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第1話

王都北方、焦土と化した丘。


銀髪に黒衣の青年が、ただひとり立っていた。

アルス・ヴァン・ドレッド。

静かで、冷酷で、天才と恐れられる魔法使い。


彼が視線を向けるだけで、敵は死を覚悟する――そう囁かれている。


「……三十七層結界か。面倒だな」


対峙するのは、魔導兵団が総力を挙げて造り上げた人造魔獣。

通常魔法は通らない。

術式を読み替えても追いつかない。


腎臓魔獣が唸り声をあげると、味方の結界が三層同時に砕けた。


味方の魔術師が息を呑む。

「どうする……?」


アルスは、わずかに息を吐いた。


「……仕方ない」


右手を上げる。 空気が、軋む。


「《ラグナ・メンティス》」

静かな詠唱。


次の瞬間―― 魔獣の瞳から光が消えた。


それは思考力低下の禁術。

対象の演算能力を極限まで落とす。 高度な術式も、防御判断も、すべて停止する。


魔獣は、ただぼうっと立ち尽くした。

次の瞬間、音を立てて崩壊する。そして静寂。


「……終わりだ」


あまりの光景に、周りの兵士たちは言葉を発することもできない。


だが、アルスの足元がわずかに揺れた。

(反動が……強い)


この魔法は、術者の思考も侵す。

彼ほどの実力者でも、理性で押さえ込めるのは、ほんの短時間。


(まずい⋯⋯早く帰らなければ)


「後は任せた」


転送陣が輝き、彼の姿は消えた。



家の扉が勢いよく開く。


「ただいまああああ!!エルナああああ!!」


ばたん。


編み物をしていた姉エルナが、ゆっくり顔を上げる。


「……ああ、今日も使ったのね」


「ねえ聞いて!すごかった!なんかね、ぐるぐるで、どーんで、ぼくが、ばーんって!」


「語彙が壊滅してるわね」


「してない!生きてる!たぶん!」


完全に崩壊したアルスは、マントを脱ぎ捨て、ソファに寝転がる。

「それでね、ぼく天才だった!みんな『ひゃー』って!」

「はいはい」


「ねえ今日ハンバーグある!?あの、じゅーってして、まるくて、やわらかくて、あれ、最高のやつ!」

「語彙が八歳児」


アルスは急に真剣な顔で言った。


「ハンバーグは神なんだよ」

「ほう」


「やわらかくて、あたたかくて、まるくて……愛」

「愛なの?」


「愛。神で愛!!」


エルナはため息をつきながら台所へ向かう。

「手を洗ってきなさい」

「ハンバーグ待機する!」


アルスは台所に向かって両手を合わせる。


「ありがとう牛さん……ありがとうパン粉……」

「何を言ってるの」



翌朝。


目覚めた瞬間、記憶が鮮明に蘇る。

「…………」


沈黙。 そして。


「……うわああああああああ!!!!」


ベッドの上でのたうち回る。


「なぜだ……なぜ私は……姉上の前で……!」


扉が開く。


「元気なお目覚めね」


エルナがにやにやしている。


「……おはようございます」


「昨日は愛を語ってたわね。ハンバーグへの」

「忘れてください」


「“じゅーってして最高のやつ”って」

「やめてください」


「“丸いから安心する”とも」

「……」


「それから、“角がないから平和”」

「⋯⋯」


「“じゅーってしてる音は命の音”」

「誰か私を消してくれ」


「最終的に“ハンバーグは宇宙”って言って眠りについたわよ」


アルスは枕に顔を埋めた。


「録音してないですよね……?」

「してないわよ。でも脳内再生は完璧」


「最悪だ……」


エルナはおかしそうに言う。


「戦場では静寂の断罪者。家ではじゅーの信者」

「二つ名をつけるな」


「丸い安心の支配者」

「増やすな」


エルナは扉の前で振り返る。


「でもね」


にやり。


「今日も禁術使うなら、続きのハンバーグ論、楽しみにしてるわ」

「絶対に語らない」


「昨日“もっと語れる”って言ってた」

「なぜそんなに覚えているのですか⋯⋯」


「姉だから」


完全敗北。

静かな天才は、尊厳を削られながら朝食へ向かった。


そして心に誓う。


――次こそ禁術は使わない。


どれほど敵が強大でも。

またハンバーグへの愛を全力で語る未来だけは、回避したい。

読んでいただきありがとうございます!

初めての連載ですが、少しでも面白いと思っていただければ嬉しいです☺️

もしよろしければ、感想や評価などで応援いただけると、次のお話を書く大きな励みになります!

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