春
森獣村のはずれにはこの村には不似合いな家が建っている。壁は白く、屋根は青。普通に考えると通常かもしれないが、森獣村は木の壁の建物しかないため珍しいのだ。
その家の窓からは長い黒髪の少女が顔を覗かせている。そこに近づく一人の少年がいた。
「ねー。君、いつもここから外を見てるけど楽しい?外に出たくないの?」
少女はムッとしたような、困ったような顔をする。
「別に楽しいわけじゃないわ。でも、外に出たいとは思わない。」
それを聞いた少年は驚いたように言う。
「何で?こんなに天気がいいんだよ?外で遊ばないともったいないよ。
そうだ!僕と一緒に遊ばない?」
少年は「楽しむが勝ち」というように、太陽のような笑顔を少女に向ける。
「嫌よ。服が汚れるじゃない。」
「服ぐらい後で洗えばいいじゃんか!」
「このブランド服の価値があなたにわかるの!?」
少女は思わず怒鳴る。
「あ、ごめん。」
「私も・・・ごめんなさい。」
少しの沈黙の後、少女は問う。
「ねぇ、あなたはいつも外で遊んでるみたいだけど何をしているの?」
「魚を釣って、小鳥と歌って、昼間大人たちが忙しくしているのをあそこから見ながら眠るのさ。もう最っ高だよ!」
村を見渡せるような位置にある草原を指差した。
「君こそ何をしているの?」
少年が問うと、少女は自慢げにフフンと鼻を鳴らした。
「私は優雅よ。美味しい食事にふかふかのベッド。毎日広いお風呂にだって入れるんだから。」
その後、楽しい会話は続いた。
「あ、もうこんな時間だ。お母さんに怒られる!またね!」
少年は少女の返事も聞かず、足早に駈けて行った。
次の日、また少年は少女に窓の外から話しかけた。
「あら、また来たの?」
「うん!今日はね、友達も連れて来たかったんだけど用事ができたみたいで。どうしたんだろうね?」
少女は俯いてぽつり、ぽつりと話し始める。
「あのね、私の家って・・・この村では目立つでしょ?」
「そうだね。みんなの家みたいに木じゃないから、何処にいてもよくわかるよ。」
「それが気に入らない人がいるみたいなの。
それに、この家から出てくる人がいないのをとても気味悪がってて・・・。だ・・・」
だから少年の友達がここに来ることはない、そう言いたそうな少女に少年は気づいているのかいないのか、少女の言葉を遮った。
「それじゃあ、君が外に出ればいいじゃないか。そうすれば気味悪がられることは減ると思うよ?」
「・・・本当に?」
「本当。だからさ、僕と一緒に遊ぼうよ!」
少女は一度部屋の扉を見て悩む。
「あの草原にはタンポポがたくさん咲いているんだ!」
その言葉に、少女は目を見開き、笑顔になり「行く!」と叫んだ。
少年が言ったことは本当だった。そこには一面にタンポポが咲いていた。
少女はポツリと呟いた。
「お母さんに持って帰ったら喜ぶかしら。」
「君は優しいんだね。」
「だって、大切なお母さんだから・・・。」
少年からは少女の表情は窺えないが、少女は笑っている。少年はそう思っていた。しかし、少女は幼いその顔を苦痛で歪めていた。




