1話 怖いおっさん
「おい、兄ちゃん何買うか決まったか?」
声の聞こえた方に目を――、左眼を向ける。
そこには、頭にタオルを巻いた、大男がいた。
<ダリス・リード/性別:男/種族:人族/年齢:34歳/職業:果物屋……>
文字が空中に並んでミエタ。
なるほど、『ナンデモミエル左眼』とやらは、きちんと仕事をしていた。
左眼の『魔眼』を検証する為、もう少し観察を続ける。
緑色の服に身を包んだ大男は、服の上からでも分かる程に筋肉だった。手も超太い。脳筋っぽい見た目だ。強そう。……にしてもでかいなこの人、二メートルくらいあるんじゃねーか?
<身長197センチ>
と出た。……どうやらこの『魔眼』は頭で考えた情報も見せてくれるらしい。
と――観察を続けていたら。
「おい、兄ちゃん聞いてんのか?」
睨まれた。やべ、ちびったかも。
このおっさん絶対元軍人とかだ。右眼に眼帯してるし、良く見たら左手には黒い手袋つけてる。怪我が原因で退職して、退職金で果物屋開いたとかきっとそんな感じだ。
にしても、接客するにあたって、容姿が怖すぎる。俺が子供なら泣いて逃げ出してるぞ。
とにかく何か買おう。少なくとも、このマジ怖いおっさんから逃げる勇気は俺にはない。
幸いこの世界の金はこっちに来る時に『ガンマ』に貰っている。
並んでいる果物を見た。桃に似ているが別の物だと断言できる何か。紫色のリンゴ。深い緑色をしたパイナップル。食べたら状態異常『毒』になりそうな、トゲトゲした果物――、に視線が止まる。
左眼でミルことにする。魔力を込める。
<バリスットの実>
情報少ねぇ!
これじゃ判断できねえよ!
左眼さん?仕事して!
おっさん、いや、ダリルの視線が俺に刺さっている――気がする。怖くて見る気にはならん。
やべー、さっきジロジロと観察してたのが気に障ったのかもしれん。怒ってる気がする。
俺だって人にジロジロ見られたら嫌だ。「人にされて嫌なことは、人にしない」実際に守れてる人はどれぐらいいるんだろうか。と、考えながら――。
「このバリスットの実を、3つくれ」
言っちまった……。
視線の圧力に負けた。
凄くヤバそうなトゲトゲ果物の名前を――。
いや、果物屋にあるんだ。きっと食える、実は超美味い。俺、知ってる。
決してジロジロ見た罪滅ぼしの為、ヤバそうな奴をあえて食べようと思った訳ではない。……大丈夫だよな?
「えっ……いいのか……?」
ちょっと待て、何だ、その反応?
毒か?食ったら体が痺れる毒でもあんのか、バリスットの実?
今、見た目ヤバイけど、頑張って食べる覚悟決めたのに……。
いや、覚悟決めたし、食べるか?
ダリスの顔が、正気かコイツ?って目で俺を見てる。眼が合う――。
<正気かコイツ?……アタマダイジョウブ?>
だめだ。ヤバそうな気がする。
というか、左眼、今仕事すんな、傷ついたぞ。心が。
容姿が怖いだけで実は良いおっさんかもしれん。本当に怖いおっさんなら、ヤバイ果物を欲してる俺を止めたりしない。とか考えながら目標を変える。
緑のパイナップルをミル。
<パスット>
情報が少ない……集中する。味は?食えるのか?
<パスット/味:すっきりとした甘さ>
おぉ、情報が増えた。
すっきりとした甘さらしい。これだ。
「すまん……やっぱりパスットにする、3つくれ」
謝罪しつつ、果物の名を言う。ちなみに3は俺の好きな数字だ。
「あぁ、銅貨9枚だ。それにしても、バリスットを食べる物好きな人間だと思って焦ったぜ。」
……どうやらバリスットは、人間の食い物じゃないらしい。毒ありそうだもんな……。
オレ、アタマ、ダイジョウブ。
バリスット、ゼッタイ、タベナイ。
バリスット、ダメ、ゼッタイ。
ガンマに貰った袋を見て、銅色の貨幣はないようなので白い貨幣をダリスに渡す。
「おい、兄ちゃん寝ぼけてんのか?本当に貰っちまうぞ?」
何か間違えたらしい。
ダリスの持ってる貨幣をミル。
<白金貨>
俺が銀貨だと思って渡した貨幣は、白金貨、というらしい。
袋の中身をジャラジャラ鳴らして、混ぜながら良くミタ。
<白金貨29枚、黒金貨15枚、金貨45枚>
と出た。どうやらこの左眼は、枚数確認もしてくれるらしい。
金貨しかない――。
「すまん、間違えた」
言って金貨を渡して、白金貨を返してもらう。
「金貨しかねぇのか、兄ちゃんの財布には……」
箱、おそらく貨幣が入っている物――をゴソゴソさせながらあきれ気味に言われる。
そんなダリスを、黙って白金貨を銀貨の値段で計算して、貰っとけばいいのに、と思う。
ダリスはどうやら善人らしい。
「すまん……」
あと何回、俺はダリスに謝れば良いんだろう。
と、3度目の謝罪をしつつ思う。
少なくとも、好きな数字の数だけ謝罪をする趣味は俺にない。
「いや、かまわん。俺の配慮が足りてなかっただけだ。家の中に入ってくれ、釣りがここにある金だと足りねぇ。」
俺の想像以上に金貨の価値は、高いらしい。
対応が紳士だ……。
ダリス。身長高いし、顔も怖いからって、視線に恐怖を感じて、ごめんな。
一目見た途端、「何か買わないと殺される」とか思ってゴメンな。
あんたは、良いおっさんだよ。
というか配慮って、何の配慮だ?
