9話 ジーク
「……言わねばならんことがある」
「あ?」
脇に抱えてた爺さんがしゃべり始めてビックリした。意識あったのかよ。
足を止めて爺さんと偉そうだった女を下す。女の方は意識ないな。
爺さんは結構元気そう……ではないな。頑張って意識を保ってる感じか。汗がヤバイ。
けど、きちんと話は出来ると……違和感が――、いや、こういうことは後だな。
この世界は俺の常識を超えている。言いたいこととやら、聞こうじゃないか。
「ジークはゴルドフと戦闘中か?」
「ええ」
上に居る5人の回収をしなきゃならんし、返答は短く。時間がない。
こういう時に「多分」とか「おそらく」って言葉はいらない。混乱させちまうだけだ。
上から時々爆発音が聞こえるし、戦闘してるんだ。
ジークはあの男前だ。よし、理解した。次はなんだ?
「なら、ジークの手伝いにいってくれ。ゴルドフは『変異種の欠片』を持っておる。ジーク1人では勝てん協力者が必要なんじゃ。そのために、ワシがゴルドフの足止め役として居たんじゃが……」
クッソ、いきなり聞きたいことが増えた。『変異種の欠片』って何だ?
変異種って魔物だけじゃないのか?
そんなの知らねぇぞ俺。あと、毒対策しとけよジジィ!
「協力者が必要な理由の説明してくれ。幸いここの下には強そうな奴もたくさんいる」
なにせ、冒険者ギルドだからな。
俺が来たときは既に酔っ払いしかいなかった気がするが、気のせいだきっと。
それに、俺は魔眼しか取り柄がないのに今は魔力もねぇ。下の奴に頼んだ方が良い。
「……欠片は二つ壊す必要がある。恐らくこの建物内のどこかに1つ。ゴルドフの心臓に1つじゃ。体内に取り込まれた欠片は、対になっているもう片方の欠片を破壊せん限り破壊出来ん。今のゴルドフは絶対に死なん。ジークは欠片の位置を感知できるそうじゃ。そなたにはゴルドフの足止めを頼みたい。出来れば、他の者には知られたくはないので協力はそなただけ――。もう持たんな、これを……」
言いながら赤い液体の入ったビンを3本渡される。
はぁ、俺が今日ここに来た理由は間違いなくこれだ。
この状況を何とかさせる為に「今日中」の冒険者登録か。
あと俺に戦えとか勘弁してくれ。
「おい、爺さん。この赤いのは……マジか」
言いたい事を言い終えて気絶したらしい。死んだわけではないようだ。
今渡された赤いビンを魔眼で確認する。「魔力回復薬:上級」らしい。
何というか、この世界は説明不足だ。
俺に優しくない。
魔眼なかったらわかんないじゃねーか。
というか、これは俺が使っても良いのか?それとも回復役に渡すのか?
魔眼使えないと俺なんも出来んし、俺が一本使って残りは回復役に渡すか。
赤いビンを一本飲み干す。……クソ苦い。クソマズい。
あまり魔力を回復した気がしねぇな。上級なんだし、効果がないってことはないだろ。
魔力の回復には時間差があると考えるべきか?
だとしたら、この世界は本当に俺に優しくねぇ。
ひとまず引き返して、三階にいる職員達を二階に運び出す。
話から推測するに、あの、強者のオーラをまとったジークでも苦戦する相手だ。
戦場の近くに居たら危険だ。
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「光魔法使える方!この二人の解毒お願いします!上級の毒をスクロールで食らった!それと、そこの大剣持った方と、そっちの大盾持った方、あとあんた、上にまだ人が居るんだ手伝ってくれ!」
一旦食事の手が止まり視線が俺に集まるが、すぐに食事が再開される。
「聞いたか?今の、上級の毒をスクロールで食らった!だってよ!」「あぁ、冗談にしても現実味がなさすぎる」「それよりあいつの恰好……」「目立ちたがりのせいで飯がマズくなった」
上級の毒のスクロールはレアものらしいな。それか値段がおかしいか。効き目がヤバイ毒って可能性もあるか?爺さんは毒対策してたけど、それを上回るヤバイ毒だったのかもしれん。
あと、恰好は関係ないだろ今。それに超カッコイイだろうが。ぶん殴るぞ。
まぁ、この反応は想定済みだ。
だからわざわざ指名したんだ。魔眼を使って言うこと聞いてくれそうな人を。
俺に指名された人がこっちに向かってくる。よし、ナイス俺の人選。
ちなみに指名したのは、冷静かつ力持ちに見えた大人(職業:ベテラン冒険者ってのを選んだ)の男二人、俺が下に降りてた時、明らかに動揺した女……ほぼ、間違いなくジークの仲間、の三人だ。
上の階からの一際大きい爆音に再び食事の手が止まる。……よし、俺を手伝え。
さっき、指名した人と、光魔法の使い手が何人か集まって来た事を魔眼で確認して説明開始。
はぁ、魔力使いすぎて頭が痛い。本当に回復してんのか俺の魔力。
「とりあえずこの二人を治してくれ」
「えっ、この毒、本当に上級!?無理よこんなの!上級の毒が治せる人なんて、司祭クラスじゃないと……」
え?上級の毒ってそんなヤバイんか?
