第39話 孤独の中、頼れる人
2026年3月30日夜の部
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◇◇◇メウス目線◇◇◇
ぼくは今まで〝好き〟という感情を抱くことがなかった。ぼくの家は動物を殺す。その意味は理解していたのに……。
ぼくだって殺すことを好きでやってるわけじゃない。むしろ嫌いだ。自分の血ならいい、だけど他人の血は……。
「怖い……」
恐怖のあまり見るのが億劫だった。ぼく以外の勇者が戦いに敗れ、血塗れで医務室に運ばれる。それを何度も見た。
戦いはゲームだ。ぼくはそれに違和感を覚え、図書館の資料を読み漁る。しかし、参考になりそうな文献は一つもなかった。
「なんで、こんなにも情報が少ないんだ……」
ぼくはこの現状に愕然とした。知りたいことを見つけることすらできない。人づてに探しても、有力な話が出てこない。
領地間の情報交換すら行われず、移動できるのは商人だけ。そんな世の中、絶対間違っていると思った。
「どうにかして……」
当時勇者だったぼくを阻む門番はいなかった。だから、各領地、各国の図書館や書店を巡った。しかし、状況に変化はなかった。
本に書かれているのは眉唾程度。どれも信憑性に欠けている。特に魔王に関しては情報が少なかった。
魔王と戦った人物に聞いても、ぼくを嫌う者ばかりで吐いてくれない。ぼくはいつまでも孤独のまま。
そんなぼくには、たった一人だけ信頼できる人がいた。
「よ! メウス!」
「セリン……おはよ……」
「おっと、今日は元気ないみたいだな……。なんか嫌なことでもあったか? ってなんだその隈は!」
「なんでもないよ。大丈夫……」
セリンは無理をするぼくをいつも看病してくれた。孤独を生きるぼくにとって、一番の大親友。
友達の作り方すらわからないぼくを、すぐ側で見てくれた。この時彼は鍛冶師見習いで、基本商売人として働いてたと思う。
「そうだ、メウス。お前銃好きだったよな?」
「え?」
「ちょうど材料が揃ったんだ。今なら魔界情報込みで銀貨十枚で取引してやる」
「ほんと!?」
ぼくはセリンから銃の組み立て方と、魔族がいる魔界エリアの情報を受け取った。そこで聖剣を背負ったまま銃を持ち、魔界へ急いだ。
魔界にある魔王城は全部で百箇所。そして、その魔王城は各国を囲うように置かれている。それぞれの国を見守り時を待つように。
「先にこの国の周辺を回るといい。それだけでも十分抑制に繋がる」
そんなことを言っていたセリンに従い、片っ端から交渉に走った。最初は順調、多くの魔王がぼくの取引に賛同してくれる。
しかし、そんなぼくにも失敗してしまった。交渉術に自信はあったのに、一人だけ上手くいかなかった。
「リザーク・ヴェルム……」
その名前だけが、ぼくの頭に今でも居座っている。彼だけぼくが落とすことができなかった因縁の相手。そして今――。
「メウスさん。リザークに関して、どう攻め込みますか?」
「え? あ、えーと……」
騎士団長のシリルに質問され、上手く答えられない自分がいた。思い出したくない、思い出すことが怖い。
「メウス大丈夫?」
「う、うん……」
「さっきまで元気だったのにね」
「み、ミカエラ!?」
これでまた、ぼくは孤独の道を歩んで行くんだ。うん。一人でいられるなら、ずっと一人がいい。
たしかにミカエラのことは好き。だけど、リザークのことになると、どうしても足がすくんでしまう。
「シリル先生。僕思ったんですけど……」
「なんでしょうか……」
エレンがシリルを呼び止め、近くでコソコソと話し始める。ぼくは耳がいい方だけど、それでも聞き取ることはできなかった。
「いい方法ですね。それで行きましょう」
「シリル。いい方法って?」
思わず問いかける自分。人は本心とは真逆に動いてしまう生き物だ。神になった今でも、ぼくは一人の人間なんだと改めて感じ取る。
「メウスさんは無理しなくて大丈夫ですよ。実はボクも一度お会いしたことがあるんです」
「リザークと?」
「はい。エレンが思い出してくれなかったら、完全に言いそびれるところでした」
シリルが無詠唱で霧のスクリーンを作成する。この魔法原理は、ぼくが編み出した魔法。いや違う、その応用を加えた独自改良版。
ぼくの魔法がここまで進歩していたとは思わなかった。
「シリル。その魔法って……」
「はい。メウスさんの魔法をちょっと弄らせてもらいました。生徒に指導する際とても役立ってます」
「そうなんだ……。ありがとう」
「こちらこそ。メウスさんのは細かく性質の情報が書かれていて、大助かりですよ」
その後スクリーンにリザークの魔王城が映し出される。リザークは大魔王だけあって、城も大きい。
「昔の情報ですが、リザークはこの二階の玉座の間にいます。下には警備が五百人ほど。こちらは全員合わせても一桁ですので、攻略はかなり難しいと思います」
「そうだね……。ねぇセリン。最近のリザークの情報ある?」
ぼくはセリンに意見を求める。すると。
「ん? まあ。最近情報が来ないが、今リザークはミカエラを狙っているらしい」
「それはどこ情報?」
「鳥の報せだ。忘れたのか? 動物と話せんだよ俺は」
「そうだったね」
セリンは獣人族ということもあり、動物と会話ができる。獣人の国は動物愛護国家で、野菜を好む人が大多数だ。
そんな彼の情報によると、ぼくたちの前にレイラが現れたのは、偶然ではないことがわかった。
「ミカエラはどう推理する?」
「す、推理!? え、えーと、その……。私を狙っているということは、人間にしか誕生しない聖女を消して、世界を支配しようとしているのではと……」
「なるほどね……。たしかに今はミカエラしか聖女がいない。こうなったら、ぼくたちが護らないと、どうしようもできないよね……」
「やっぱり、具合でも悪いの?」
「いや、ぼくはリザークが苦手なんだ。ぼくが交渉に失敗した魔王だからね」
「そうなんだ……」
ぼくの全てを伝えるのはまだ早い。リザークの魔王城には過去に二回行った。その二回目のことを、思い出さないように……。
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次回、いよいよリザークの魔王城へ。第4章完結回です




