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調整役令嬢は、何も知らない  作者: ナギサト。
『光を仰ぐ人々 』
23/23

『調整役という才能 』

それは唐突だった。ノックもそこそこに執事がフランソワの執務室を開いた。


「フランソワ様。導波石に反応が」

「……わかった。すぐに行く」


通信用魔石である導波石を介して伝えられた伝文。

持つものが限られる導波石が使われている以上は、相当な立場のものからの連絡ということだった。


※※※


「――よって、令嬢を連れて王都に来られたし、か」


貴族からの連絡。しかも、王族に近しい最上級の。

いくらヴァロワと言えども、半ば至上命令に近いそれを何の理由もなく拒否することはできない。

そうして、フランソワはルミエを連れて王都へと向かうこととなった。

その馬車の中。急な出立だったが重苦しい雰囲気にはなっておらず、親子の穏やかな会話がなされている。


「それにしてもレオン、大変でしたね。もう、お姉ちゃん子なんだから」


そう言うルミエは口ではそんなことを言いながらもどこか嬉し気だった。


「確かにな。引きはがすのが大変だった」


フランソワも楽し気に応じる。

『姉さま! どこ行くの! 僕も行く! お休みじゃなかったの!? やだやだ!』とルミエのスカートにしがみつき駄々をこねるレオンを引きはがすのが今日のハイライトだった。

5歳ともなると力も一丁前だ。結局ルミエの。

『お兄ちゃんになったんだから我慢できるでしょう? 帰ったらたくさんおしゃべりしましょう?』

という言葉で何とか納得させられた。


馬車は静かに走っていた。

衝性石が揺れを抑え、車内は驚くほど落ち着いている。


「しかし、まさかあの方から直接とはな……」


フランソワは、窓の外へ視線をやりながら言った。


「よほど、噂が気になったのでしょうか?」


ルミエは首を傾げる。

最近は、ルミエは様々な会合に顔つなぎ、あるいは挨拶。様々な役目でフランソワと同席し顔を出すことが増えた。

必然、以前の”光の子”のように。教会からの”認定”のように。

ルミエ・ヴァロワという少女の噂、すなわち評判が広まっていることは、当のヴァロワ家の耳にも入っていた。それ自体はむしろ喜ばしいことであったが。


「だろうな。商人、教会、貴族……誰からも囁かれる”評判”というのは、

 上に行くほど“便利そう”に見えるものだ」


言い方は淡々としていたが、そこに皮肉が混じっていることを、

ルミエはなんとなく察した。


(便利、か。まあ……そうかもしれない)

「心配かい?」


ふと、フランソワがこちらを見る。


「いいえ」


即答だった。


「お父さまがご一緒ですし。それに……お話をするだけ、ですよね?」


それは確認というより、受け入れに近い声音だった。

フランソワは一瞬だけ目を細め、それから微笑んだ。


「そうだ。ただ話すだけだ。

 こちらから何かを売り込む必要も、媚びる必要もない」

「はい」


その返事は、あまりに自然だった。


(クラリス家の時も上手く行ったし、同じ貴族。今回も大丈夫……なはず)


考えたのは、それだけだった。

これから何を求められるのか。

どんな評価が下されるのか。

深く考えるほどのことではない。

必要な反応は、きっとその場で出てくる。それが自分の性質なのだから。

馬車が、ゆっくりと速度を落とす。


「着いたぞ」


王都の一角。

派手さはないが、無言の威圧を放つ屋敷が、視界に入った。


「……大きいですね」

「王族に近しい家だ。見せるための建物ではない」


馬車を降りると、すでに出迎えが整っていた。

礼儀正しく、無駄のない動き。

視線はフランソワへ、しかし――ほんの一瞬だけ、ルミエにも向けられる。


(あ、見られてる)


嫌な感じはしない。

むしろ、慣れた空気だった。


「ヴァロワ家当主、フランソワ・ヴァロワ様。

 ならびに、ご令嬢ルミエ様ですね。どうぞこちらへ」


簡単な持ち物検査をされた後、案内されながら、フランソワは低く囁く。


「いいかい、ルミエ。

 今日は“答えを出す日”ではない。向こうも、それは承知している」

「……はい」

(じゃあ、いつも通りでいい、ってことだ)


