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6/9

元世界ランク1位 6話

さてどうしようかと悩んでいると、サブモニターが忙しなく動き出す

「ノア?これは?」

「いえ、わかりません、不審なプログラムが実行中です」

突如として地図の一部にピンが刺される

「え?」

当然地図データがないのでそこがどこかは分からない

二人で顔を見合わせる

「どうする?」

「どうしましょうか?」


同じ場所にピンがすごい勢いで連打される

わかった、わかった、そこに行けばいいのでしょ!

「ノア、距離は?」

「ジャンプでぎりぎり届く範囲です」

ジャンプとは超光速ドライブの一種でありワープとは明確に区別される。そもそもワープは単機で行えるものではない

「跳べるか?」

「跳べはしますが燃料をすべて使い果たします」

ジャンプをするためにはある程度の初速度と電力が必要である


ノアの演算結果が表示される

「必要な電力はバッテリーをフルチャージすることで賄えます。またジャンプ後の残りエネルギー資源0.3%」

「ワープ後に採掘可能な小惑星がある確率は」

「計算不能、ですが限りなく低いでしょう」

「だがこのままでは、死を待つだけだな」

どうしようかとシートに深く腰掛け、呆然と周囲の景色を見る

そこには先ほどより巨大な惑星の姿がある

落ちて行っているのを実感する

なにかいいアイデアはないか?以前見た映画を思い出せ!


惑星、惑星…

「そうだ!スイングバイだ!」

「スイングバイですか…確かにこの惑星の重力を使えば可能ですが同時にリスクも多いです」

「なんだ?言ってみろ」

「小惑星が多すぎるのです。安全なルートを演算するだけでも多くのリソースを消費します」

「他に良案はあるのか?」

「…いいえ、ありません」

「ならやってくれ」

「了解しました。マイマスター、エネルギーリソースの節約のため、寝てください」

「わかった。そうしよう、頼んだぞノア。おやすみ」

「はい、マスターおやすみなさい」

ポチポチと各モニター、照明類が消えていく

初めてここで目を覚ました時と同じ静けさが、静寂が場を支配する

いざ目を瞑るとどっと眠気が押し寄せてきた

意外と疲れているようだ

短いようで長い一日だった…

小惑星の軌道演算程度で傾くうちのエネルギーゲインどうなっているのとかなんとか考えながらレイはまどろみの中に沈んでいった



「燈矢...?」

机に身を預け、ただただ外を眺める澪

風が吹き込む

金の髪をいたずらげに膨らませる

シャンプーの匂いだろうか?癖のない甘い芳香が鼻の奥を通り過ぎる

差しこむ陽光が白い肌を透き通るような琥珀色に染め上げる

「どうした?」

「...」

「...」

流れる沈黙

いつもは心地よく感じる沈黙が今日は少しばかり緊張を孕んでいた

「ねぇ、覚えている?」

一向にこっちを向かない

「ん?」

「ほら、まだ小さかったときの夏祭り」

「ああ、よくみんなで行ったな」

「ほら、私がはぐれちゃって迷子になっていたとき」

「どうだろう?そんなことあったけな?」

「燈矢すごくかっこよかった、傷だらけになりながら私を見つけてくれた」

「ああ、あったね、そんなことも。珍しく泣いていたよね」

「あのとき、約束したよね?」

「約束?」

「そう、約束、どこへ行くのも一緒って、約束」

バッサと勢いよくこっちを向く

なんでそんな泣きそう目を、顔をしているの?

俺はここにいる、どこにも行っていない、いつも通りの学校、いつも通りの放課後

そう、俺はここにいる

だからそんな悲しそうな顔をしないでくれ!



船内は、生命維持装置が必要最低限の熱を送り出すかすかな駆動音だけが支配している

深海を思わせる琥珀色の闇の中で、計器類だけが冷たい光を放ち、刻一刻と迫る惑星の引力を数値化していく


ギィィィィィィィィッ!


