トントンとピコとまぼろしのアイス屋さん
ある晩、森の広場でピコがそわそわと羽をばたつかせていました。
「ねぇトントン、聞いた? 夜だけ開く “まぼろしのアイス屋さん” があるんだって!」
「アイス屋さん? 森の中に?」
「うん! でもね、食べた人の声が出なくなるってウワサもあるんだ」
トントンは首をかしげました。
「声が出なくなるアイス……? それ、味よりこわいね」
「だから確かめようよ!」
ピコは目を輝かせて、夜道をぴょんぴょん進みました。
月明かりの森を抜けると、
光るランプが並ぶ小さな屋台が見えてきました。
看板には、ふわりとした文字で「ネコのアイス屋」と書かれています。
屋台の奥から、やわらかな声がしました。
「いらっしゃいませ。夜風にぴったりの “静けさアイス” はいかがです?」
白い帽子をかぶったネコの店主が、にこっと笑いました。
ショーケースの中には、青、緑、紫と、夜空みたいに光るアイスが並んでいます。
「うわぁ〜きれい! これ、本当に食べられるの?」
「ええ、ひとくちでビックリするくらい静かになりますよ」
「……それって、やっぱり声が出なくなるってこと?」
ネコの店主は静かにうなずきました。
「そう、このアイスを食べるとね、声が凍って出なくなるんです。
でも心配はいりません。夜が明けるころ、氷が溶けて声も戻ります」
「どういう仕組みなんだろ」
トントンの疑問にネコの店主が答えました。
「特別なお願いをした “静けさの花” が原材料なんですよ」
トントンとピコは顔を見合わせました。
「ちょっと……試してみる?」
ふたりが小さくひとくち食べた瞬間、
冷たい風がすうっと通り抜け、声が消えました。
「……っ!?」
ピコは口をぱくぱく、トントンは目をぱちぱち。
けれどお互いの顔を見て、すぐに吹き出しました。
笑い声も出ないのに、肩を震わせて笑っているのです。
ネコの店主がやさしく微笑みました。
「静けさって、耳じゃなくて心で味わうものなんですよ」
夜が明けるころ、ふたりの声が戻りました。
森に朝の光がさし、鳥たちが鳴きはじめます。
トントンがネコの店主に尋ねました。
「どうしてそんなアイス作ってるの?」
少しだけ笑って、空を見上げました。
「昔ね、ぼくの声が大きすぎて、森のみんなを驚かせちゃったんです。
それで “静けさの花” にお願いしたんです――『少しの間でいいから、静かになりたい』って。
でも、ほんとうに誰もしゃべらなくなって、今度は静かすぎてさみしくなっちゃった。
だからこの花を使って、“おしゃべりの楽しさを思い出すための味” のアイスを作ってみたんです」
ピコはにっこりして言いました。
「トントン、おしゃべりって楽しいもんね!」
トントンは笑って首をたてにふりました。
「うん、おしゃべりがつまらなく感じたらまた食べにこよう!」
ふたりを見送ると、ネコの店主が静かに看板を片づけました。
今日もまた、まぼろしのアイス屋は朝日といっしょに消えていきます。




