夏
あれからいくつもの年月が経ち、少年――アユムと少女――ミユキは大人になった。
しかし、何も変わらず二人はミユキの家で話をしていた。ただ少し違うのが、窓を跨いでの会話ではなく同じ部屋にいるということ。
アユムは窓から顔を出し、星空を眺めながら言う。
「僕の夢は、いつかこの街を飛び出して世界中を旅すること。そして、戻ってきたときにこの村のみんなに自慢するんだ。
君もついてきてくれないかな?」
ミユキは窓際ではなく、電気のついていない部屋の奥にいる。
「・・・ごめんなさい。」
そう言われたアユムは「ははっ」と笑い、困ったような表情で返した。
「うん、言われると思ったよ。」
「ごめんなさい。今お母さんを一人にすることはできないの。もうすぐ・・・」
「言わなくていいよ。わかってるから。」
アユムがミユキの家で見たのは、ベッドで横になる老いた女性。口には酸素マスクをつけ、ベッドの横には心電図モニターが置いてある。その女性がミユキの母だった。話を聞けば、ミユキが幼い頃からこの状態だったらしい。
ミユキの母はもうすぐ死ぬ。医者にそう言われたわけではないが、人間はそういうことに前触れもなく気付く。
何故ミユキは医者に見せないのだろうか。ミユキの父はどこに行るのか。アユムがミユキに訊きたいことはたくさんあるが、何も言わない。ただミユキのそばにいる。
「何も訊かずにいてくれてありがとう。本当にごめんなさ・・・。」
話の途中でアユムは立ち上がり、ミユキの家を出た。
驚いたミユキは動けずにいたが開いた窓からアユムの走り出そうとする後ろ姿が見えると、窓に駆け寄り言った。
「明日もここに来てね!待ってるから!」
アユムはミユキの声が聞こえながらも一心不乱に走った。そして自分の家に駆け込み、部屋の隅でうずくまった。
「僕は何度嘘をつけばいいんだ?」
アユムは息が切れる中で呟いた。しかし、返答はなかった。しばらく静寂な空間だった場所にアユムのすすり泣く声が漏れた。
呼吸が整わず息苦しい肺と、嘘をついて生きる息苦しさ。その二つがアユムを傷つけ、涙となって流れ出てくる。しかし、それはもう涙を流すだけでは抑えきれなくなり、いっそ死んでしまいたいと思い始める。
そのたびにアユムが思い出すのはミユキの笑顔だった。けれど今日は違った。先ほどミユキの家で最後に見たミユキの表情だった。
「そんな悲しい目で笑わないでよ・・・!」




