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17話 灼熱魔法プロミネンス

最低でも週に一回は更新できるように頑張ります。

「ユートはすごいねー、触っただけで武器だってわかったんだ?」


 違うんだラーズ。

 持とうとして持てなくて、それが信じられなくて信じたくなくて魔眼を使って確認したんだ。

 その結果が武器だとわかったんだ。

 俺は凄くないんだよ。


 正直に話すか。ステータスを知られた後だ。

 これぐらい言っても良いだろ。

 というか言おう。

 オレ、ラーズニ、ウソツカナイ。


「ラーズ、俺ラーズに言わないといけないことがある」

「うん、なーに?」


 言いながら首を傾げるラーズ。

 か、可愛い!ラーズさんマジ可愛い!

 俺と結婚してください!


 ……いや、違うから。そうじゃないから。

 何言おうとしてんだ俺。

 それを言うのはもう少し先だろ。


「俺、このコート以外の武器と防具を装備出来ないんだ」


 このコート以上の装備なんてあるわけない。

 それに、どこにあるかもわからない『厨二コートと一緒に装備出来る剣』の捜索なんてやってられない。

 俺のステータスは魔術師寄りっぽいし、ちょうど良い。剣なんて必要ない。

 と、なれば、必然的に俺の装備はこのコートだけだ。


 これから先もずっとな。


「はぇ?そうなんだ?……そのナイフも持てないってことなのかな?」

「あぁ、重すぎてとても持てそうにない」


 あれ?果物ナイフは装備出来るんだよな?

 明日から果物生活が本格化するわけだが。

 ……ダメかもしれない。

 ナイフだし、武器扱いな気がする。

 後で装備出来るか確認しよう。……もしかして魔眼で代用出来っかな?

 切断系の魔眼はいくつかあるし何とかなるんじゃないか?

 というか何とかなるな。

 目の前の肉は……机ごと切ってしまいそうな気がするし少し練習してからだな。

 魔眼関係の事もそのうちこの家の人に話さないと。

 今日はステータスの一件でビビられてるかもしれないし、また今度だな。


「そっか、そっか。ふふっ、それじゃあ仕方ないよね」


 言いながら何故かさっきまでアルドの座っていた位置に移動するラーズさん。

 そして、俺の隣の席に座る。何でだ?

 俺の前に会った皿を自分の近くに寄せる。

 俺が使うはずだったナイフで肉を切り分けてる。

 新しくどこかから取り出したフォークで肉を突き刺す。

 俺の方を向く。可愛い。

 微笑んで笑顔。可愛すぎか?


「はい、ユートあ~ん」


 天使か何かなのかいラーズさんは?

 心臓がドキッとして死ぬかと思ったんだが?

 ラーズが肉を突き刺したフォークを俺に向けている。

 とりあえず食ってみるか。このままだと俺の心臓が止まってしまう。


 ラーズの差し出す肉を口に入れ、そのまま租借する。


「……肉の味だ」


 味が、した。

 美味いとか、マズイとかの感想の前に俺が思ったのは『味がした』だった。

 俺がこの異世界に来てから、果物以外で初めて『味』を感じた瞬間である。

 この世界でした食事の回数なんて、初日の夜と二日の朝の二度だけなんだけどだけだから少し大げさだけどさ。

 それでも、食べ物の味がするというだけで何故か感動した。


「それは、ユートがお肉なら食べられるって意味で良いのかな?」


 食べられると思った。

 だって、味がするんだ。

 それに、


「少なくとも吐きそうな気分になったりはしない。……もう一回良いか?」


 もう一度だ。

 今度はちゃんと味わって食おう。


「ふふっ、良いよー。はい、あ~ん」


 差し出された肉を口の中に入れる。

 今度は肉を味わうべく、ゆっくり租借する。

 そして、飲み込んだ。


「うめぇ。肉の味がする。食い物の味だ」


 美味かった。

 あぁ、これが異世界の肉か。

 悪くない。というか美味い。


「ユート、もう一回あ~ん」


 もう一度差し出される肉。


 美味しい。


「ユートあ~ん」


 あぁ、俺この家に来て良かった。

 この肉は普通に美味い。

 きっと値段が高い肉だからだ。

 そして、そんな肉が食べられるのはラーズの家に来たおかげだ。


 ラーズさんマジありがとう。

 俺、頑張るよ。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「で?いつまで私たちは見せつけられればいいのかしら?」


 俺とラーズの共同作業によって、肉が皿の上から姿を消したタイミングでエルダさんがあきれ気味に声をかけてきた。


 しまった!エルフの従者二人に見られてたのを完全に忘れてた!

