晩冬
次の日、アユムは約束通りミユキの元へ来た。この日は楽しく過ごして終わった。
二日目、アユムが病室に入ろうとすると、あの医師とミユキが楽しそうに話をしていた。アユムは目を見開いて固まってしまった。
「あ、アユム!」
ミユキはアユムに手を振った。アユムはゆっくりと病室に入った。
「それではまた。」
医師は出て行った。何も言わないアユムを不思議に思ったのか、ミユキは声をかける。
「アユム?」
「ねぇ、今の何。」
顔をあげたアユムの目は氷のように冷たかった。
ミユキが別の男と二人で話している場面に遭遇すると、アユムはいつもこの目をしていた。
「先生と話してたの。」
たくさんの果物が入ったバスケットを持って近づくアユム。
「本当に?すごく楽しそうだったけど。」
初めのうちは怖がっていたミユキも、いつからか怖がることはなくなった。
「本当よ?ほら、そのリボンを貸してくれる?」
しかし、心のどこかで再び恐怖を抱いている。
「出来た!見て、運命の赤い糸!」
バスケットについていたリボンの端を自分の小指に。もう一方をアユムの小指に結びつけた。
「リボンだけどね。ていうか、ヘタクソ・・・。」
「う、うるさい!だったら自分でしてよね!」
アユムの目に光が戻り、二人で笑った。
三日目の朝早く、アユムは病院に忍び込んだ。真新しいフルーツバスケットを持って。
ミユキがいる病室に入り、ベッド横にある椅子に座る。昨日の昼にミユキがしていたように、バスケットについていたリボンの端を自分の小指に。もう一方を眠っているミユキの小指に結びつける。
「ねぇミユキ。二人を結ぶこの赤い糸が切れたら、君は違う誰かと恋に落ちるんでしょ?」
そう言いながらリボンを外す。
「君が恋に落ちるのは誰かな?あの医者かな。きっとそうだ。だって君、僕にはあんなに楽しそうに笑ってくれないもの。君があんな風に笑うなんて知らなかった。」
ミユキの頬に手を添え、親指で目の上の空気を撫でる。
「そんなのいらないんだよ。この瞳は僕だけを映してくれればいいんだ。」
ミユキの眼球をゆっくりと押さえつけていく。突然、片目が開いた。
「アユム?・・・・っ!何で、血塗れなの?」
アユムは自分の手を見て驚いた。
「あぁ、そっか。さっき医者を殺したんだっけ。忘れてた。」
あはは、と笑う。
「殺したって・・・何で笑ってるの!?」
アユムの笑いが途切れた。
「何。あの医者の心配?ミユキはあの人が好きなの?」
またあの氷のような目でミユキを見る。
「好きじゃない!私が好きなのはアユムなの!」
「だよね。でもさ、いつかはミユキも別の人を好きになるよね?」
アユムの目は氷のような冷たさはなくなったが、焦点が合っていない。ただミユキを映しているガラス玉のようだ。
「え・・・?」
「でね?僕思ったんだ。君は、今は僕のことが好きだ。だったらこのまま終わらせればいい。何もかもを。」
さっき投げ捨てたリボンを手に取り、ミユキの首にかける。前で交差させて、引っ張っていく。
「もし二人だけの世界があれば、僕を愛してくれる君を閉じ込めておけたのに。こんなことしなくてよかったのに。」
ミユキはベッドに沈んだ。
「ごめんねミユキ。でも、僕もすぐに行くから。」
ミユキの首からリボンを外し、自分の首へとかける。そして交差させて引っ張る。
しばらくするとドサッという音が聞こえて、病室内には風が木々を揺らす音しか聞こえなくなる。
病室にあった鏡にはベッドが映されていた。朝日が差し込むベッドで、男女が安らかに眠っている。




