12話 重く、大きなその扉を――。
「ごめんなラーズ、俺そろそろ冒険者ギルドに行かなきゃ」
「そっか、ジークと約束してたんだっけ?」
「ん?ジークの事も知ってんのか?ラーズって本当に物知りなんだな」
怖いくらいに。
「ふふん、あっ、ユートが昨日欲しがってたみたいだからこれあげるね」
ラーズが言った途端、赤ポーションが机の上にたくさん並んだ。
……どうやったんだよ。急に現れたよね今?
<赤ポーション37本>
どうやら37本あるらしい。
そういえば、今日もラーズの情報はミレなかったな。
指輪の事も今更だけど聞くか。
「なぁ、今更だけどラーズのつけてる指輪の中に「魔眼の効果を打ち消す」みたいな指輪あったりする?」
「うん、ここにつけてるのがそうだよ。ユートにも一つあげるね」
あ、そんな簡単にくれるんだ。
あと指輪はめてる左手を見せるポーズ可愛い。
<魔眼封じの指輪/効果:あらゆる魔眼の効果を必ず打ち消す指輪/値段:――/説明:この世に2つしか存在しない特別な指輪。決して壊れたり、錆びたりしない。この指輪は特定の人間にしか効果がないので、決して他人にあげたりなくしたりように>
魔眼で確認できる情報が少しずつ増えて来たな。良いことだ。
値段の欄が――?
値段が付けられない価値ってことか?
効果の欄が短過ぎるから、凄さが伝わりにくいけどこれ半端ないよな。
デメリットとかもなさそうだし、普通こういうのって「ただし格上の存在からは効果がある」とかそんな感じだと思ってたんだけど。
そんでもってこの説明文……。
「この世に二つしか存在しないとか書いてあるんだけど本当に貰っても良いのか?」
「うんっ、これはね元々ユートにあげるつもりだったんだよ。あ、わかってると思うけどガンマ様に貰ったんだ。それと、これは左手につけてね。そうじゃないと効果ないから」
あぁ、やっぱり?
後半の説明が少しばかり、ふざけてると思ったよ。
何で指輪に「あげたりなくしたりしないように」とか説明文に書いてあんだ。アホか。……アホだったなあいつは。
そして、ここでも説明不足かよ!
今、普通に右手に装備したっつうの!
ラーズに教えて貰わなかったらただの飾りになるところだったじゃねーか!クソが!
左手の人差し指に装備。
「ふふっ、おそろいだねユート」
そういう男が勘違いすることを可愛い顔で言うのヤメテね?
すーぐ男は勘違いするよ?というか今まさに勘違いしたよ?
いや、俺は既にラーズに惚れまくってるから問題ないのか?
いやいやいや、未だに俺からラーズに対する一方的な片思いだから!
ここで「あれ?もしかしてラーズも俺のこと好きなんじゃね?」とか勘違いしたらバットエンド直行だから。
ここで告ったら「え、何勘違いしてんのこの人?キモッ」って真顔で言われちゃうから!
あ、フラれんの想像したらなんか泣きそうになってきた。
落ち着け、落ち着くんだ俺。……よし、頑張れ俺の理性。浮かれるな。ラーズはただひたすらに可愛いだけだ。うん、俺に惚れてる訳じゃない。自惚れんな俺。
そして、告る前にフラれた想像とかすんなよ俺。落ち込んじゃうだろ。
「そういえば、ボクもユートに聞きたいことあるんだけど良い?」
「あぁ、俺の答えられることなら正直に話すよ」
「そっか、ふふふ、今日は正直に答えてくれるんだね。あのね、昨日は眼帯してたのにどうして今日は眼帯が無いのかなーってずっと思ってたんだ。何か理由があるの?それともなくしちゃったの?」
んあ?
……今言われて初めて気が付いたな。
いつだ?……ゴルドフと戦う前からずっとか。
えっと、あった。不思議道具の中にちゃんと収納されてた。
あと、今日はって、ラーズは結構、根に持つ子なのかい?