ルミエはそう理解した。

歩調を合わせ、姿勢を正し、視線を落ち着かせる。

――ただ、そこにいる。

――必要な言葉を、必要な分だけ。

それで十分だ。そして、それだけであれば自分が苦慮することは決してない。

扉が、静かに開いた。


※※※


「遠いところからご苦労だったフランソワ・ヴァロワ、そして……ルミエ・ヴァロワ 。よく来てくれた」


通されたのは奥にある一室。

執務室だろうか。

豪奢でありながら剛健といった室内、椅子に腰を掛けた男は、労いつつも、特に感謝や申し訳なさは欠片も覚えていない言葉をかける。

それは当然だ。王以外に、彼の判断を覆せる者はほとんどいない。


「さ、座ってくれ」


上級貴族はそう言って、軽く手を動かした。

命令ではない。だが、断るという選択肢が存在しない仕草だった。

フランソワが一礼し、促されるまま席につく。

ルミエも一拍遅れて椅子に腰を下ろした。

視線を落としすぎず、上げすぎず。

背筋を伸ばし、呼吸を整える。

――いつも通り。

男は、二人を交互に眺めてから口を開いた。


「ヴァロワ家については、以前から承知している。

 魔石の流通。価格の安定。余計な派閥に属さない姿勢」


淡々とした口調。

評価ではあるが、感情は感じられない。


「特に近年は、取引の場が穏やかになったと聞く。

 商人同士、教会関係者、下位貴族――いずれもだ」


視線が、ルミエに向いた。


「理由は……君だそうだな。ルミエ・ヴァロワ。今年で10、いや、そろそろ11だったか。その歳にしては大したものだ」


意識せずとも威圧感を覚える視線を受けてもルミエは、静かに微笑んだ。


「恐れ入ります。ですが、私は特別なことはしておりません」


声は柔らかく、しかし揺れない。


「ただ、その場に同席し、話を聞いていただけです。

 皆さまが落ち着いてお話しできるのであれば、それで十分だと思っております」


男は、わずかに口角を上げた。


「謙虚だ。だが――それが出来る者は、存外少ない。特にその歳ではな」


机に指を組み、今しがた直接確かめたルミエを吟味する。

狡猾であってもそれはそれでよかった。頭が回るのであれば一定の価値がある。

しかし、今のルミエの対応は、考えて行うにしては、発言、声色、視線、表情、姿勢。全てが完璧だった。

発言を受けてなんの間もなくそれが出来てしまえば、人間業ではない。

――天賦の才と言えよう。

男は一瞬だけ目を閉じ、指を組み直した。

再度開かれた双眸が、改めてルミエを測るものに変わる。


「国というものはな、平和であればあるほど、摩擦が増える。

 誰もが自分の正しさを疑わなくなるからだ」


それは講義のようでもあり、独白のようでもあった。


「だからこそ、“角を立てずに話を進められる存在”が必要になる」


言葉を切り、はっきりと告げる。


「ルミエ・ヴァロワ。

 君には、その才能がある」


フランソワの指が、わずかに動いた。

だが、口は挟まない。挟めない。


「無論、強制ではない。だが、国に生きる者は、誰であれ国に貢献する義務がある。違うか?」


自信と自負。連綿と受け継がれてきた血統への誇り。常人では真似できない圧迫感。

それらが全てルミエに集中する。


「ヴァロワ家にとっても、これは不利益な話ではないはずだ」


善意だ。

理屈も通っている。

そして――逃げ道がない。


(ああ……)


ルミエは、内心でそっと息を吐いた。


(こういう人、苦手なんだよなぁ)


