秋
あの日からアユムがミユキの家に訪れることはなかった。しかし、ミユキの母の葬式で二人は再び出会うことになった。
葬式が終わり村人が全員帰ったとき、ミユキは話しかけた。
「あなたは帰らないの?」
ミユキの周りには誰もいない。返事など返って来ない。しかし、ミユキは一呼吸おいてから続けた。
「私はお母さんの看病をするためだけに生きてきた。けれど、お母さんはもう・・・。」
ミユキの近くの茂みがガサリと動いた。
「大した学もないし、何か夢があるわけでもない。これから何をして、どうやって生きればいいのか・・・わからないの・・・。」
先ほどの茂みからアユムが飛び出て叫ぶように言った。
「だったら!・・・だったら、僕と旅をすればいい!世界中を旅して、色々なことをこの目で知って、それから夢を見つければいい!」
「でも・・・。」
「ここに居たってミユキはお母さんのことばかり思い出して辛いばかりだ!」
“お母さん”という単語に不安げだったミユキの表情が引き締まった。
「そんなことないわ!」
「じゃあ何で袖が濡れてるのさ!?何で目が腫れてるのさ!?今までずっと泣いてたからじゃないの!?」
「それ、は・・・」
ミユキは俯いた。
少し前まではほとんどの家の電気がついていたが、今は何処もついていない。
辺りからはカヤヒバリのリー、リー、という鳴き声が聞こえてくる。
「ねぇ、僕と一緒に行こうよ?」
赤子に話しかけるような優しい声で言う。
ミユキは俯いたまま小さく頷いた。
「嘘じゃないよね?」
また、小さく頷く。
それを見たアユムの強張っていた顔が緩み、へにゃりと笑った。
「じゃあ明日の夜、ここを出よう。」
「明日の夜に?」
「ああ、すぐに実行したほうがいいからね。」
ミユキは泣き疲れているのか、これからの旅が不安なのかアユムほど元気がない。今のアユムは元気が良すぎるからアユムと比較しても意味がないだろうが。
「わかったわ。
今日はもう遅いから明日に備えて寝たほうがいいわ。」
「そうだね。」
二人は「おやすみ」と交わしてから別々の方向へ歩いて行った。
その翌日(二人が別れたのは深夜1時頃だが)、二人は村のあちこちを回った。森獣神社に行ったり、森の中を歩いたり、池の横を通り、あのタンポポの咲いていた丘にも行った。
・・・けれど、花は一本も咲いていなかった。ただ短い草が生えているだけだった。
「タンポポ・・・。」
ミユキは悲しそうに草原を見つめ、崩れ落ちた。その後ろに立ち、アユムはそれを眺めている。
しばらく経って、アユムは言った。
「もう暗くなってる。そろそろ帰ったほうがいい。
行こう、ミユキ。」
声をかけたが、ミユキはただ俯いて首を横に振る。
「もうすぐここを出るんだ。さあ、立って。」
「アユムは悲しくないの?思い出のタンポポが・・・こんな・・・。」
ミユキがアユムを見上げると、固まった。あの暖かい笑顔は見当たらず、目は氷のように冷たく、何を考えているのかわからない。そんな人間が上から見下ろしていると理解すると、寒気がした。
「悲しくないよ。春になればまた生えてくるからね。それに、今はそんなことをしている暇はない。」
そう言ってアユムはミユキの腕を掴み、無理やり立たせ、引っ張った。
「ど、何処に・・・。」
「荷物を取ってこないとダメでしょ?」
振り向いたアユムは笑っていた。昔のように。