 というか、居たんならもっと早く言ってよ!

 恥ずかしい!

 ほら、ラーズの顔が真っ赤じゃないか!

 あ、照れてるラーズも可愛い!


「えっ、あ、ちがっ、違うよエウラ!違うから!これは、そう!ユートがナイフ持てないって言うから、代わりにお肉を切ってあげただけで、その、見せつけてた訳じゃないよ?それに、えっと、その」

「ふ~ん?なら肉切ってあげるだけで良かったんじゃないかしら?別に『はい、ユートあ~ん』ってしなくてもよ良かったわよね?」

「いや、それは、その……そう!ユートがもう一回って言ったから!」

「最初の一回目は?」

「え、あれは、……エウラのバカ!」


 そのままラーズは顔を真っ赤にして退出してしまった。


 さて、拗ねて退出しちゃったラーズさんが可愛いのは当然としてだ。

 怖い。特にエウラアさんが殺気を放っている気がして怖い。

 ウソついた途端に魔法ブッパしてきそうな雰囲気がある。

 対照的にエルダさんはそんなに怖くなかった。すっごい見られてるけどこれは多分、素だ。

 というか初めて会った時からずっとこんな感じだ。

 最初は警戒されまくってるからだと思ったがそういうわけでもなさそうだ。……そうだよね?


「で、あなたはこれからどうするか予定はあるのかしら?」


 痛いのは嫌だし正直に言おう。

 コートのおかげで痛くなさそうな気もするけど、気にしてはいけない。

 それに魔法教えて欲しいから仲良くしたい。

 正直に言おう。


「当面の目標は『双頭の炎龍』を倒した後にラーズに求婚ですかね。……その後は、この世界の変異種の殲滅ですかね?」

「何で自分で言ってて疑問形なのよ。……まぁ、いいわ。で、あの子と結婚した後は何をする気なのよ?」

「ん?今言いましたよ?」

「そんな建前はいらないのよ。あの子の権力と金に用があるから結婚したいのでしょう?あの子に何をさせる気なのよ。答えによってはここで焼き殺すわよ」


 わーい。ラーズさんは従者にモテモテだー。

 従者にここまで心配されるとかどんだけあの子好かれてるんだよ。


 しかし、ここまで明確に敵対されるとどう答えてもダメな気がするんだが……。


「俺がラーズ一目惚れしたからラーズが欲しいんですよ。それ以外に理由がいるんですか?」

「……ふざけたことばかり言っていると焼き殺すわよ」

「どうぞ」

「「は?」」


 お、エルダさんもビックリすることあるんだね。

 そして案の定信じて貰えなかった。……そんなに俺って怪しいのかよ。

 いや、怪しいけどさ。ふざけたりしてないって。

 俺はマジでラーズが欲しいんだ。というか、あの子の傍いたいんだ。

 だから、ここは無理矢理にでも納得してもらう。


「どうぞ、と言いました。どうせ俺は死なないですし、一度だけチャンスをあげます。どうぞ焼き殺してください。そのかわり、約束してくもらいます。もし、俺がエウラさんの魔法を耐えきったら今後、俺とラーズの仲を妨害するのも禁じます。さぁ、どうぞ」

「はっ、私が大魔導士だと言ってもかしら?防ぎきる自信があるのかしら?」

「えぇ、エウラさんが実は魔法に優れたエルフだとしても、です。あぁ、約束は守ってくださいね?耐えきってみせますから」

「そう、やっぱりあなたは危険よ。……自分の慢心を呪いながら死になさい」

「!おい、待てエウラ――」


 エウダさんの静止もむなしく、俺の体が激しく燃え上がる。

 呪文を唱えなかったし、無詠唱ってやつか。

 厨二的には「燃え尽くせッ炎熱地獄(プロミネンス)!」とか言って欲しかったな。

 どうせ、無詠唱なんて出来ないと思うし、魔法使えるようになったら俺が言ってみようか。

 あ、そういえばジークも無詠唱だったな。ゴルドフを消し飛ばした時に。

 知力9に負けるってのはなんか嫌だな……。


 はっ!もしかしなくとも俺は「……眠れ」は無理でも「……燃えろ」って言えるじゃん!