嫌悪ではない。

恐怖でもない。

ただ、面倒なのだ。

合理的で、正しくて、悪意がない。

だからこそ、拒否という選択肢が最初から存在しない。

けれど。

ルミエの口は、すでに答えを用意していた。


「そのように評価していただけたこと、光栄に存じます」


少しだけ、頭を下げる。


「ですが、私はまだ若輩です。

 何かを決める立場にあるとは考えておりません」


控えめで、誠実で、しかし――否定ではない。


「ただ、もし。

 私の同席が、皆さまの話し合いを円滑にする一助となるのであれば。

 父と家の判断に従い、出来る範囲でお力添えはしたいと考えております」


男は、ゆっくりと息を吐いた。

満足そうに。


「十分だ」


即答だった。


「君自身が決断する必要はない。

 求められるのは、“そこにいること”だけだ」


視線がフランソワへ移る。


「当主としてどうだ?」


フランソワは一瞬だけ目を閉じ、そして開いた。


「……前向きに、検討させていただきます」


商人として、これ以上の返答はない。

父親として、それ以上は言えなかった。

男は頷き、椅子にもたれかかる。


「結構。話はそれだけだ。

 今日は顔合わせと思ってもらって構わん」


役目は終わった、という態度だった。

ルミエは、最後にもう一度、穏やかに微笑んだ。


「本日は、お時間をいただきありがとうございました」


完璧な礼。

完璧な距離。

完璧な応答。

――そして。


(……疲れた……もう就職面接だよこれ……)


