第34話 メウスの味付けと偵察結果
部屋に籠って体感一時間。誰かが部屋のドアを叩いた。本をベッドに置き入口に立つと、ドアを開ける。
そこにはメウスがいた。なにか話したいのか、少しモゾモゾしている。相手が切り出すのを待つか。私から切り出すか。
少しして彼の後ろからエレンが顔を出す。
「ミカエラさん。アダムさんが帰ってきたのでリビングへ!」
「ちょっとメウス。それぼくが言おうとしたんだけど……」
「モゾモゾすることではないですよ。本当は――うふふ……」
「べ、べつに……!? す。す……」
メウスはまたなにか言いたそうな顔をして、顔を真っ赤にしている。これは、もしや……。
「とにかくすぐにリビングに集まってください! 昼食をとりながら話しましょう。ほら、メウス。僕たちは先に行きますよ!」
そうして、メウスとエレンは私の前から消えた。私は部屋を軽く片付けて、一階のリビングに移動する。
「近所から沢山のじゃがいもと人参を貰ったから、ブライアント産の豚肉を使って肉じゃがにしてみたんだけど……」
アイナが自信なさげにそう言う。よく見ると、それぞれ一人分ずつ皿に肉じゃがが盛り付けられている。
もちろん、エレンの前にはざっと見四人前はあるんじゃないかという量。これを普通に平らげるのだから、まるで異次元でしかない。
「アダムさんも食べるかい?」
「では……」
「基本アダム先輩は人間界じゃ何も食べないもんねー」
メウスが余計なことなのではないかという発言をする。それにアイナは、不思議そうな表情をした。
「あらそうなの?」
「うん。ぼく程お邪魔してる人はいないよ。実際ぼくは一年のほとんどをこっちで過ごしてるかな?」
「メウスさんはおかしいことを言うねぇ。人間界だとか、お邪魔しないとか」
「あ……」
どうやら自覚せずに言ってたようで。アイナは物珍しいとでも言うように、メウスの顔を見つめる。
「え、えーと……。その……」
途端に口篭るメウス。
「まあいいよ。はい。アダムさんの分。お口に合うかはわからないけどねぇ」
「ではいただくとしよう」
肉じゃがを食べ始めるアダム。本人がどのような味覚を持っているかはわからない。だけど、その箸が止まることはなかった。
「味は悪くない……」
そのような感想を言って箸を置く。私も食べ始めるが、少し濃いような気がした。メウスも気が付いたようで、食べる手がピタリと止まる。
「アイナさん。これ砂糖使ってるかな?」
「お砂糖ですか? そういえば……」
「やはり……。ちょっと待って貰えるかな?」
メウスはそう言って、全員分の肉じゃがを回収する。手をつけているのには、しっかり名前の札を置いているのがわかった。
彼が手のひらを料理に向けると、ほんのり緑色に光った。沢山の粒子が舞って、そのまま提供される。
私は改めて配られた肉じゃがを食べてみた。最初は何も変わらないと思ったけど、何故か手が止まらなくなる。
「おかわりもあるってことでおけ?」
「はい。ありますよ」
「じゃあそっちもやってくる!」
メウスは台所の肉じゃがにも同様なことをするらしい。彼がどんな魔法をかけたのかはわからない。それなのに……。
「甘みがプラスされてる……」
味の激変っぷりは物凄かった。ご飯も進み、気がついたら二杯目を盛っている。もしかしたら、あの時の香草焼きも……。
「メウス。もしかして……これ……」
「秘密だよ。これはぼくだからできる技だからね」
今日のメウスは楽しそうだった。アダムにもおかわりの肉じゃがを用意され、彼も『こっちの方がいい』と気に入ったようだ。
「では、本題に移るとしよう」
全員が席についたところで、アダムが切り出す。龍神の滝の偵察状況。それがわからないと意味が無い。
「アダムさん。龍神の滝はどうでしたか?」
「ふむ……。たしかにメウスが気に入るような場所ではあった。正に聖域と呼べる場所だ。しかし、どうやら我らを入れるような状況ではない」
アダムは背もたれに寄りかかり、腕を頭の後ろで組む。一体どういうことなのだろうか。アダムはさらに続けた。
「どうやら先回りをされたらしい。まるで、メウスの完全復活を遅らせようとでもするようにな……。強行突破するしか方法はない」
「そうですか」
「ミカエラさん。どうしますか?」
「そうだね……。私としては行かないと、全てのことが解決しないと思う。だけど、それにもみんなの協力が必要」
私は決めていた。なんとしてでもメウスを完全復活させて、みんなで王都に戻ると。私の罪を解消してもらうと。
「メウスはかなり本調子に近く……」
「なってないよ? 相変わらず頭が回らない感じだね……」
「でも、この肉じゃが。味はちょうどよく……」
「本気だとこれに隠し味加えるから」
「さいですか……」
メウス本人が本調子ではないのなら、そうなのだろう。昨日より元気だとは思うんだけど……。
ということで、行くメンバーは私とエレン。シリルとアダム。の四人になった。セリンは巻き込まれ回避で同行したくないらしい。
食事を終えた私たちは簡単に荷物を作り公爵家を出た。龍神の滝までの道は舗装されているそうなので、一本道をひたすら進めばいいだけ。
「アダムさんは、龍神の滝って……」
シリルが問いかける。
「今回が初めてだ。我はメウスへの用でしか人間界には来ない。彼ほど地上の土地勘は備わってないな……」
「そうなんですね……。神様って、色々な場所を網羅してるかと思いましたけど……。決してそういうわけではない……ということですね」
「うむ」
ここにメウスが入っていたら。想像しただけで騒がしくなりそうだ。私はただまっすぐ、前を向いて歩く。
「あそこが龍神の滝の入口だ。念の為もう一度偵察に行くとしよう」
「ありがとうございます。アダムさん」
私はアダムに礼を言うと、彼は空に消えていく。シリルが迷路になっていると言っていたけど、無事に辿りつけるだろうか……。
次回。ピンチ!?