あと、司祭クラスって何?
仕方ない。作戦変えるか。ジークの仲間は治せるって言ってたし、上に居る奴らを――。
「私がやるわ……1人一時間ぐらいあれば治せる」
おぉ!治せる人がいた。……よし、魔眼で確認したがウソじゃない。本当に治せるみたいだ。
頼んだぞ。赤ターバンの姉さん。
というか呪文唱えてパパッと治ったりしないんかよ。
この世界マジ優しくないな。
大ケガをしてもすぐ治るってのが、俺の異世界に対するイメージだったんだか。
1人一時間か、魔力足りないよな多分。
「よし、じゃあ、下はあんたに任せる。それと一応これも渡しておくな」
赤いビンを一つ渡す。
「は?これ、赤ポーションよね?何でこんなの……いえ、任されたわ。あなたたち解毒は無理でも回復魔法は使えるんでしょ!手伝いなさい!」
この赤い液体ってそんなに貴重なのか?その割に効き目を実感できないんだが。
そして、これの名称はポーションなのか。俺の魔眼に映った名前と違うのは何でだ?
ともかく何とかなった。これで、この二人は死なないはずだ。
「上にあと五人いる。三人は俺に付いてきてくれ。まだ戦闘が長引いてるみたいだから俺はそのまま加勢に行く。……一応確認だけどあんたは、上に居る奴の仲間で、上級の毒でも治せるよな?」
さっき選んだ三人に説明する。そして、魔眼で分かっているが一応、確認。
ジークの仲間は首を縦に振る。よし、行くか。
「行くぞ。他の人は待機だ!時間がないし、通路も狭い!少数で行く!」
「待ってくれ、俺も手伝う!」
クッソ、今、時間ないって言っただろ!「俺も!」「私も!」じゃねーんだよ!通路が詰まるだろマヌケ!何でこういう時、ちゃんと話聞かない奴が必ずいるんだ!
クッソ魔眼使ったせいで、頭が痛ぇ!イライラする。
「じゃあ、あんたとそこの……」
回復役1人と、強そうな三人、計四人を追加。これで十分だ。
野次馬も意見が反映されて多少、静かになった。こうでもしないと場が収まらないからな。
魔眼でミタ人選だ。邪魔になることはしないだろう。
クッソ、時間を無駄にした。上の五人まだ死ぬなよ!
「よし、行くぞ」
「待ってくれ、俺も連れてってくれ!足は引っ張らねぇ!」
はぁ~、コイツ――。この場合いっそ全員に手伝ってもらった方が……いや、うまくいかなかったら最悪だ。
ここは嫌われ役を買ってでもっ。
「邪魔にならないように下がってろ馬鹿が!時間がねえんだ!少数じゃないと混乱するだろ!くだらない正義感があるなら、きちんと話を聞いてろマヌケが!それか「魔力ポーション」でも買って来い!」
金貨を何枚かテーブルに叩きつけ、そのまま階段に進む。
魔力切れで治療が出来ないなんて最悪だ。
1人の治療に一時間、7人いるから7時間も魔力を使い続けるってことだ。間違いなく必要になる。
金貨があれば「魔力ポーション」がいくらする代物かわからんが金が足りないって事はないだろ。
さっき言ってた「司祭クラス」の人を呼び出せば、毒を治してくれるのかもしれんない。
解毒役は今二人いるし、ポーションなんてなくても何とかなるのかもしれない。
でも、こういう時は最悪な事態を想定していった方が良い。
司祭クラスの人は近くに居ないとか、そもそも解毒は魔力消費が大きくて大変とか。
人の命がかかってるんだ。楽観視は出来ん。それに、俺は金を持て余している。金を惜しむ必要もない。
急いで階段を駆け上がる。後ろが騒がしくなった気がするが気にしない。
黙れ、正義感()。お前の安い正義感で人が死ぬかもしれないんだぞ。時間ねぇっつてんだろ!