それが、ルミエの感想だった。




帰りの馬車の中は、行きと異なり沈黙が満ちていた。

フランソワは父として、ヴァロワ家として、考えることが多すぎたから。

ルミエは、”この状況においてはルミエから特に話す必要がない”から。

車輪が道を行く音が響く中、フランソワはやっと口を開く。


「ルミエ、疲れただろう」

「そんなこと……いえ、少しだけ、疲れちゃいました」


眉を八の字にしてルミエが普段とは違う笑みを浮かべる。


「ははは。私もだ。あの方は国の中枢に近しい。誰だってそうなるさ」


一度口を閉じてフランソワは父親として笑う。


「だが、立派だったぞ、ルミエ。失礼なく、ヴァロワ家として立派に応対していた」

「ありがとうございます」


ようやくルミエはホッとしたように息を吐いた。

――少なくとも、フランソワにはそう見えた。

そして、そんな娘を見て、フランソワは何かしてあげたい気持ちが溢れる。しかし、ルミエは基本的に物質的な我がままは言わない。

では、何をしてあげられるかと言えば。

――ああ、そうか。

思い出すのは数年前。今回と同じように呼び出しを受けて教会に赴いた時のこと。

産まれて初めて。ルミエは小さな我がままを自分に言ってくれた。


「……どうだろう、ルミエ。帰りに孤児院に寄っていくかい?」

「いいのですか!?」


ぱぁと輝くルミエの瞳。それを見て安心しながら優しく頷く。


「もちろんだ。最近挨拶もできていなかったし、是非行こうじゃないか」


そうして御者に行先の変更が伝えられた。





王都のはずれにある孤児院。そこの空気は変わらなかった。王都にありながらも、どこか田舎の清廉さを感じさせるぽっかりと空いた空間。

フランソワが扉を叩くと、神父が顔を出す。


「はい、何か御用で……おお、ヴァロワ様。ようこそおいでくださいました」

「毎回突然の訪問ですまないね」

「いいえ、お気になさらず。これも毎回言っておりますぞ」

「はは、そうだった。さて、今日は娘を連れてきた」

「これはこれは。ようこそ、ルミエ嬢」

「ええ、お久しぶりです」


ルミエが入室すると、子供たちの視線が一斉に集まった。

一瞬の沈黙のあと、誰からともなく声が上がる。


「お姫さまだ!」

「そっか、ルミエ様!」

「会いたかったです!」


以前は幼かったはずの子供らももう年長組だ。ルミエのことは覚えていたようで、前のようにはしゃいで押し掛けるということは無かったが、それでも皆、笑顔で取り囲む。

子供たちは、遠慮がちに、しかし確実に距離を詰めてくる。

以前のように飛びつく者はいない。だが、その分、視線は真っ直ぐだった。


「今日の格好も綺麗! 大人っぽい!」


年長の少女が、そう言って首をかしげる。


「ええ、そうなの。今日は偉い人に会ってきたから」


ルミエは微笑みながら答えた。


「うん。前より大人って感じ!」

「でも、やさしいのは変わらない!」


別の子が、すぐに言葉を重ねる。


「今日も王都に行ってたんでしょう?」

「何しに来たの?」

「ねえ、ルミエ様は今何してるの?」


質問が、少しずつ重なっていく。

だが、どれも詮索ではない。ただの興味だ。


「ええ。少し、お話をしてきました」


ルミエはそう答え、少ししゃがんで目線を合わせる。


「でもね、ここに来られてよかったです。

 皆さんのお顔を見ると、ほっとしますから」


そう言って、柔らかく笑った。

その瞬間、空気がほどける。


「やっぱりルミエ様だ」

「変わってないね」

「安心する……」


誰かが、そう零す。

神父は少し離れた場所で、その様子を見守っていた。

いつもと同じ光景。だが、今日はどこか胸の奥がざわつく。


(……変わっていない、か)


子供たちは口々に話しかける。


「今度はいつ来るの?」

「また、お話してくれる?」

「王都のこと、聞いてもいい?」

「もちろんです」


ルミエは即座に頷いた。


「でも、今日は皆さんのお話を聞かせてください。

 最近、どうですか?」


それは、いつもの問いかけだった。

特別な意味はない。

――少なくとも、ルミエにとっては。

だが、子供たちにとっては違う。


「聞いてくれるの?」

「ほんとに?」

「全部?」

「はい。時間の許す限り」


それだけで十分だった。

一人が話し始めれば、もう止まらない。

勉強のこと。

喧嘩のこと。

将来の夢。

些細な不安。

ルミエは頷き、時折言葉を返し微笑む。

否定しない。遮らない。結論を急がない。

それだけ。

それだけなのに。


「……ねえ」


ふと、年長の少年が言った。


「ルミエ様ってさ。ずっと居て欲しいよね」


誰かが息を呑む。


「え?」

「どうして?」

「だって……来てくれなくなったら、さ」


言葉に詰まる少年の代わりに、別の子が続ける。


「嫌だよ」

「寂しい」

「また、来てほしい」


場が、静かになる。

神父が口を開こうとした、その時。


「大丈夫ですよ」


ルミエは、迷いなく言った。


「私は、また来ます。

 ここは、大切な場所ですから」


その声は、いつもと同じだった。

穏やかで、確信に満ちている。

子供たちは、ほっとしたように笑った。


「よかった」

「約束だよ」

「また来てね」

「はい。約束です」


それ以上、何も付け加える必要はなかった。

――そして、それが、どんな約束なのかを、

誰も考えなかった。

神父は、胸の前で手を組み、小さく祈る。


(……ありがたい。だが)


言葉にはしなかった。

できなかった。

ルミエが立ち上がると、子供たちは首をかしげる。


「どこ行くの?」

「トイレ?」


そんな疑問にルミエは優しく首を振る。気が付けばそれなりに時間が経っていたから。


「いえ、庭に。残念ですがそろそろ帰る時間です。その前にノワに、会おうかと」


それを聞いて子供たちは顔を見合わせて自然と道を空ける。


「そっか」

「ならいいや」

「ばいばい、ルミエ様」

「またね!」


誰もついていくとは言わない。それは、暗黙の了解だった。

見送る視線は、敬意とも、親しみとも違う。

もっと、曖昧で、もっと、強いもの。

フランソワが軽く会釈をして神父に許可を取ると神父はゆっくりと頷く。


「ええ。彼女はまだ、庭におりますよ」

「はい、それでは皆さん。お元気で」


最後に少しだけ名残欲しそうな微笑みを残して、ルミエは庭へと続く扉を抜けていった。





庭の外れの小屋の前。

そこに彼女は、ノワは立っていた。

数年ぶりにあった彼女は、美しさが完成へと近づいている様子を見せていたが、その儚げな気配は健在だった。

そしてルミエは、ノワを忘れたことは一度も無い。


「……久しぶり」


文字通り久しぶりの再会の挨拶はそれだけ。ノワは相変わらず色素の薄い声で応じる。それだけで十分だから。


「はい、お久しぶりです、ノワさん。またお会いできて嬉しいです」

(うん、本当に懐かしい。会えてうれしい、な)


