でいつものように、無駄に広い寝室で、少女に声かけられる。
部屋の隅にあるドアは無駄に重い。7歳の俺と可愛い少女の二人では、この部屋を出る手段はない。小さい俺にとって障害の1つである。屋敷の扉はどれも重たく、自由に開けることが出来なかった。
返事をしようと正面を向いたが、今回そこにはいない。
少女の外見をわかりやすく端的にいえば、ゲームにいるようなエルフである。現実離れしているので、間違いなく夢だと断定できる。――俺の妄想力によって生み出された『夢』という可能性は、7歳の誕生日から一定間隔で見ている『夢』なので多分違う。もし、これがすべて俺の妄想だとしたら7歳の段階で俺の頭はマジヤバイ。
幼いながらも、美人であることがわかる顔、透き通るような肌の白さ、細長い耳。そして、いつも通り顔以外は、黒い霧のようなものをまとっていて、服装などは確認することができない――はずだった。
俺がベッドの右側を見たとき、その違いに気が付く。今回、彼女には黒い霧がない。頭痛が酷くなった――気がする。
「おはよーユート。あたまだいじょーぶー?」
一応言っておくと夢の中での俺は頭、正確には左目を怪我している。外見からは左目を抑えつけるように、包帯が頭に巻かれている。ので、頭を怪我しているようにも見える。
決して、今日18歳の誕生日を迎えたというのに、ゲームやアニメに没頭する超インドア派のロリコン野郎である俺の「頭」を心配しているわけではない。と思いたい。
彼女が黒い霧をまとっていない理由を考えながら、惚れている相手に頭大丈夫?と言われたことに毎度のことながら軽くショックをうけつつ答える。
「だ、だだ、だ大丈夫だよ?。おはよう」
いつもより動揺しているのが自分でも分かる。
――どうして黒い霧がない?
落ち着け――。
少し冷静になって、彼女を観察する。
パッと見たところ概ね俺の想像通りの可愛さだった。7歳以上だと思っていたが、全体的に小さい。どうやらお姉さんぶっていたから年上だと思い込んでいただけらしい。お姉さんぶる幼女可愛い。
何?その首を傾げる動作。
ヤバイ。今までは顔しか見えてなかった。
これまでの彼女の動作は、霧に阻まれていて雰囲気と顔、霧の小さな動きで推測していた。
はっきりと見えるようになっただけで、可愛さがヤバイ、動悸がヤバイ、理性がヤバイ、珍しく頭痛があるからか?アタマが仕事をしてない。よく見ろ、想 像 以 上 に 可 愛 い。
俺は、今日、本物の、天使、を見た――。
「?いつもよりへんだよー。ほんとーに、あたまだいじょーぶなのー?」
俺の顔を心配そうに見ながら再度尋ねられ、俺の理性が――とんだ。
「天使!天使!天使!天使ぃぃいいいうわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!天使天使天使ぅううぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくんんはぁっ!天使たんの金色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!」
「てぇい」
天使に頭を軽く叩かれる。クッソ可愛い声と軽いチョップが頭に響く。
痛みで少し冷静になった俺をジッと見てくる。――目が痛い。
「…え!?見…てる?肩だし白ワンピースの天使ちゃんが僕を見てる?左腕に包帯を巻いた天使ちゃんが僕を見てるぞ!ジト目も可愛い天使ちゃんが僕を見てるぞ!腰まで伸びた長い髪の天使ちゃんが僕を見てるぞ!!」
「きぃーてるのぉ!」
「ぐふぇっ」
再度叩かれ、先ほどよりも強い衝撃に左目がズキンとする。脳が揺れる。
そんなことより、
「金髪エルフの天使ちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!いやっほぉおおおおおおお!!!僕には天使ちゃんがいる!!やったよセリィ!!ひとりでできるもん!!!へ、碧眼の天使ちゃあああああ……」
魂の咆哮を叫ぶように口走る視界の端で、天使が拳を固めているのをとらえて、途中で咆哮が止まる。
頭痛は大声を出したせいなのか、結構深刻なレベルになっている。
今、グーで殴られたらマズい。やっと冷静になる。なりました。
「えっと、冷静になったから殴らないでください。ごめんなさい」
基本的に彼女は謝れば許してくれる。今までの経験でわかっていることの1つだ。
謝れば許す。まるで天使だな!……天使だった。
しかし、今回は違った。
「……れなの?」
「?」
「さっき言ってたセリィって誰なの!」
嫉妬?嫉妬なの?ねぇ天使ちゃん嫉妬してくれてんの?
今日の天使ちゃんマジ天使!!めっちゃ怒ってくれてる!俺幼女に怒られて喜ぶ性癖があったのか!新しい扉が開きそう!