 やった!一生無詠唱なんて出来なくても良いって思ったけどこっちの方がカッコイイし頑張って無詠唱できるようになろう!物知りラーズさんなら多分習得法方も知ってる!愛してるぜ物知りラーズ先生!


 あ、そもそも俺の場合は魔眼でやろうと思えば「……燃えろ」は出来たな。

 ま、魔法は別できっと意味があるし!

 えっと、そう!魔眼が同時に使えるのが3つまでだから第四の攻撃手段として役立つし!

 ち、知力9の人みたいに頭が残念なわけじゃないし!厨二心が刺激されて冷静な判断が出来なかっただけだし!

 ……なお悪いな。『双頭の炎龍』と戦う前に一回ちゃんと戦い方考えないと。

 それとジークがどれぐらいアホなのかは後できちんと確認しよう。

 ステータスの知力と現実の知力が連動してるとは限らないし。


 とか、考えてたら火が消えた。

 満足したか?


「なっ!なんで燃えてないのよ!?」


 こんなんじゃ満足できねぇぜ。

 と言わんばかりにもう一度着火される。

 おい、何で二回目の魔法を使ってんだよ?


 ……頭に巻いた布も燃えないんだな。

 昨日ベルフに後頭部を殴られた時も思ったけど、装備してない範囲にもコートの効果があるってことなのか?

 ちょっとこのコート凄すぎない?普通装備と関係ない場所は燃えるだろ?

 盾装備してたら、頭を殴られても平気って事じゃないのかこれ?


 なんでこういう所はファンタジーなのに解毒はすぐ出来ねぇんだよ……クソ。


「……どんな術を使ってるのよ?」


 火はもう収まっていた。

 机とかは消し炭になっていたが、俺の回りは何ともない。

 ……俺の座っている椅子もだな。ふむ?実はこのコート色々とヤバいんじゃないか? 

 実は装備してる人の範囲を守る服なのか?半径1メートルぐらいの範囲で。

 まぁ、さっきのファンタジー説、この世界の防具はこういうものって可能性もあるか?

 でも、このコートならそれぐらい出来そうな気がするよ俺。厨二コートだしな。

 よし、部屋に戻ってあの謎の紙を熟読するか。このコートの事を色々知っといた方が良い気がするぞ。

 昨日はすぐに寝ちまったからな。


 そういえば、俺が臨戦態勢になる前に魔法ブッパかよ。

 大人げねぇなこのエルフ。自分はしっかり立ち上がって、魔法は二回も使うし。

 本当に224歳かよ。マジで大人げねぇぞ。


「教えるわけないじゃないですか。二回も燃やそうとしたんですし、もう良いですよね?あっ、約束は守ってくださいね?俺とラーズが何をしていても今後、一切邪魔をしないでください。じゃ、俺はそろそろ寝たいのでこの辺で」

「灼熱魔法ップロミネンス!」


 あ、マジでプロミネンスって名前の呪文があるんだ。

 灼熱魔法ね。そういう厨二的な魔法名は好きだぞ。

 明日一日かけて知らべる項目はこれで決まりだな。

 早く図書館に行きたい!俺もプロミネンスしたい!


 というか、外に出ようとした人を後ろから魔法攻撃って完全に殺す気じゃないか。

 俺、どんだけ嫌われてんだよ。


 さて、さっきの二回と違って少し熱いかな?昨日の全身ドライヤーよりはマシだけど。

 ん?そういえば、昨日全身ドライヤーされた時はちゃんと弾かなかったってことだよな?

 どういう基準で相手の魔法を弾くんだろうか?……敵意とかか?

 この辺りもきちんと調べないとな。そのうち「敵意のないじゃれあい」でベルフに殺されかねん。

 本当に「稽古付けてくれ兄貴!」とか言われたらどうすれば良いのかね?


「はぁはぁ、これで――」

「おいっ、何をやってるんだエウラ!よりによってプロミネンスなんて!こんなことをしたら屋敷が……主人がどうなると思っているんだ!」

「何を言ってるのよエルダ!セバスが何とかするわよ!そんなことより、この男は危険よ!あの子の為にもこんなのはここで殺した方が良いに決まってるわ!あの子と結婚したいだなんてふざ――」

「おい、それ以上言ったら怒るぞ?いや、もうだいぶキレてるけどさ」


 振り向きながら、右眼(・・)でプロミネンスを、炎を収納(・・)した。

 ふむ、良いなこの魔眼。

 右眼がダメになったのは残念だけど、仕方ない。

 魔力量の問題も何とかなってるしな。うん、便利だ。

 これからも重宝しそうだな。


「なっ――」

「……ユート殿、それ以上とは?」


 エウラさんは信じられないって表情だな。

 よっぽどプロミネンスって灼熱魔法はヤバイらしい。

 あとでどこに捨てるか考えないとな。……このまま奥の手として収納しとくのもありか?

