元世界ランク1位 5話
シュゥゥゥゥ――ッ!
宇宙服内部の貴重な酸素が、小さな穴から宇宙の虚無へと、猛烈な勢いで吸い出されていく
その排気は、皮肉にも即席スラスターとなり、自分の身体を無慈悲に吹き飛ばす
自機が狂ったように回転しながら遠のいていく
「うわぁぁぁぁああ!」
へーこんな形していたんだ
自機が回転しながらその全貌を現す
まるで卵にトイレットペーパーのシンを足したみたいな少し滑稽な姿だった
『レイ!レイ!落ち着いて!』
叫びながらもレイは意外にも冷静だった。というより、何に慌てればいいのか分かっていなかったのである。それもそうだ、さっきまで普通に学校で友達とだべっていたと思ったら、急にリアルな宇宙に飛ばされ、エンジンを起動しようと思えば爆発し、外に出ろと言われれば吹き飛ばされたのである。現実味がほとんどないのだ
ピー、ピー、ピー
耳元で喚く、断続的な警告音がうるさい
『レイ!お願いだから応答して!聞こえますか!』
どちらかというと補助AIであるノアのほうがパニックに近かった
『とにかく、指圧で押さえて!今捕まえますからね!』
あの~普通に脇腹が痛いのですが、帰ってもよろしいでしょうか?え、どこにって?そりゃお家にですけど。だめですか?はい、ですよね…
もういい加減夢ならば覚めてほしい、飽きてきたんですけど
とりあえず止めますか、というかこういうタイツみたいな近未来の宇宙服も穴が開くんだな…
空気圧が下がり、意識がもうろうとしながらも自分の体の痛いところを手探りで探していく
上手く抑えることができたみたいで、空気の流出をほぼ押さえられた
『流石ですマスタ!体育座りです!体育座り!分かりますね!』
僕を何歳児と思っているのやら
言われたとおりに体勢を変えると採掘用アームからトラクタービームが照射され、僕を掴む
これ、体に害がないといいな
回転も徐々に減速していく
「おかえりなさいませ!」
コックピットハッチに手を置いて中を見ると工具入れが見つかる
デブリに気を付け、体を機体の陰に隠しながら散らかしていくとマスキングテープみたいのが見つかる
「あった」
よく映画とかでこういうの貼っているよね
宇宙服が邪魔でうまく剥がせない、いっそ脱いでしまいたいがだめだろう
悪戦苦闘しながらもようやく簡易修理が終わる
「宇宙服の空気の補充を推奨します」
「わかった、どうやるの」
「はい、コックピットに座ってください。自動で補給されます」
「ハイテクだね~」
補充をしている間モニターに目をやる、酸素量残り24時間
「あれ、思ったよりないね」
「はい、エンジントラブルの際に一部装甲が損傷、酸素ボンベに傷が入り流出していました。修理できず隔離処置を施しました」
「へー、聞いてないんだけれども?」
「水をある程度確保できたため、報告しませんでした」
「肝心の電気がないけどね」
「はい」
「そういうの、よくないと思うんだ」
「はい、申し訳ございません」
「水っていうけど飲めるの?」
「いいえ、ほとんどが氷です」
「そっかー」
ならこの表記も嘘か…
文字通り24時間後には死が来る。例え電気を使って延命しても焼き石に水。だが彼は取り乱さなかった。この危機的状況を経て一枚成長したのかもしれない。いや人間としてどこか壊れてしまったのかもしれない
「運営は僕を殺したかったのかな?」
「どうでしょう?私にはわかりかねます。しかし、システムログを見る限るここが目的地の様には思えません」
「つまり何かしらのミスがあったのかな?」
「かもしれません」
「そっかー」
「…」
「…」
「補給は十分です、行きましょう、我々が生き残るために」
「はいはい、そうだね、周囲のデブリの位置は分かるの?」
「いいえ、アクティブレーダーを使用する電力がありません。パッシブレーダーのみです」
「それ、意味あるの?」
「ないよりはましです」
つまり意味がないということじゃないのか?