おそろいだねっラーズ。……自分で考えててあれだけど、気持ち悪すぎんだろ俺。
「えっと、期待に応えられなくて悪いんだけど単純に付け忘れてただけだよ。ほら、ちゃんと持ってる」
「そっか、眼帯見せてっ」
言われて、眼帯を差し出す。
眼帯に興味でもあんのか?
「……もうユートには必要ないの?隠蔽の術がかかってるし、結構凄い術式だよこれ?……魔力制御と……透過だよね?あ、もしかしてこれ、」
言われてみれば、何故かわからんが魔眼の制御もうできてるんだよな俺。
もう眼帯は、必要ないな。
一日使ったかどうかの短い付き合いじゃったな。
「うん、もう大丈夫みたいだ。というかラーズ凄いね。見ただけでどんな術式かとかわかんの?」
というか「術式が読める」って時点で結構凄いんじゃなかったけ?
それに、隠蔽の魔術もかかってるんだぞ。普通はわかんないんだぞ?
隠蔽の魔術の追加分で金貨4枚も使ったのにあっさり見破らないでよ。あの金貨は何のために払ったのかわかんなくなるじゃないか。
しかも当てた内容もあってる。魔眼を使った様子もない。
つまり、素で見破られた。……凄いぞマジで。
「ふふん。ウソの奴隷紋作るときに凄い勉強したからね。ちょっとだけ詳しいんだよ」
得意げなラーズさん可愛い。
実際凄いし、なでなでしてあげたい。
それにちょっとじゃないでしょ絶対。普通に凄いんだけど。
頑張り屋のラーズをメチャクチャに褒めたい。
「あの奴隷紋、もしかして金かけたらマジで刻めたりするの?」
ちょっと気になんぞこれは。
昨日は完全なブラフだと思ったけど勉強したってんなら、もしかして本当に出来るんじゃないか?
そして、うまく応用すれば俺も色々と魔法が使えるようになるんじゃね?
「えっとね、再現すること自体は成功したかな?維持するために一年ごとに黒金貨が三枚ぐらい必要だから実用的じゃないけどね。それに正直スクロールを無理やり詰め込んだだけで、奴隷紋で再現できた訳じゃないんだ」
高っ!一年で三億使うとかアホかよ?
え、というかあの内容を再現とか凄ない?
どうやんのよ?
スクロールで自分の適性が無い魔術を扱えるのはわかる。
けど、直接触れて、魔力を送る必要があるはずだろ?確か「離れてても殺せる」って効果あったよな?
それに、どっからその魔力は引っ張ってくんの?
普通の人はスクロールの起動なんて出来ないんだぞ。魔力自体がない人も結構いるんだろ?
あ、いや、魔法適正と魔力は別だっけか?
ん?あ、あれ?混乱してきた。説明してくれラーズ。
「あー、えっと、聞きたそうにしてくれるのは嬉しいんだけど、この話はまた今度ね。複雑だから、すっごい説明に時間かかちゃうよ?ほら、ジークも待ってるし」
あぁ、確かに時間が……クッソ。でもなラーズ。
赤ポーションがここにある以上、正直ジークとかもうどうでも良いんだよね俺。
いや、変異種の討伐には協力してもらいたいから行くけどさ。
「あぁ、そういえばこのポーション誰が作ったんだ?確か非売品なんだよな?」
それを37本も用意できるクッソ可愛い女の子が目の前に居るってマジ?
「ボクだよ」
ん?ボクダヨさんかな?
「奴隷紋の話に戻っちゃうんだけど、再現するためには高性能なポーションが必要だったからボクが作ったんだ」
「……マジ?」
「マジです。あとついでに話しちゃうけど、あの奴隷紋の維持費の7割はこの赤ポーションだよ。これ一つで白金貨2枚必要なんだよね。もう少し安くできたら一般販売も考えるんだけど……」
37×2=74。
74×一千万=七億四千万円。
それを、俺にくれるって?マジか?