 ありだな。そうすれば疑似的に魔法が使える。……片目をダメにする価値はあったな。

 明日ジークに協力してもらって爆裂魔法もたくさんしまっておくか。

 おぉ、夢が広がる!さっきのの二つの魔法もしまっておけばよかった。


 ……こういうのを考えるのは後だな。


「俺がラーズと結婚したいのはマジです。それをふざけたこと、などと言われたら俺は怒ります」


 俺はふざけたりしていない。マジだ。

 それを他人にふざけていると一蹴されればキレる。

 それに3回も攻撃しやがってふざけてんのか。このクソエルフ。

 仏の顔も三度までだっつうの。俺は仏じゃないけどさ。


「ふ、ふざけているでしょう!一目惚れを信じろって言うの?ふざけるんじゃないわよそんなことがあるわけないでしょう!あの子に近づくんじゃないわよ人間のくせに!」


 ……俺が振った女に恨まれたのはこの辺りのせいだったりするんだろうか。

 いつからか、適当にあしらっていた気がする。…………いや、違う。少なくとも俺は告られたから断っただけだ。それに最初の方はきちんと断っていたんだ。それなのにああなった。俺のせいじゃない。あいつらが悪いんだ。それに、最近もきちんと断ってた。けど結果はアレだ……俺のせいじゃ、ない。


 ふざけやがって。

 アレと同じパターンじゃないか。

 何でお前に俺とラーズのことをとやかく言われなきゃいけないんだよ。

 そもそも、まだ告ってすらねぇんだぞ。

 外野は黙ってろよ。

 フラれた後で復讐するつもりとか無いし、そもそもそういうのが最悪だって俺は良く知ってるんだ。

 あんたの大事な「あの子」が嫌がるそぶりを見せたらこの街からいなくなってやるよ。

 だから、黙っていろ。


「ふざけてるのはお前だろ?誰が三回も燃やして良いと言ったんだ?良い歳したエルフのくせに約束も守れねぇのかよ?……燃やすぞこのクソBBA」

「!やっと本性を現したわね!ほら、見なさいエルダ!これがこの男の本性なのよ!あの子が結婚を断ろうものなら復讐されるわ。いいえ、きっとどんな手段を使ってでも結婚する気なのよその男!エルダ、一緒にここでこの男を殺しましょう。二人なら簡単よ。それに、よりによって私を燃やす?ふ、やってみな――」

「あぁ、自分の慢心を後悔しながら燃え尽きろ」


 流石にここまで言われて黙っていられるほど、俺は温厚ではない。

 殺す。この女は殺してやる。目を閉じて考える。

 せっかく譲歩してやったのに、約束を守らない上に後ろから燃やそうとしやがって。

 普通の人間だったら三回目は確実に死んでるっつうの。

 だから、三回だ。この女は三回は炎で苦しませてから……。


「ちょっと、何やってるんですかエルダさん?」


 俺がせっかく殺しのプランを立てていたのに目を開けた時には、エルダさんがクソエルフの事を気絶させた後だった。

 手刀ってやつか?いや、なんて言うんだっけあの技は?とにかく、首をトンってやられたBBAは気絶していた。床に倒れている。

 そして、跪き頭を垂れるエルダさん。


「これで、許してもらえないだろうか?――どう考えても今のはエウラが悪い」

「嫌です。一回目と二回目は自分のせいなので良いですけど、最後の三回目が許せません。後ろからなんて、俺じゃなかったら絶対に死んでたじゃないですか。だから、その人が俺に殺されてもそれは自己責任だと思います。違いますか?」


 この世界は力がすべて、だとしたら俺はそうしてやろうじゃないか。殺してやるよ。


 何より、俺が無理矢理ラーズと結婚しようとしてる。と思われていたのが腹立たしい。

 少し痛めつけて終わらせるつもりだったが、そんなことを言われたら殺したくなるじゃないか。

 俺があんなクソ地球人共と同じな訳がないだろ。ふざけんな!

 殺す。このクソ女を燃やしてやる。

 明確な敵対行為を行った相手は殺しても良いんだろ?

