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矛盾のペア  作者: ひで
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1,日常から超常へ

 単刀直入に言おう。

 俺は今、なにやら化け物らしきものに喰われそうになっている。

 それは、たった五分前のことだったんだ。



 いきなりのことで俺は、何が何だか分からなかった。

 様々な店が立ち並ぶ大型ショッピングモールで買い物を終えた俺は、絶賛帰宅中だった。

 ショッピングモールから家まで大体、十分程の距離だ。

 だが、今日はなぜか寄り道したい気分になった。両親の帰りも遅いしな。

 見慣れた道を歩いて行く。そしていつものように小さなころ(今もちょくちょく世話になっているが)によく遊んでいた公園の角を曲がった瞬間、


「なっ」 

 

 目の前にの光景に絶句した。

 まず目に入ってきたのは、血。血。血。

 そして人間の体の一部みたいな肉片。……人間の死体だった。


「なんだこれ! なんだこれ!?」


 なんだ! この状況ありえねえ!! 人が死んでる!?

 あまりに突然すぎて、思考がついていかない。

 これは夢だ、そう夢なんだと、そう、思いこもうとした瞬間、


「えっ?」


 真上からいきなり何かが降ってきた。凄まじい衝撃に、その場に膝をつく。

 一体、何が降ってきたんだ? と思っていたら、その衝撃の真ん中に、珍妙な格好をした男が佇んでいた。

 やせ形の体系に青白い肌、そして全身を覆い隠さんばかりの漆黒のコートを着ていた。


(……なんなんだよ、一体……次から次へと……)


 俺は、男から見えない位置に這いずりながら隠れた。本能で見つかったらやばいと感じたからだ。

 男はスッと立ち上がり、辺りを見渡した。

 そして何かに気づいたように、俺の方へと近づいてくる。

 やばい! 緊張で口を押さえている手が震える。殺される――

 だが、男は死体のところで足を止め、白の手袋をはずし、

 左手をかざした。

 次の瞬間、猛烈な血飛沫と共に、またたく間に死体が手に吸い込まれていった。


「……!?」


 どういうことだ!? なんで死体が!? 

 ただただ、見ていることしかできない。

 この状況で一体、他に何ができるって話だよ。

 呆けた視線で、目に留まったのは真っ赤な血、ただそれだけ。

 死体は、数秒もしないうちに、男の手の中に吸い込まれていった。

 まるで、そこに元から何もなかったかのように。

 俺は、その光景をぼんやりと見ていた。

 男は、白い手袋をはめ、


「いやぁ~、君の趣味をとやかく言うつもりはないんだけれど、覗きはおじさん感心しないなぁ~」


 と、呟いた。


「!?」


 誰に向かって言ったんだ!? この男もしかして俺が隠れていること知ってんのか!?

 だとしたら、やばい――

 逃げないと、そう思い立つ前に、


「やあ、こんばんは。少年」


 青白い顔が目の前にあった。


「……え?」


 自分でもずいぶんと間の抜けた声だと思った。頬のこけた顔、赤い瞳が目に焼き付き、離せない。


「こ・ん・ば・ん・は・! だよ少年。人間の挨拶だよ。わからんかね?」


 うん、正直言ってわけがわからない。


「うん? 何かわけがわからないって顔をしているね? 吾輩としてはいろいろと教えてあげたいのだけれど、いかんせん時間がない。残念、非常に残念だよ。まったく」


 男は、何かを思案しているようだった。ツカツカをあちこちを行ったり来たりしている。

 そして、ふと思いついたように顔をあげた。


「そうだ! こうしよう。吾輩の使い魔に相手をさせよう」

 

 使い魔? 使い魔ってのはあれか? 魔法使いがよく……なんだっけか、召喚しているあれか? と、なんか変な空想に浸っていると、


「じゃ、さっそく」


 男は真っ赤な血で染まった手を地面へとかざした。すると血は地面を伝って円形のなにやら魔法陣のようなものを形成した。

 ズシン、と地を震わせながら姿を現したのは一匹のこうもりだった。

 だがしかし、ただのこうもりではないようだ。

 なぜなら、俺の身長を優に超えていたからだ。ありえねえ。


「とりあえず、死んでもらえるかなあ?」


 男がそう言うと、そのでかいこうもりが巨大な翼を広げながら、目の前に迫ってきた。

 