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五人のいる二階に到着。
……顔色が最悪だけど全員息はある。
よし、間に合った!
「全員を順番に治療してくれ。応急処置優先で頼む。完全に治すのは下に運んでからだ。ある程度治療が済んだらすぐに下に運んでくれ。手の空いた人は戦闘に巻き込まれないように周囲の警戒。下から人が来ても絶対に三階には通さないでくれ。後は頼んだ」
赤ポーションを1つジークの仲間に押し付け、さっさと上を目指す。
さっきより爆発音の間隔が短い。苦戦しているのかもしれない。急ごう。
この建物は階段が狭い。上のゴルドフがどれだけ強いのかはわからないが、逃げようとしたら通路が人で詰まってた、なんてことになったら最悪だ。というか、俺の実力的に時間稼ぎ=逃亡戦だからな。そうなる可能性の方が圧倒的に高い。
数が多ければ良いってもんでもないし、下に居た奴らが邪魔しに来ないことを祈る。
上に完全に解毒が出来る回復役を1人配置。回復役をもう一人配置して時間の余裕を確保。
戦闘に巻き込まれないように患者を下に運んでから本格的に治療。
二階が戦場になる可能性を考慮して数人を戦闘用に配置。
俺があの場で思いつく最高の答えだ。これでもダメなら仕方ない……。
下にも優秀な回復役は必要だ。あの二人が死んじまう。
最初に呼んだ大剣と大盾の男は冷静なベテラン冒険者だ。うまく仕切ってくれるはず。
後半4人は、人の言うことをきちんと聞いてくれそうな優秀な若者を選んだ。勝手な真似はしないだろう。
最善を尽くした、人選も魔眼でミタ限り一番良い。後は……。
後は、上に一人で残った男前を救うだけ!
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俺は階段を駆け上がり三階に到着。
丁度戦闘中だった。爆発音と金属音が聞こえる。
俺のいる位置は、今は異形となったゴルドフの背中。
何だあれ、デケェ、天井に頭をゴリゴリさせてる。
というか完全にゲームにいるオークだろこれ。肌緑だし。横に太い。
変異種の欠片を取り込むと魔物になるってことなのか?
ジークの姿はオーク(仮)に隠れて見えないが、戦闘音がしているということはそこにいる。
まだ、ジークは生きてるってことだ。
やっぱり、先に職員を下に運びだしておいて良かった。
三階は血だらけだ。どっちの血なのかはわからないが。色は赤い。
いっそ、緑色の血が飛び散っていたらサポートに徹することに迷いはなかったんだがな。
この世界のオークの血って緑色なのか?勝手にオークの血=緑色ってイメージなんだか。
いずれにせよ、俺には判断が出来ない。なら、状況は悪い方だと考えるべきだ。
もしもこの飛び散った血がジークのものなら、あいつでは敵わない、それか決定打がないって事だ。
なら、俺が何とかするしかない。
無理して俺が倒す必要はない。ジークがもう一つの欠片を壊して戻って来るまで、足止めをするだけだ――。
最初は、そう思って「適当に『拘束眼』使って逃げ回れば良いかな?」と考えていた。
俺の魔力量は他人より、かなり多めだ。時間稼ぎくらいは出来るだろう。
もっとも、『拘束眼』は魔力消費量が異常に多い魔眼だ。完全には使いこなせない。
せいぜい数秒動きを止める為に使える程度で、俺の魔力量では文字通りの拘束は出来ない。
上級魔族が使う魔眼を、人間の俺が使えるってのがそもそもおかしいんだが。
ん?俺が尋問された理由ってもしかしなくとも、左眼のチート魔眼のせいか?実はコートではなく、俺自身に問題が……今はいいか。
深呼吸をする。
ここに着くまでに思いついた倒すための作戦を確認する。
今から使う『転移眼』は相手の姿を見続ける必要がある。五分だ。
この魔眼は対象の眼を最初に見てから五分、対象を観察し続けていないとトバせない。
……今思えば昼間ラーズにビビる必要はなかったんだよな。良く考えたらラーズは使えないんだから。
あのときは焦りすぎていて、俺みたいにラーズも使えると思ったけど。
冷静になったら条件全然満たしてなかった。満たされたのは表の条件だけだ。
この魔眼の魔力消費量は普通の人間には耐えられない。
そして、普通は使用者側の条件がそろわない。
何より普通は対象者の条件がそろうことがない。ここが、何より難しい――。
だが、俺なら、魔眼の複数使用で条件を整えられる!