命綱がちゃんと固定されているか確認しハッチの淵に手をかける
「レイ、すこしおまちよ!今から、エンジンの後方にバリアの死角を作ります。安全のため船体を少しロールさせます」
正面に大きく見える惑星の位置が少し変わる
「今から30秒は安全です!行ってください!レイ!」
ノアの掛け声を受け機体を強く蹴る
反作用を受け大きく浮かび上がる
『ちょっとレイ!?』
体をうまく捻じり姿勢制御し、手に持つボタンを押し込む
宇宙服の背面からガスが勢いよく噴射し、俺を前に突き動かす
見えた、あれがエンジンか
取っ手が付いているところを見つけ、掴み、勢いを殺す
『そう、それです!よくわかりましたね!』
2つの取っ手に挟まれるように回せそうな何かがある
ノアも騒いでいるしとりあえず回してみるか
隣の壁面の一部がスライドし、中からプラスチックケースに守られた赤いボタンが姿を現す
「これか」
ここまでの鬱憤をぶつけるがごとく殴りつける
ケースが割れ、ボタンが押される
『急いで!急いで!急いでください!』
「そう、せかすなって」
取っ手を足台に蹴りつけ前に飛ぶ
「おっとっと」
コックピットを通り過ぎそうになるのをヘリを掴んで何とか戻る
即座に閉まりだすハッチ
また立てない生活に逆戻りか…
そういえば気が付いたら痛みを感じなくなっていた脇腹をみてみる
「そのテープ剥がして大丈夫ですよ」
おそるおそる剥がしてみると見事穴がふさがっていた
「おお、このテープすごいな」
「すごいのはテープではなくそのスーツですよ、傷口も一応塞がっているはずです」
「へー」
「過信はだめですよ、安全なところに行ったら異物や汚染が無いか確認しないとですよ。さっそくエンジン起動を再試行したいのですがよろしいでしょうか?」
「こんどは大丈夫なんだろうな?」
「わかりません…私もこのタイプのエンジンは慣れていないので…って言い訳ですね」
「悪くない、どうせ初めから運任せだった。やってみよう」
「はい!」
……キィィィィィィィン――ッ!
炉が加熱されていく
伝わる振動、音はさっきと変わらない
ヘリウム3原子が投下されていく
先ほどまでの不快な金属音はない
磁場の檻が完璧な円を描き、その中心でヘリウム3のプラズマが、青白い炎を灯す
…ゥゥゥゥゥォォォォォン……ッ!
コックピットを包み込んだのは、あの高級ソファーで聴いた音楽のような心地よい重低音
ちょっと!こんなんが同じだなんて…本当に分かっていないんだからね(プイ)という澪の幻聴が聞こえてくる
ああ、相当参っていいるんだなこりゃ
死に体だった機体の隅々に、高出力のエネルギーという名の血液が駆け巡る。冷え切っていたシートが内側から熱を帯び、各部のモーターが歓喜の声を上げるように点灯していく
マップ、周辺情報なし。依頼、受託中の依頼なし。武装、なし。物質変換装置、未搭載
うん、見たくなかったかも
そしてノアのホログラムが生まれる
「マイ、マスター。無事で何よりです」
ホログラムが俺に抱き着こうとするも透過するだけだった
すこし悲しそうな顔をするノア
触感はないが頭を撫でてあげる
髪をぷるぷると震わせる
かわいい、スライムかな?
「さて、ここからどうしようか」
急速に充電されていく電力
氷を溶かし、酸素と重水素に分解していく
これでようやく一息つける
だがヘリウム3の残量は残り僅か
「ノア、アクティブソナーを。取り付けそうな小惑星はない?」
「はい、マスター。ですが厳しいと思いますよ」
先ほどとは違い強いパワーで放たれたレーダーがあたり一面に広がる
周辺が手に取るようにわかる
だが映る小惑星はすべて小惑星リングの中だ。前のスキャンではあれほどあったというのにどこへ行ってしまったのやりゃ
「だいぶ流されましたね」
「そうなのか?」
「はい、およそ10km流されています」
「だとしてもなんで一個もないんだ?」
「ここが重力圏の内側だからですよ。我々の様に隕石として惑星に落ちますからね」
「あれ?俺ら結構やばくない?」
「やばいですよ」
そんな無邪気にコテっと首を曲げないでおくれ
一応ストックが切れるまで毎日更新がんばるぞー!