「シェリー!悪いが少し代わってくれー!」
ダリスが振り返って、扉を開けつつ、大きい声を出す。
その間に少し辺りを見渡す。
市場のような場所に俺はいた。後ろの店には、野菜が並んでる
上を見ると、看板には、<リード・フルーツ>と書かれてる。見たこと無い字だ。少なくとも日本語ではない。 この国の字、読めるんだな俺……。
今更ながら言葉も分かるし、きちんと喋れてるようだ。いや、日本語で伝わっているって考えるべきか?
読む事は出来るけど、この国の文字書けるのか俺?それとも日本の字で言葉同様、相手に伝わってくれるのか?後で確認しないと。
屋台の裏の家は、どうやらダリスとその家族が住んでいるらしい。
歩いて5分で職場に着くとか羨ましい。
「今、行きまーす」
声がして、扉の奥から美人が現れる。
<シェリー・リード/性別:女/種族:ハーフエルフ/年齢:67歳/職業:果物屋……>
年取ってるのに、凄い美人だった。多分、左眼で見なかったら20代だと思ったんだろうな……。
エルフ補正って凄い。
「おい、兄ちゃん行くぞ」
ダリスに言われて歩き出す。手にパスットを3つ持ってる。器用かつ、力持ちである。
通りすぎる途中で、シェリーさんに会釈されて綺麗な銀髪が揺れた。
俺も会釈しつつダリスに続く。
「どうだ?すげぇ美人だろ?」
家に入ったところで振り返りながらダリスが言う。
笑顔がまぶしい。苗字が同じみたいだし、夫婦か。
輝く笑顔、ダリスマイル!って感じだった。
正直、少し怖い。
「えぇ、羨ましいです」
凄い美人だと思ったし、正直に答える。
「ガハハハ、そうだろ、そうだろ、今でも近所の男達に妬まれて大変なんだ。シェリーに初めて会ったのは俺が22の時でな……」
ダリスの嫁自慢は途中から聞こえない――。
ダリスの家の奥、リビングに、少女がいた。
少女が――いた。金髪美人の少女が――いた。
<シェリス・リード/性別:女/種族:エルフ/年齢:6歳/……>
「パパおかえりー」
可愛い声に脳が溶ける。
ああ、俺がパパだよ。ただいまシェリス。
そんな、クソ気持ち悪いことを考えながら彼女を観察する。
というか、種族がハーフエルフじゃなくて、エルフになってる。
アイエエエエ! エルフ!? エルフナンデ!?
「おぉー、ただいまシェリスー、いい子してたかー。」
「うんっ」
「そっかーえらいぞシェリスー。二階で兄ちゃんと仕事の話するから、すこーし、待っててなー。
こっちだ、行くぞ兄ちゃん」
言ってダリスが俺を、促す。
声を伸ばすなおっさん、気持ち悪いぞ。
「ばいばい」
少女が俺に手を振る。
何?その仕草、超可愛い!
その金髪モフモフしたい!
ダリスが階段を上り始めたので、俺も続く。
「どうだ、シェリスは可愛いだろ?」
「えぇ!超羨ましいです!」
超羨ましくて、即答する。思わず大きい声が出てた。
今は、階段を上り終わって廊下を歩いてる。三階もある様だ。
「お、おぉ、そうだろ……」
引かれてるのが、分かる。
やばい、俺がロリコン野郎だって速攻でばれたな。
釣りをもらって、通報される前に帰ろう。
「ここだ」
言って、扉の鍵を開けている。重そうな大きい扉だった。
どうやら、二階の角が仕事部屋らしい。
「座ってくれ」
言われて、果物と書類に囲まれた部屋のソファーに座る。
部屋にはやたらとでかい絵が飾ってあった。裏に隠し金庫とかありそうだ。
対面には、仕事机に乗っていた小さな金庫と店から持ってきたパスットをテーブルに置いたダリスが座る。
部屋の奥にパスットが大量に積まれてるのが目に入る。
<パッスト/味:渋い/状態×>
と出た。状態が悪くなると味は渋くなるらしい。?パスットじゃなくて、パッスト?別種類か……パチモンか?
「ほれ、釣りだ」
言われてテーブルをミル。
<赤銀貨9枚、銀貨9枚、青銅貨9枚、銅貨1枚、パスット3個>
と出た。貨幣の種類多過ぎぃ!
「あぁ、ありがとう」
言って貨幣を取ろうとすると――。
「なあ、兄ちゃん貨幣の価値ちゃんとわかってるのか?」
気持ち鋭い声で、聞かれる。
ダリスをミル。
<わかんねぇんだろ。お前は初めて会ったシェリーと同じ空気をまとってるぜ>
と出た。