……マジで落ち着け俺。
自分の好きになった子が、自分のことを好いてる――。
そんな都合の良いことあるわけない。もし仮に彼女が俺を好いていても、目の前の少女の「好き」と18歳の俺の「好き」は絶対に違う。
だから、これは嫉妬じゃない。いつもみたい言葉を伸ばして話さない。本気で怒ってる。
――落ちつけ。何故か今日の俺はテンションがおかしい。
ふざけたことを口走らないように気を引き締める。今更ながら左目が熱い――。
「俺の妹だよ」
瀬里は俺の妹だ。超可愛い。多分、現実世界で一番可愛い。4歳児。
小さい娘はみんな可愛いが飛びぬけて可愛い。
しかし、俺はシスコンではない!……ロリコンの自覚はある。
この間トイレを言葉通り、1人でできるようになったらしい。「ひとりでトイレできた!」報告に来た時の瀬里はマジ可愛かった。天使だった。
実際は母さんの介入があったらしいが瀬里が1人で出来たと言うなら1人で出来たんだ。
「っしらない!まえにいもうとは、ハルだけっていってたのに!」
今にも泣きそうな声で怒鳴られる。
春も俺の妹で少し前に15歳になった。中学三年生である。
俺と同じ高校に行く予定らしい。成績が足りないという理由で今年の2月頃、親に押し付けられた。水泳ばかりしていたせいなのか、色々とヒドイ有様であった。俺は妹に更に嫌われる覚悟を決め、スパルタ教育を行った。休み中にみっちりと教えてやったかいもあってか、この間のテストではあっさりと成績上位者になった……数学を除いて。未だに「ゆー兄ぃ勉強教えて」と言ってノックもせずに部屋に侵入されるのは慣れない。俺も年頃の男である。……心臓に悪い。というかそもそも水泳の推薦とかで高校入り放題だろお前……。全国でメドレー4位の実力者なんだから。
春は我が妹ながら可愛いと思う、怒っていても当然のように可愛い。黙っていれば美人だとも思う。勉強を見る時にはハッとさせられた時もある。しかし!ロリコンである俺にとって、春は既にBBAの領域である。
BBAは身勝手で嫌いだ。春も当てはまるが、春は可愛いかる許す。特別扱いの自覚はあるが、断じてシスコンではない。
そして、俺はシスコンではなくロリコンである!
それを証明する為、少女に謝る。
「申し訳ありませんでしたぁぁああ!」
誠意を示すべく、ベッドから降り即DOGEZAである。勢いが良すぎたのか――脳が揺れる。
俺と彼女が家族構成についての話をしたのは、多分俺が8歳位の頃。まだ瀬里はいない。
そして、この夢の時間は恐らく、10年前初めて見たあの日で止まってる。
地下に行く前の記憶は、少女に引き継がれるようだが詳細は不明。
故に少女の視点では『この間、家族の話をしたのに妹を1人紹介していない』ことになる。
そして、当然瀬里の事は知らない。
「瀬里の事は言い忘れてました。本当にごめんなさい!」
さらに床に頭を擦り付ける。アタマが痛い――。
話の内容は自体は無論ウソである。俺が瀬里を忘れたことなど一度たりともない。この間も瀬里の事を考えてて電柱に頭をぶつけたばかりだ。
DOGEZAが効いたのか、少女は少し落ち着いたようだ。
「ほんとぅに、いもうとなの……?」
「本当に妹です。この間4歳になりました」
何の報告してんだ……俺。――脳がユレテイル。
「……いいよ、ゆるしてあげる」
思っていたよりあっさりと、彼女のお許しをもらう。
なんで怒ってたんだろうか?
「それと、わたしのなまえは、エリス。てんし、じゃなくてちゃんとエリスってよんでっ!」
あぁ、それで怒ってたのか――。
彼女に許されたと分かった途端――、体の力が抜けた。
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薄く目を開く
ミミナリガヒドイ――。
彼女がいや、エリスが俺を抱えて何かを喋っている。
ナニモ、――ナイ。
今にも泣きそうな顔で、話しかけている。
ヒダリメガイタイ――。
部屋のドアが開いていて、爺さんがこっちをミテイル。
ミギメモイタイ――。
目を開いているのが辛い。
ミギテハアタタカイ。
もう一度、爺さんをミタ。
ワラッテイル……?
――が俺の顔を濡らす。
頭が――痛い。言わなければ。
痛い頭が――。彼女の名前を。ツメタイヒダリテガ――。
脳が痛い……?エリスと呼んであげなければ。
――アタ……マ――が――。
そして、――が俺の右眼に沁み込んだ気がする。
「……エ…リィ……」
声が出ない。まるで、誰かに――を直接、押さえつけられてるようだ。
声が出ないので右手に力を込める。
「……ってる」
耳鳴りが和らいだのか声が聞こえた――、気がする。
「―――――――――――――――――」
声が聞こえた気がする――。
「―――――――――――――――――」
もう一度聞こえた。気はしない、聞こえた。
「待っ……て…ろ、迎え…に、行く――。」
声も出た。気がするじゃなく、絞り出した。
エリスはうなずいたし、視界の端の爺さんは、上がっていた口角更に上がった。
「―――――――――――――――――」
そんなに何回も言われなくても大丈夫だ。――任せろ。
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そして、酷い頭痛だが俺は、初めて地下に行かずに不思議な夢から眼が――醒める。
――左眼が――痛い。
脳が――揺れる。
頭が痛い――。
「エリスに、会いたい――」
普通のベッド、普通の天井、普通の部屋で、差し込む朝日をうっとうしく感じながら俺は目覚めた。
ケータイを起動、日付を見る。
示す日付は6月13日。
俺は、今日18歳になった。
異世界に転移する日の朝の話。




