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転生令嬢は暗殺者となり、異世界勇者を護衛する ~動物すら殺せない公爵令嬢ですが、こんな私でも魔王は倒せますか?  作者: 八ッ坂千鶴
第4章 ベルンライト領にて

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第38話 高濃度ウイスキー

 戦いが終わり、私たちは滝壺で遊ぶメウスを眺めていた。彼の顔色が元に戻っていく。そもそも、彼は呪いの影響を受けていないようにも見えた。


「メウス! 服まで濡らして、風邪引くよ!」


「あはは。大丈夫大丈夫! この服、濡れない特別仕様だから。あ、ついさっき作ったやつねー」


「はぁ……」


 メウスはものすごくはしゃいでいて、収拾がつかないくらい暴れている。まるで、夏休みの女子高生並に……。


 私もそんな時期があったなと思ってしまう。もう、いつのことだか思い出せないけど。


「そういえば。レイラさんが〝リザークを殺せば冤罪が解ける〟と」


「そうですね……。ですが、僕たちにできることなのでしょうか?」


「さあ? お母さんによれば、リザークは力が強く、魔会議でも強力な決定権を持っているそうですよ」


「『魔会議?』」


 神にも会議があるなら、魔族にも会議がある。わかっていたことだけど、シリルはさらに続けた。


「魔会議というのは、神議会と対になっている会議と聞きました。お母さんはどちらにも出席できますけど、えーと……」


「なるほどです……」


「ミカエラ嬢!? もうわかったんですか?」


「はい。なんとなくですけど。シリルさんのお母様は主に神議会へ出席されているんですよね? リザークとは仲が悪いと……」


「はい。その通りです」


「メウス!」


 早く帰って作戦会議をしなくてはならない。少ないメンバーでリザークのアジトへ向かう。そして、〝リザークを殺す〟。


 これは、私への挑戦状だ。私だからこそできることがあるとするならば……。


「メウス!」


 私はもう一度メウスを呼んだ。途端私の身体が浮き上がる。自由が利かない。そのまま滝壺の上で空を泳ぐ。


 身体が降下する。ザブンという音とともに、私は滝壺にダイブした。魔力が濃い。意識が遠のいてしまいそうになる。


「ミカエラー! ちょっといい?」


「そういう場合じゃない!」


「あ、そ。じゃあ、ぼく一人で楽しも。あと二時間プリズ!」


 メウスは天界に消える。そして持ってきたのは、黄金色の液体が入った瓶だった。これはもしや……。


「これ気になる?」


「は、はい……」


「でしょでしょ。これ、天界で作られてるウイスキー。通常の度数は三十パーセントほどだけど、これはなんと!」


 メウスが自信満々な表情でウイスキーの瓶を掲げる。その表情は最高潮に生き生きしていて、彼の顔を見るだけで疲れが取れる。


「なんと! 驚異の! 二百パーセント! うー。高い! 高すぎる! そして、希少価値の高いこのウイスキーは、この世界でも売ってるけど、そちらの希望小売価格が金貨千枚! 最上級貴族でなければ手が届かない代物!」


「お、おー……」


 まるで通販番組でもやってるかのようで、少し無理矢理感がある。私は、そんな彼の行動を優しく見守ることにした。


「ジョッキに聖水を入れてー。少しでいいかな? ウイスキーで埋める……。いただきま……!?」


「メウスさん。まだ小さいのにそんな高濃度のお酒飲んだら……」


「問題なーし! ぼく、お酒強いから」


「『そういう問題じゃない!』」


 メウスは私とシリルの注意も聞かず、聖水割りのウイスキーを一気飲みした。彼が酔っている様子はない。


 そのまま二杯目三杯目と飲み干し、瓶一本を空にしてしまう。少食な彼は、酒豪だったらしい。


「ミカエラも飲むーー?」


「遠慮します」


「えー。まあそうか。ミカエラはまだ未成年だもんね。じゃあ、シリルー! ぼくと飲もうよー!」


「仕方ないですね……。お酒はそこまで強くないですが……。一杯いただきましょう」


「やた!」


 シリルが滝壺に飛び込んでくる。岸まで泳ぐとメウスからジョッキを受け取った。聖水を多めに入れて、ウイスキーを少し。


「いただきます」


「どぞどぞ」


 シリルがウイスキーを飲む。みるみる顔が赤くなって、そのまま倒れた。意識はあるようなので大丈夫だと思うけど……。


「め、メウスさん……。よく。これ飲めますね……」


「まあねー。これくらいまだ弱いほうだけどー!」


「強すぎますね……。完敗です……」


「これでも八十六歳だから! 若見えってやつー? 神だから不老だけどーなんちゃって」


 とにかく上機嫌なメウスは、道具を片付けたあと、私とシリルを担ぐ。一回の跳躍で展望デッキに着地すると、そこへエレンを加えた。


「じゃあ、ベルンライト公爵家まで飛ぶよー!」


「と、飛ぶ!?」


「うん。空中戦の方が得意」


「聞いてない!」


 メウスは足元に風を起こし、そのまま浮遊状態に移行する。そのまま梅林を抜け、あっという間にベルンライト公爵家に到着した。


「じゃ、アイナさーん。シリルさんのことお願いねー」


「はいはーい」


「じゃ、エレンもここで待っててねー。ぼくはミカエラに用事があるからー」


 メウスは私を抱えたまま、猛ダッシュで移動を開始する。メウスと二人きりになるのは、かなり久しぶりだ。


「メウス。どこに行くの?」


「そーだねー。おすすめの場所がたくさんあるからなー」


「は、はぁ……」


「ミカエラはどこがいい? 日本らしく桜並木あるけどー」


 ここは異世界だよね。


「桜並木って……。誰が植樹を?」


「ぼく」


「え?」


「ぼくが植えた」


 メウスは迷うことなく進んでいく。残念ながら私の頭は後方を向いているので、正面の様子が全くわからない。


 それでも、だんだん桜吹雪が舞い始めていた。懐かしい花の香り。メウスがストップすると、下ろしてくれる。振り向いた先には……。


「すごい……。何本あるの?」


「これはねー。約十万本かな? 今品種改良中でね。あそこのものすごく色の濃い桜あるでしょ?」


 メウスが指さした先には、真っ赤な桜が広がっていた。前世では見たことの無いくらいの色付き。


「あれはぼくが品種改良した、恋紅ってやつ。まだ数が少ないから、気づいた人しか辿りつけないけどね」


「そうなんだ……」


 ――――――――――――――――――


『べ、べつに……!? す。す……』


 ――――――――――――――――――


「もしかして、メウスは私が好きなの?」


「ギクッ!?」


 メウスは顔を真っ赤にして、私の顔を見た。どうやら図星だったようだ。


 エレンと張り合っているのも、私にいいところを見せたいから。だけど、それで一度具合を悪くしている。


「メウス。私が好きなのはわかる。だけど、無理するのはやめて、それでまた体調崩したり、私に助けを求められても命は一つしかないから」


「は、はい……」


「それと、エレンと張り合うのも程々にして」


「気をつけます……」


 そうしてデートのような短い時間を過ごした私は、移動をメウスに任せてベルンライト公爵家に帰宅した。

次回、作戦会議!

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