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「我が一族の掟に背き、それでも尚、生を共にしたいと願うのであれば、もはや私はそなた等を止めぬ」



 しかし―――と、わたしたちの前に差し出されたのは、2つの指輪。

 飾り気のない金のリングに、カットすら施していない赤い石を嵌め込んだだけの、とても質素な品だった。

 

「その胸の想いが(まこと)であると、その石に誓え。それが嘘偽りなきものならば、石は光を永久(とこしえ)に湛え続けることだろう」


 受け取れ、と。

 そう言ったのち、祖母は寸分違わぬ意匠で作られた揃いの指輪を、わたしたちに一つずつ与えた。

 枯れた小枝のような、それでいて長の威厳をしっかりと感じさせる、祖母の褐色の指。

 古の一族である同胞を導いてきた、偉大なる賢者の指だった。


 祖母が揺らいだところを、わたしは一度も目にしたことがない。


 だから、今でもはっきりと覚えているのだ。

 広げられた手のひらの上、差し出された金の指輪をわたしが取ろうとしたその瞬間だけ、小さく、本当に小さく、彼女の指が震え、握り閉じかけられたことを。





 懐かしい、あの日。

 遠い日の、あの夜。


 わたしの左の薬指で、蝋燭の揺らめきをとろとろと蜜色に弾いていた、赤い小さな宝玉。


「これで、ずっと君といられる」


 わたしに指輪を嵌め、そしてわたしの手で同じように指輪を与えられた彼は、まるで、夜闇にこぼれ落ちてしまうことを恐れるかのように、震える声で、そっとわたしの耳朶に幸せを注いだ。





 彼は幸せで。


 わたしは幸せで。


 やっと繋がり合った自分たちの道行きに、幸福を噛み締めることに精一杯で。






 だから、聞こえぬ振りをした。





「その石は、本来ともに出来ぬはずだった、そなたたちの生を繋ぐ。だが、覚えておいで――――、」



 今も、その言葉を覚えている。



「捧げられたはずの想いが、(まこと)が潰えたと石が判断した時には………、」







 だけど、わたしたちは幸福で耳を塞いだ。




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