「そんな高いの37本も貰っていいのか?」
というか一本で二千万ってどんな素材つかうんだよそれ。
「良いよー。ボクにとっては必要ないし材料と予備はまだまだ倉庫にいーっぱいあるんだから」
「えっと、流石にタダは気が引けるんだけど……金払おうか?」
どうせ、使いきれんぐらいある。
「えー本当に良いのに。本当は40本作るつもりだったのに間に合わなかったし、あと三本だったんだけどね~」
「え?ここにあんのは全部、昨日作ったやつなの?」
「ううん、この家に予備で12本はあったから、作れたのは25本だけだね。倉庫はここからだと往復で6日ぐらいはかかっちゃうくらい遠いんだよね。だから、昨日からユートが来るまでの時間で急いで作ったんだっ。ユートはこれが欲しかったんでしょ?」
いや、確かに欲しかったけどさ……。
俺、勘違いしても良いのかな?
俺の為に作ったとか、この子愛おしすぐるんだけど。
しかも今日俺がグースカと惰眠をむさぼっていた間もせっせと作って待ってただって?
なんだこの可愛い生き物は!撫でまわしたい!献身的過ぎんぞ!?
「ラーズマジ凄いね……」
可愛さとか、愛おしさとか、可愛さとかが特に。
「ふふ、褒めてー」
頭を差し出される。
撫でろって事かい?
え?なんでそんな笑顔なの?可愛すぎか?
ッツ、頑張れ俺の理性!
耐えろ!耐えるんだ!
ここでなでなでしたら間違いなく俺の理性は持たない。
変なことをしでかす前に耐えるんだ。
耐えろ、耐えろ、耐えろ、耐えろ、耐えろっ。
あ、字面にすると、「えろ」って言葉が並んでんなこれ。わーい。
えろがいっぱいだー。えろえろだー。
「アホか俺は!」
「わっ!!」
頭を思いっきりテーブルにぶつける。
こんだけやると流石に痛く……ないんだなこれが。
ここは冷静になるまで頭をガンガンさせるべきか?
よし、もう一度だ。衝撃は伝わるんだ。
このふざけた脳ミソを揺らして冷静になろう。
「ちょ、ちょと待って。もしユートがアホだったらこの世界の人はアホ以下になっちゃうからっ!落ち着いて、ユートはアホじゃないよ。ね、ね?」
なんだこの天使は?
さらっとこの世界の人間は俺以下発言してんだけど?
俺以外の人間は眼中にないって意味なのそれは?
あー、いや、マジ落ち着こう。オチツケ。
例えばだ。目の前で急にラーズが頭をガンガンさせたら同じようなこと言って俺は止めるんじゃないか?
うん、多分同じようなことを言うな。よし。落ち着いたぞ。
あー、危ない。自意識過剰すぎんぞ俺。
「えっとごめんな。変なことを考えてたから取り乱した」
えろえろとか何考えてんだろうね俺はいったい。
「そ、そっか、いろいろあって疲れてるみたいだしね、うん。大丈夫、えーっと、じゃあ、これ!この眼帯貰うね。これがポーションのお礼って事で。はい、じゃあ行ってらしゃい。セバスが門番してくれるから帰りは遅くなっても大丈夫だからね」
やっベぇ。俺の好感度がすっごい勢いで下がった気がする。
これから告ろうとしてる相手の好感度下げるとかアホか俺は。……アホだったわ。
まぁ、ここは言われた通りさっさと出かけた方が良いな。
このままここに居たら間違いなくもっと好感度が下がる。
せっせとポーションを収納して、席を立つ。
「えっと、一応言っておくけど今のは俺が全面的に悪いからラーズは責任感じなくて良いんだぞ。俺が勝手に暴走しただけだから」
「うん、行ってらっしゃい。あ、帰ってくるのはいつでも良いって言ったけど、出来るだけ早く帰ってきてね?明日からまた仕事で忙しくなっちゃうから、夜にまたお話ししよーね?」
……鼻血出そう。
なんだこのやり取りは!新婚かよ!