 なら、殺してやるさ。死にたいんだろ?


「俺を最初に殺そうとしたその人が悪いんですよ。……いえ、最後の魔法。あれを使ったという事実が許せない」


 さっき、エルダさんが言った「屋敷が……主人がどうなると思っているんだ!」っていうのは、あのままだとこの屋敷にも被害があったって事だ。

 そのせいで使いたくなかった右眼を使うことになったし、何より。

 この家にはラーズが済んでいるんだ。

 セバスさんが何とかすると言っていたが、下手したらラーズに何かあったって事だ。

 ふざけんな!自分の主人を殺す気だったのか?


 そりゃ、惚れた相手の為なら右眼の視力ぐらい(・・・・・・・・)犠牲に出来るさ。

 これから先、右眼の「眼」としての機能を失ってでも俺はラーズを守りたかったんだ。


 それなのに、このクソエルフは俺をアイツらと同じだと言ったんだ。

 惚れた相手の為だと思い込み、俺を集団でリンチをしようとするような奴らと。

 俺に腕一本折られた程度で惚れた相手に迷惑をかけるような言い訳をして、自分の惚れた相手をイジメから助けようともしなかったヘタレ共とだ。


 許せるわけがないだろ。


「ユート殿の言う通りだ。禁忌の魔法を使い屋敷を全焼させかねなかった。何より、エウラは約束を守ろうとしなかった。何もかもエウラが悪い。だが、許してやって欲しい」

「……ずいぶんとふざけたことを言っていますね」


 今言った事はこの世界のルールに反するじゃないか。

 何より、俺がそれを守る必要がない。

 相手が俺を殺そうとした。この事実がある限り、俺がこの女を許す理由がないじゃないか。

 それを、許せ。だと?


「無論、わかっている。エウラには罰が必要だろう。だが、幸いにもこの家の主人は奴隷商の家だ」


 それは、つまり――。


「何が言いたいんですか?」

「エウラには当然、奴隷になってもらう。そして、私がユート殿のモノに、奴隷になろう。だからエウラの命だけは許してやって欲しい」


 エウラが奴隷にって話はわかる。

 だが――。


「……何でエルダさんが俺の奴隷になるんですか?」

「この場に居たのに、エウラを止めることが出来なかった責任が私にはある。――主人を守れなかった責任も、だ。ユート殿が止めてくれなければ間違いなく主人は死んでいる。あの炎は尋常ではない。煙を一度でも吸い込めば、その場から動けなくなり、一度発動すれば、一万人の人間を飲み込まない限り消える事は無い。そういう禁忌の魔法だ。それを止められなかった私にも罰が必要だ。だから、頼む。私も償う。だから

、エウラを許して欲しい」


 そんなにヤバイ魔法だったのかよ。

 俗に言う「消えない炎」ってやつか?1万人って……。

 一生俺の右眼にしまったままにしておこうか。危険すぎる。


「エルダさんはどうして、エウラに死んで欲しくないんですか?そこまでする理由があるんですか?」


 彼女が俺の、女のエルダさんが、男の俺の奴隷になってまでだ。

 無論、そういう行為を行うつもりは俺には無い。

 でも、彼女の側からしたら、エルダさんはそういうこと(・・・・・・)を覚悟してるって事だ。


 それに、俺だって何かあったら弾みで手を出すかもしれない。

 どこぞの修行僧な主人公達と違って、俺は鋼の自制心なんて持ち合わせていない。

 あっさりと性欲に負けるかもしれない。

 地球の三次元は最悪だし、微塵もそういう気にならなかった。

 けど、エルダさんはダークエルフ。言うなれば、2.5次元だ。多分そういう気持ちになる。

 思い返せば、冒険者ギルドの受付嬢に対するアレだってそうかもしれない。少なくとも地球ではあんなことを考えたりしなかった。

 それに俺はラーズに惚れている。こっちの住人に対して、俺はチョロイのかもしれない。

 もしかしたら、エルダさんに惚れちゃったりするかもしれない。

 ……大丈夫、俺の自制心は実は凄いよきっと。うん。同じくらい地球での反動なのか性欲が凄いけど。

 


 そういうことを理解していない訳ではないはずだ。

 それなのに、男の俺の奴隷に女のエルダさんがなるって言ってるんだ。

 そこまでして助けたい理由は何だよ?