笑顔で応じるルミエ。珍しく、外面も内面も、同じ方向を向いていた。

ノワの瞳がルミエの瞳と交差する。


「……もう、あまり。しんどうそうじゃないね」


唐突に、静かにノワは呟く。

ルミエが何か反応する前に、ノワがともすると見逃してしまいそうなほどそっと微笑んだ。


「前は、壊れそうだった…………今はもう、壊れない」


それは慰めなのか、安心なのか、評価なのか、事実を述べているだけなのか。

ノワの気配は薄く、感情は何も見えてこない。


「ええ、そうですね。私はルミエ・ヴァロワですから。壊れることは、もうないと思います」


ルミエは少しだけ悪戯っぽく、意味深に、微笑み返しながら頷く。


(確かにそう言われると、慣れたのかもね)


慣れは良くも悪くも成長だ。ルミエとして生きて10年。状況も、今の自分の性質も、折り合いがついてきた。


「……でも、まだ、静かなほうが、好き?」


それは探る言葉ではなかった。

確かめるでも、試すでもない。


「…………どうでしょう?」


手を後ろに回し、少しおどけた様子で答えるルミエにノワは満足したのか。目を細めた。

今回もいつものように、口が勝手に動いたのは同じはずなのに、

なぜか、ノワと話しているときだけは、ルミエに違和感はなかった。


※※※


王都からの帰宅後、ベランダから空を眺めるルミエの元にフランソワがやってきた。


「やはり星を見ていたのだね」

「はい。星と月が好きですから」

(前の世界と同じものだから安心するんだよね)


娘の顔はいつもどおり穏やかだ。先の王都での出来事を感じさせないように。しかし、思うことがないはずがない。


「あの要請、いや、希望か。あれはヴァロワ家としては、妥当だろう。魔石の流通に専心して留まるのではなく、新たな展望、在り方を模索するのは商人として正しい」


方々の相談役。それは実質的な利益をもたらすものではないが、ヴァロワの繁栄と安寧の礎になるだろう。次代の、更にその次の世代も、ずっと健やかに生きていけるほどの。

そこで一度、フランソワは言葉を切る。


「…………父親として、言わせてもらえば。君には負担をかけたくはない。だからこの問いはこれが最初で最後になるだろう。ルミエ、君はどうしたい?」


ルミエは夜風に靡く髪を軽く押さえて少し考えるそぶりを見せる。その姿に亡き妻の面影を見出しながらフランソワは待った。


「お受けしたいと思います」

「……それでいいのかい?」

「はい。皆さんのために、世のために私に才能を見出していただいたのですから。光栄な話です。ヴァロワ家はレオンが、あの子がいればきっと大丈夫です」


その微笑みには、いつもどおりの静けさと、覚悟を感じさせる何かがあった。

そして、その表情は少し崩れ、歳相応の天真爛漫さを感じさせるものへと変わる。


「それに、仮にヴァロワの跡取りとして動けなくなっても、私はルミエ・ヴァロワですから」


ルミエにまっすぐに見つめられるフランソワ。

その視線は『私は、お父さまの娘ですよ?』そう、暗に語っていた。

その笑顔と瞳に、フランソワは自分が一番覚悟が出来ていなかったことを悟り苦笑してルミエの頭を撫でる。


「そうだな。君はルミエ・ヴァロワだ。

私とセシルの大切な娘だ。

何がどう変わっても、それだけは不変の事実だ」


夜風が、ベランダを抜けていく。

星と月は、いつもと変わらずそこにあった。

ルミエは静かに頷く。


(よかった。うまくまとまったっぽい)


それだけだった。

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