発見当時は理論上『最強の魔眼』などと呼ばれていたが、いざ使おうとしたら発動条件の根本的な矛盾から魔族にすら『最弱の魔眼』の烙印を押されたこの魔眼を!
俺が!初めて!一番最初に使いこなす!
「ゴルドォーフッ!」
俺は覚悟を決めて眼帯を外す。『転移眼』を発動。
頭痛は無視する。今はコイツだけミロ。2つ眼の魔眼を起動。
ゆっくりとゴルドフだったモノが振り返る。ミロ。3つ眼の魔眼も起動。
クッソ、最初の相手は『双頭の炎龍』じゃなかったのかよっ!ミロ。4つ眼の魔眼を――起動させようとするが、うまくいかない。片眼で扱えるのは同時に3つまでなのか?……まぁ、4つ眼は保険だし無くても良いか。気合で回避する!
俺は目の前の『変異種の欠片を体内に取り込んだ馬鹿』の眼をミル。ここから五分間、俺はこの馬鹿を見続ける為に、魔力を振り絞り左眼に送る。
最後に5つ眼の魔眼を右眼にセットする。
……これは、最後の手段だ絶対使いたくない。が、万が一転移眼が起動しなかったら使おう。
こんなのが街に居るとかヤバすぎる。
昼間助けたセリィちゃんが、幼女が泣いちまう!幼女は泣かせねぇ!
絶対に俺が何とかしてやる!
「ブモオオオオオオォォォォ!!」
鳴き声まで完全にオークと化したゴルドフとの命がけの戦闘が始まる。
と――思った。
「ありがとう。注意を引いてくれたおかげで助かったよ。正面からだと抵抗されて心臓に剣を刺せなくてね。すぐに再生されるし、困ってたんだ」
言いながら、ゴルドフの背中から現れたジークは、怪我1つしていない。
つまり、飛び散っていたのは、ゴルドフの血だけ。つまり、この世界のオークの血は赤い。
そして、肝心のゴルドフは、背中から心臓を剣で貫かれて死んでいる。
……魔眼で確認――。死んでいる。
ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!恥ずかしい!気合入れまくって、頭の中で恥ずかしい事を気合入れながら「!」つけまくって言ってたのに!魔力切れで俺死ぬかも、とか考えてたのに!幼女の為って自分に言い聞かせて覚悟決めたのに!最後のゴルドフの咆哮はただの断末魔かよっ!!
いや、まだだ!まだ終わらんよ!
「えーと、もう一つの欠片ってのはどこにあったんだ?二つあるって聞いたんだが」
欠片残ってたら復活すんだろ?俺の出番だろ?あるよね?俺の出番?右眼に凄いのセットしちゃったんだけど出番あるよね?今は死んでるけどゴルドフさん生き返るし!俺の覚悟は無駄じゃないし!
「あぁ、彼が二つとも自分で持っていたから早々に砕かせてもらったよ。爆裂魔法でね」
ああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
ナンデ?何でだ!隠しとけよゴルドフ!二つある意味ないだろそれ!馬鹿だと思ってたけどそこまでかっ!ふざけんなハゲェ!?俺の来た意味ないじゃないか!俺の覚悟を返せ!クッソ!一度セットしたら右眼のこれは外せないんだぞ、どうしてくれる!
あぁ……、さらば俺の普通の右眼――。これからは両眼に眼帯付けた方が良いのか?