機体フレームが、惑星に捕まった重力に耐えかねて悲鳴を上げる始める

船は巨大な惑星の影へと滑り込んだ。窓の外では、惑星の雲が巨大な怪物の皮膚のようにのたうち、大気の上層が摩擦でオーロラのような燐光を放つ

君にもこの景色を見せたかったと、穏やかに寝ているレイの顔を見ながら思う

エンジンは停止している。だが、加速計の数値は狂ったように跳ね上がり続ける

惑星の公転速度を盗み、自らの速度へと変換する

地獄への墜落と希望への加速の境界線を綱渡りしていく


相対速度:毎秒 42km……上昇中

船体バイブレーション:許容範囲内

キャプテンの心拍数:45、安定


熟眠していますね。こんな環境でもちゃんと寝れるのは強い。これならば生き残れるかもしれませんね、レイ、我が君

デブリが時折シールドを叩く

カツン、という乾いた音が、静まり返った船内に響く

私はその度にバリアの指向性を操作し、君の眠りを妨げぬよう、静かに死を撥ね退け続ける



ついに最接近点に到達した

視界の端で、惑星の地表が流星のような速さで後ろへ飛んでいく

惑星の巨大な重力が、船内の重力制御装置の隙間を縫って、眠る君の体をシートに押しつける

今、この瞬間の我々は、銀河系で最も速い死体の一歩手前だ

私は計算を開始する

ヘリウム3の残量、磁気収束のタイミング、そし刺された「あのピン」の座標


恒星が惑星の陰から顔を出す

惑星の地平線から昇る、凄まじい光の洪水が君の顔を照らす

「レイ、そろそろ起きて」

一時間と半分、程よいタイミングだ

眩しそうに手で目を隠す

「ほら、始まりますよ」

軽く唸り声を上げながら寝返りをうつ

「レイ!」

シートを揺らし、覚醒剤入りの気体を少しだけマスクに流した

「すまん、すまん、今何時だ?学校には間に合うのか?」

「もうしっかりしてください、マスター!」

呆然と浮かび上がる恒星を見ながら”なぜか”残念そうにする


「燃料全量開放。磁気同調、102%。反転……今!!」

スロットルを最大戦速に叩き込む

雄叫びを上げるエンジン

ヘリウム3が超高温のプラズマへと変わり、惑星の引力を振り切るための「蹴り」を宙に放つ

船体はバラバラになりそうなほど震え、視界が歪み始める


―ドォォォォォォンッ!!


惑星の引力を振り切り、機体は銀河を切り裂く矢となって放たれる

超光速ドライブが臨界点に達し、コンソールが白銀の光に染まる


キィィィィィィィ……ン……


一瞬、すべての音が消えた。

空間が、飴細工のように歪む

フロントモニターに映る無数の星々が、中央から放射状の光の線となって伸び、世界が裏返るような奇妙な浮遊感が機体を揺さぶる


―シュゥゥンッ!!


視界がオーロラのような光の奔流に飲み込まれた次の瞬間、機体は「今いた宇宙」から完全に消失した

あとに残されたのは、激しい時空の揺らぎによる微かな余韻だけ


……

……聞こえる?レイ?

衝撃で気を失ったようだけれど、安心して。我々は無事跳びましたよ

座標確認中…目標座標との相違…誤差範囲



頭がクラクラする。三半規管がやられたか?胃液がせりあがってくるのを感じる

「駄目です、レイ」

「分かっている」

吐くだけで資源がもったいない。わかっている、わかっているさ

息を止め、無理やり飲み込む

「ジャンプ酔いですね」

「ノア、それより状況を」

外の様子をみるとさっきまでの空間とは大きく異なる

かつて栄華を誇ったであろう巨大戦艦の残骸が、腹を裂かれ、無残にねじ切られた姿で虚空に漂っている

空間を支配するのは、粘りつくような翡翠色の星間ガス

それが遠方の恒星を濁らせ、宇宙に腐った沼のような淀みを与えている

装甲の断片や千切れたケーブルが、まるで深海に漂う海藻のように、音もなくゆっくりと揺れる

もはや兵器ではない、ただの冷えた石塊。否、我々にとっては金の湧き出る泉だ

俺の滾る気持ちはもはや抑えられない

美しい

これが、本物か…


ふっと上を見上げる

2m四方ほどの鉄片が一緒に動いている

「これは?」

「厚さ的にコメット級駆逐艦の残骸でしょう。トラクタービームで速度、同期しています」

「なんだ?こういうのが好きなのか?」

「いえ、趣味ではありません」

「おいおい、じゃあなんで…」


ゾワっと背筋が凍る

まるでナイフを突き立てられたかのような、そんな感覚

鼻の奥に硝煙の臭いが蘇る

この感覚、知っている。戦場の感覚だ

…スゥゥ、パチッ……

残骸の影から姿を現したのは、傷だらけの、冷徹な自立索敵型HAC

センサーモノアイが、死者の目を思わせる淡い燐光を放ちながら、左右へとゆっくり振る

「IFFは?」

「味方ではありません」

「敵でもないのか」

「どうでしょうか?」

「試す気にはならんな」

NEL時代はよくポイントの足しにさせてもらったが、非武装な今その立場は逆転している


息を飲み込む

自分の激しい鼓動と、肺が空気を求める引き攣った呼吸音だけだヘルメットの中を木霊する

…ウィィィィン……

敵機の関節が駆動する微かな電磁ノイズが、こちらの機体フレームを伝って伝わってくる

バレてくれるなよ…

自機のエンジン、バリア、リアクションホイールに至ってもすべて停止している

この鉄片も誤魔化しというわけか…

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