しかも、俺の発言をさらっとスルーするとか天使過ぎんぞ!
そのやさしさで更に鼻血が出そうだ。
「あぁ、行ってきます」
俺は鼻血が出る前に外に逃げ出した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ラーズマジやべぇ可愛すぎる。天使かよ」
俺は冒険者ギルドに向かう為に屋敷の外を目指しながら歩いていた。
いや、マジでヤバイって。今まで見た中で一番可愛いんだけどあの人。
これが「惚れた相手が何をしてても可愛く見える病」か。……恐ろしい。
あ、夢の中の幼女は別枠だから。この先何があってもあの子は一生、特等席でオンリーワンだから。
それぐらいあの子の存在は俺にとって大きい。
夢の中であの子に慰めて貰わなかったら、俺はあのまま引きこもってたよ間違いなく。
だから、今度は俺が助けてあげたい――、そう思って俺はここに来たはずだ。
そういえば、ラーズもあの子に少し似てるかな?わけわかんないぐらい可愛いところとか。超可愛いところとか。あれ?何言ってんのか自分でも良く分かんね。
「ふーん?あの子があの格好をしてる時の名前はラーズって言うのね」
聞かれてたっ!
「エウラさん。何か用ですか?」
エウラさんが俺の斜め前に現れて屋敷の外に向かって歩き出す。
道案内か?俺記憶力には自信あるから大丈夫ですよ?
まぁ、好意は素直に受け取ろう。
あと、急に現れたらビクッてなるからヤメテ。
「あら、冷たいのねユート君」
「……何で『ユート君』になったんですか?今までは『坊や』でしたよね?」
そういえば、昨日中庭でも「ユート君」って言われてたかな。
「だって、あの子ととっても仲良くしてくれたみたいだもの。だから……敬意かしら?」
「俺のことふっ飛ばさなくていいんですか?」
舌打ちされたのを俺は覚えているぞ。
「あー、気にしてたの?あんなのジョークに決まってるじゃない。そんなことしたら私があの子に嫌われちゃうわ。だから平気よあれはジョークよ、ジョーク。……あの子を泣かせるようなことをユート君がした時はどうなるかわからないけど」
……え?それジョークって言わなくない?
結局「あの子を泣かせたらコロス」みたいなこと、言ってるじゃないですかヤダー。
「正直私も雨の日には来ないだろーなーとは思ってたんだけど。あの子ったら昨日から、凄く楽しそうにポーションの準備をしてるのに、時々寂しそうな表情をするのよ?「今日は来ないのかなー」って。そんなのを見ちゃったら、こう、いつまでも来ないユート君になんというか、腹が立ったのよ。だから、あまり気にしないで頂戴。一時的なものよ、今は怒ってないわ」
気にするよね?
それって「あの子に関することでは私は感情的になります」って宣言だよね?
エウラさん=ラーズに関することではかなり危険な人物。
よし、覚えた。
「ほら、もう門に着いたわよ。……セバスの言ってた事は本当だったのね」
あれ?さっきまで屋敷の中に居たと思ったんだが?
「あの、セバスさんが何か言ってたんですか?」
「ん~?自覚がないのかしら?あなたは私たちと同じ速度で動けるって話よ。どうしてそれなのに普段の私たちが来るとビックリするのか不思議なんだけど……あぁ、ベルフが言ってたわね、人族の限界よね。ホント勿体無いわ。もし、あなたが人族じゃなくてエルフだったら……」
良く分からんが俺は超高速移動を習得してたって事か?
ふむ、賊の相手をした辺りから体の調子が良いんだよな。
あれ?セバスさん?昨日から調子よかったのか俺?
――やべ、星が見えるぐらい暗くなってきた。もう行かないと。考察はまた今度だ。
「えっと、エウラさん行ってきます」
「行ってらしゃい?」
何で「?」がついたんです?
あ、そうか、俺がこの家に住むようになったって知らないのか。
振り返ったらエウラさんはもういなった。
ま、いっか。ラーズが説明してくれんだろ。
よっし、ジークと適当に話を済ませてまたラーズと戯れるぞ!