「……え、あ……?」

 

 あまりに異常なありさまに、頭の中が真っ白になった。俺は後ずさることさえもできなかった。

 一歩も動けない。

 巨大な体躯が目に映る。もう逃げられない。

 開けられた大きな口。俺を人の身できそうなほどでかい。

 叫ぶことさえできない。

 

「じゃあね、少年」


 もう駄目だ。今まで生きてきた十五年。まだまだやりたいことがあったのに……。

 そう諦めかけたはずだった。

 ――が、次の瞬間、


 ドゴォォォン、と怒涛の勢いで何者かが落ちてきた。  

 その落下と同時に、轟音と共に極大のかたまりが、でかいこうもりの眉間にぶち込まれた。


「ぐぎゃ、ぎごっ!?」


 あの巨大な図体が地面に半分以上はめり込んでいる。一体どんな怪力だよ!?

 その怪力の主は、着地すると同時に地面を蹴った。動きが速すぎて目で追えねえ!?

 今度は鋭い輝きを放つ、バカでかい、なんだあれは……ノコギリ!?

 そしてバカでかいノコギリを一振り。二振り。


「!?」


 ふと見てみると、翼が切断されている。

 なんとも荒々しい切断面だった。

 まるで削られたように、

 

「ぐるぎゃああぁぁああぁ!!」


 両翼を削り落された巨大こうもりは、どうやらバランスを崩したみたいで、耳障りな奇声と共に倒れこむ。

 削られた断面から勢いよく血が噴きあがっていた。

 俺はただ血飛沫を浴びながら、呆然と見ていた。

 

「……」


 血を拭い、視線を正面に向ける。


(……誰だ?)


 俺と巨大こうもりの間に立っているのは、まだあどけなさが残る少女だった。

 月明かりに照らされ光る、ひときわ目立つ銀色の髪が印象的だ。

 十字架が刻まれた純白の修道服には大きなスリットが入り、魅惑的な太ももを覗かせている。

 愛くるしい指には、ミスマッチな、大きなノコギリ。

 白銀の粒子を散らしながら、ゆるやかに髪がなびかせている少女を、

 俺は、何もかも忘れ去って見惚れた。

 なんとも言えない神々しさを感じた。はっきり言って言葉では表せない何かがあった。

 今まで見てきた光景がどうでもよくなるほどだった。


「この子はどうかな、クルツマンさん?」


 なんだ? 急に、というか誰だ? 『くるつまんさん』って。と思っていたら、


「そうだなぁ~、どちらかというと“使い魔”に近いよね」


 うお!? 今だれが喋ったんだ? あの少女の方から聞こえたけど……。


「ぐるぎゃぁああぁああぁ!」


 巨大こうもりが、けたたましい金切り声をあげた。ドスドス、と足音を立てながらこちらに突進してこようとしていた。

 少女はそれを見るや否や、体を深く沈め、グッと踏み込み、地面を蹴った。

 その瞬間にはもう、少女の姿が掻き消えた。


「――っ!?」


 なんつー速さだよ!? ありえねえ!?

 次に見えたのは、巨大こうもりの後ろに移動したときだった。その時にはすでにもう、バカでかいノコギリを上段に構え、そして、

 脳天に振り下ろした。

 

「ぎぇぐぎゃぁ、ぎっ?」


 多分、巨大こうもりは何が起こったのかわかってないんだろう。

 切られたというか削られたと感じる間もなく、

 綺麗に真っ二つにされたことに……。

 それほど、一瞬ことだったんだ。

 大量の血飛沫をあげながら、巨大こうもりが倒れた先には、少女の紅色の瞳が悲しそうに揺らいでいた。

 光の粒子を散らし、長髪をなびかせながら。



 巨大こうもりが血飛沫を上げ、消えてから数十秒が経ったと思う。その時少女と視線があった。あのバカでかいノコギリを修道服に収めた。どうなってんだ?

 ゆっくりと歩いてくる少女を、じっと見つめる。

 さっきまでのあまりにひどい惨状で見過ごしていたけど、少女の身の丈は見た感じ、百五十センチちょいってところか。俺が大体、百七十センチだから頭一つ分くらい低いって感じか。

 年は……そうだな。多分俺を同じくらい。十五歳ってとこだな。

 だけど、

 


 


  

  

  

  

 

 

 

 

 

 

  

 



 

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