「簡単なことだ。エルフは同族を大切にする。――だから、助ける。それに、エウラは大切な友人だ。死んで欲しくはない。だから――頼む」


 エルダさんの頭が下がる。

 これ以上は無理だろ。というレベルまで下がる。

 というか地面に頭が付いている。……跪いた状態でそれって地味に凄くね?

 むしろ土下座の方が楽なんじゃないその姿勢?



 さて、同族で友人だから助ける。か――。


 例えば、だが、俺はきっと出来ないよ。

 あのメガネが、どっかのチンピラに絡まれてた。ってなら多分助ける。

 けど、この状況……該当しうる状況が地球では発生しないな。

 何かあっても生命の危機なんて日本ではあんま無い。……自分から危険なとこに近づけば別か。


 ……例えばラーズが……あの子凄すぎるし、多分自分で何とかするよな。

 あれ?俺、同じ状況になる事無いんじゃね?


 と・に・か・く!


 悪いことをした友人の為に、自分の身を犠牲に出来ると思うか?

 しかも、得体のしれない相手だ。殺されるかもしれないのにだ。

 簡単に魔法三回も耐えられて、友人を今まさに殺そうとしてる相手に対してだ。

 抵抗するのではなく、逃走するでもなく、謝罪で対応できるのか?

 無理だろ。俺には無理だよ。絶対に友人を裏切るね。

 いや、この場合裏切られたのは自分か。


 止めようとしたのに言う事きいてくれなかった相手だ。

 下手したら、自分の大切な人を傷つけたかもしれない魔法を使った相手だ。

 この時点でどうだ?俺にとっては俺の家に火をつけられたって感じかな?

 大事な妹を、死なせたかもしれない相手だ。……助けたいと思うか?

 彼女の場合はそれが自分の使える主人だったってだけだ。……主人と家族じゃやっぱ違うか?

 ……ダメだな。俺の価値観だとどう考えても同じ状況にならない気がするぞ。

 同族=家族って考えれば……。


 あぁ、なるほど。

 それは、確かに簡単なことだな。


 そして、やっぱり俺には無理だな。


 同族、俺の家族の内の誰かが妹を死ぬような危険な目にあわせる真似をしたら、きっと許せない。

 俺にとって一番つらい状況。春が瀬里を危険な目にあわせる状況だとしたら、きっと俺は春を許せないよ。


 多分彼女に、エルダさんにとってはそんな状況だ。

 俺が火を消してなかったら主人が、俺の場合は瀬里が、春のせいで死んでたってことだろ?

 えーと、俺の立場は……瀬里を危険な目に合わせる前に助けてくれた相手か?

 それはきっと、感謝はするだろうな。

 でも、春を助けて、とは言わない。春は罰を受けるべきだ。

 しかも、瀬里を助けてくれた人を殺そうとしてるんだろ?

 妹の命の恩人だろ?その恩人を殺そうとしてるんだろ?

 ……そんな奴は死ねばいい。助けたいなんて思わない。


 そういう相手をこの人は助けてと言ってるんだ。

 自分を犠牲にしてでも。

 俺がその気になったら死ぬまで辛い目にあわせられるんだぞ?

 あなたは女で、俺は男なんだ。それでもか?

 もしかしたら、友人だけ助かって自分だけ辛い目に合うかもしれないのに?


 それをこの人は簡単な事だというのか?

 言ってる事はわかるよ。

 でも、ここまでした相手だぞ?

 自分の大切な人を殺したかもしれない相手だろ?

 無理だろそんなの。

 理解できねぇ。


「理解に苦しむな」

「あぁ、私もそう思う。――でも、死んで欲しくはない」


 ……言ってる事はわかるんだ。

 俺だってきっと同じ状況になった時は春に……いや、俺の場合はそうは思えないな。

 やっぱり、ダメだ。

 理解できない。


 でも――。


「わかった。エルダさんがそれで良いならそうしよう」

いや、コート脱げばナイフ持てるやん!と思うかもしれませんが、昨日『厨二コートを着ていなかったら魔力切れで死んでいたかもしれない』という状態では厨二コートを脱ぐという選択肢はないと考えます。

ベルフみたいななのが急に殴ってきたりするかもしれないですし。気を抜いたら即死する世界です。


ちなみに正面には「ラーズになんかしたら魔法をぶっばなす」と宣言してるエウラさんと無口で危険な厨二エルフさんが座っています。

危険がたくさんだな!


というのが表向きな理由で、本当は『厨二コートカッコイイから脱ぎたくない』というのが主人公の本音です。

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