俺は冒険者ギルドに走っていくことにした。
体が軽い――ん?そうか!厨二コートを着てるから俺は早く動けるのか?
うん、それならあの人達の動きに反応出来ない理由も説明がつくよな。
俺が凄い訳じゃないんだから。反応は出来ないよな、うん。
昨日との共通点は、足の速い人が前を歩くのをついていったってことだ。
無意識のうちに早く動いていたってのも納得だな!
……意識したら俺もあの動きが自発的に出来るようになるのか?
夢が広がるな!リアル隠密王に俺はなる!……隠密王って何だよ。
それから、意識的に早く動こうとしたが、どうにもうまくいかないまま、冒険者ギルドに到着した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あの、冒険者の登録を……」
「三階に上がってくださいユートさん。新しいギルドマスターが待っています」
「えっと、ぼ……」
「三階に上がってくださいユートさん」
「……はい」
なんかこの受付の人、俺に厳しくない?
昨日もそんな感じだったよね?
~回想~
「すいません、冒険者の登録を……」
「冒険者の登録でしたら、そちらの水晶に触れてください」
「はい」
水晶に触れる。
「……少々お待ちください」
3分程待つ。
「二階にお願いします」
「あ、ありがとうございました?」
~回想終わり~
うん、俺が嫌われてる訳じゃないし!いつもああいう接客スタイルなだけだし!彼女がちょっとクールすぎるだけだし!俺にはラーズが居るから傷ついてねーし!無表情な美人に冷たくされて新たな性癖に目覚めたりしてねーし!最悪ラーズにお願いすれば同じ顔で冷たく扱って貰えるし!
……何考えてんだ俺は、変態かよ。……変態だったな。
というかラーズの能力は色々と捗りそうだよね。ナニが。
やっべ、ラーズさん最高じゃね?……鼻血出そう。
いやいや、その前に恋人になるところからだろ俺!
というか、いきなり性欲に直結させるとか最低か俺は!……最低だった!
思い返せばこの世界に来てから良いこと何もしてねぇ!俺、最低だった!
落ち着け、今日ここに目的を忘れんなよ俺。
これから、ジークに協力を求めてそれからは――
『双頭の炎龍』の討伐→ラーズに告白→ラーズと変態行為→GOODEND。
「違うだろッ!」
柱に頭をぶつける。痛くないので続けて数回。
よし、脳が揺れてきて、冷静になれた気がするぞ。
ヤバイってマジで。俺は変態な上に最低かよ。
俺の一番最初の目的は「夢の中の幼女」を助ける、だろうがっ。
だから「すべての変異種の討伐」が終わるまでGOODENDにはならねぇっつうの。
よし、言われた通り三階に行くか。
ジロジロ見られてて凄く居難いんだよね。
間違いなくさっきの奇行のせいだけど。
あ、受付嬢のジト目が心地良い。……本当にアホか俺は。……アホだった。
はぁ、これから行く所も絶対居心地良くないよな。
「新しいギルドマスター」か、絶対あのおっさんだろそれ。
何の話だろうね一体。
階段に向かおうとしたら、ジークに呼び止められた。
「やぁユート、体の調子はどうだい?」
「昨日の4倍ぐらいは良い気がするよ。事後処理はどうなったんだジーク?」
マジで4倍ぐらい調子が良い気がする。
何でかわかんないけど、そんな感じだ。
「あぁ、無事に済ませたよ。僕も呼び出されているんだ一緒に行こうか」
あぁ、面倒なことになったんだ。間違いない。なんだろ?俺、心当たりが多すぎんだけど。
ジークも呼ばれてるしここで起きたことか。ん~、もしかしなくとも野次馬の中に偉い人が混ざってたのか?やっべ、貴族の機嫌を損ねたのか俺?やっべぇよ。すっごい心配なんだけど!