いや、これは暴走するタイプの魔眼じゃないから平気か。
それに使わなければまだ普通の眼だ。
というか、使いたくない。
ふぅー、まぁジークのおかげで危ないことしなくてすんだんだ。切り替えるか。
爆発音の原因は、ジークの爆裂魔法だったか。というか「爆裂魔法でね」とかジークさんマジかよ。
爆裂魔法って確か、炎と風の二重詠唱魔法だ。ジークは魔法の二重詠唱も出来る超エリートかよ。なんか万能キャラの雰囲気なんだよなコイツ。何でも解決してくれそうな雰囲気あるんだよな。俺の代わりに変異種狩りまくってきてくれ。天才騎士ジーク先輩。
いやいや、二重詠唱って難しいらしいし、才能と努力と更に努力だろ。
「なんというか、修行頑張ったんだな」
この二年で強くなったとかなんとかさっきジークが言ってたのを思い出した。
ジークは見た感じ若い多分俺と同じくらいの年だ。18歳前後。
相当過酷な訓練をしない限り、「攻撃魔法の頂点」とか言われてる爆裂魔法が見に着くはずがない。
それに、何発も使ってたって事は相当の魔力量だ。二重詠唱の魔力消費は通常の4倍。理屈は知らんがそういう風に説明をされた。
魔力量増やす修行とか俺にも教えてくれ!早く魔眼チートしたい!それと、俺の代わりに魔物と戦って!
「あぁ、……怒っているかい?」
「何で俺がお前に怒るんだよ?初めまして、だ。俺の名前はユート。お前は?」
言いながら右手を差し出す。
どうも、こいつは誰かさんと俺を勘違いしてるみたいだ。
魔眼での確認は……無理だな。魔力カラッポだ。ゴルドフとの戦闘とかしなくて良かった。
恥ずかしくねーし!覚悟が無駄になって残念とか思ってねーし!
魔力チートも貰ってきたはずなんだが、人間にとっての優秀な魔力量では全然足りねぇ
俺が使ってる魔眼はほとんど魔族専用のがやつだから魔力消費の桁が違う。
まぁ、不完全でも「魔族の魔眼」を使えるって時点で、俺は十分すぎる程にバケモノな訳だが。
ともかく、早めに誤解は解いておきたい。初めまして、を強調する。実際はさっき俺が縛られてる時に会っているが、細けぇ事は良いんだよ。
ジークの名前は爺さんに聞いたからもう知っているけど、ここは尋ねるのがマナーってもんだろ。
それに、初めましてなんだから聞かないとな。うん、初めましてだ。
「そうか、初めましてか――。僕の名前はジーク。――ただのジークだ。よろしくユート」
握手をする。
痛い!ジークさん。握力強いって!
そういえば「日本人の握手は力が弱弱しいから仕事に対するやる気を感じない」ってどっかで聞いたな。
これが普通の握手なのかもしれん。
俺も強く握り返すか……ジークさんやっぱり痛いッス。
文句を言おうと思ったが、ジークが何故かとても良い笑顔だったので我慢することにする。
誰と勘違いされてるのかわからんが、今はいい勘違いしとけ。
俺は、明日からの予定を組み立てることにする。
具体的な指示をすべて完遂した。今日の指示は多分ジークと俺を会わせる為だ。この様子なら協力してくれんだろ。『双頭の炎龍』が来るまではあと5日。3日ぐらいはだらける。というか遊ぶ。
やっと異世界を満喫できるぜ!まずは本だ!図書館通いだ!魔法の知識!魔力の知識!異世界の知識!そして何よりも魔眼の知識!俺も魔法使ってやるぜ!ヒィヤァ!もう我慢できねーぜ!
俺は知識欲を満たしたいんじゃない。魔眼を制御する為に知識が欲しいだけだ。完全に遊びって訳でもない。
そうだ、俺は強くなる為に図書館に通うんだ。決して異世界の知識に飢えてる訳ではないし、新しい世界観にワクワクしてる訳でもない。ほ、本当に遊びじゃないんだからねっ。
そんな自分に対する言い訳を考えている俺も、きっと目の前の男のように良い笑顔だったに違いない。
「あぁ、よろしくジーク」
俺はもう一度、強くジークの手を握り返した。