……ラーズが暴走しないかが。
そういや、ジークに聞きたいことあったんだよね。
「なぁ、ジーク。赤ポーションってダートに貰ったんか?」
「そうだよ。昨日、「赤ポーションを用意して欲しい」って連絡もしておいた。ダートを知ってるのかい?」
あ、やっぱりそうなんだ。
ジークとダートは仲が良いんだな。
非売品の商品を貰えるくらいには。
「知ってるというか、友人なんじゃないかな?そいえば俺、今夜からあいつの家に住むことになったよ」
恋人になりたい人です!とかは流石に言えんし友人が妥当だろ。
そんで、もって表向きはラーズはダートという名前の男だ。
呼び方には気を付けないとな。
あ、今恋人になりたい人です!って言ったら色々とマズいことになるな。
男×男じゃないか。実際はともかく。
「もしかしなくとも『ベルフを買った客』というのはキミかいユート?」
ベルフを知ってるってことは、屋敷に行ったこともあるってことだな?
……この、何とも言えないイライラが「嫉妬」って奴なんだろうか?
ダートは男の状態のラーズなんだから嫉妬する必要なんて無いのにな。
俺って独占欲が強いんだろうか?
「あぁ、お前もベルフを買う気だったのか?」
まぁ、超強いからな。値段設定も超強かったけど。
「あぁ、彼と僕はあまりにも境遇が似ているからね。……同情していたのかな?どうしても外に連れ出してあげたかったんだ」
ふむ?なにやら事情があるみたいだな。
「安心しろ。俺がお前の代わりにベルフを連れまわして、広い外の世界を見せてやるぜ!」
俺の目的を考えたら砂漠とか海にも行かないとだからな。
必然的に広い世界を見せてやれる。
「そうか……安心したよ」
三階に到着。
……どの部屋に行けば良いんだよこれ。
職員が待ってたりしないのかよ。
「こっちだと思う」
ジークが居て良かった。
俺が1人だったら、片っ端から扉を開けて回ることになってた。
いや、探知眼使えばわかるか。
ジーク今、なんて?思う?
超直感ってやつかい?
一部の強者にのみ許されるあの「意味わかんないくらい当たる直感」ってやつか?
……外したら俺が探せばいいか。
俺は確実に当てるけどな。
「こういう道案内は普通職員がやるんじゃねーのか?」
「今日は呼ばれた人しか三階に来れないんじゃないかな?この部屋みたいだ」
でっけえ扉だなオイ。
この二つでワンセットの扉、俺苦手なんだよな。
いつだったか挟まれた記憶がある。
探知眼で確認。
……生命反応が多いな。そして、ジークの直感凄いな。
ほぼ間違いなくここだ。
とっととめんどい事は済ませてラーズとトークタイムだ!ヒャッハー。
「よし、行くぞ」
俺は大きな扉に手を伸ばす。
「あぁ、その前にユート」
「なんだよ?」
手を途中でつかまれた。
「改めてベルフのこと任せるよ。彼は、その、人をとても恨んでる。きっとユートの言うこともあまり聞いてくれない。けど、出来れば、彼も……いや、彼を、見捨てずに助けてあげて欲しい」
……俺に勘違いされてる男はジークを見捨てずに助けたってことか。
魔眼でミレば、一発で分かるんだろうが、そういう使い方はしないって、初日に心優しい幼女と誓ったからな。幼女との誓いは絶対だ。
だからミル必要はない。使うのは、どうしても知る必要があるときだけだ。それ以外では極力使わん。
そんでもってジーク、そんな風に手をガタガタさせんなよ。
「俺より強いくせに震えてんな。男だろ?それに、ベルフは結構俺の言う事は聞いてくれるんじゃねーかな?俺、あいつにとっては『兄貴』らしいぜ?だから、大丈夫だって。ほら、俺が左で、お前が右だ。この無駄にデカイ扉開けんぞ」
「あぁ!行こうか、ユート」
お?急に元気になったな。
なんかいいこと言ったかな俺?
ま、いっか。
俺とジークは扉を開ける。重く、大きなその扉を――。




