誰にも言えない話を誰かに行った日。不器用なプレゼントをもらった日。
誰にも言えない話が誰にでも一つはあると思う。話したらなかったことになりそうだから、誰かとの約束だから、さらに傷を深めることになりそうだから、あるいはあってもなくてもいいようなプライドが邪魔をして。理由なんて人それぞれだと思うけど、私にも誰にも言えない話があった。
お母さんにもお父さんにも、園子にも。
引っ越してくる前の町であったことだ。夏休み前だったか、夏休み中だったかそれは定かではないけれど、とても暑くて、背中からだらだらと汗が吹き出していた日だ。
私が住んでいた地域には家が多く、家の数だけそこを通る道も複雑だった。暑さをひっかけながら、のそのそと亀のような歩きを進めていると、道の前を女の子がキョロキョロと見渡していることに気づいた。同じ年くらいだったと思う。道の先に立っているというだけなのに、その姿が妙に印象的だった。
シャツか服か分からないキャミソールを着ていたせいか。顔が暑さで真っ赤だったせいか。それとも、くるくるとした髪をツインテールにしていたせいか。
はっきりとした理由は分からない。でも、大きな太陽を背負って立つあの女の子のことが印象的だった。
その女の子とバチっと目が合った。
私に気づくと真っ直ぐ走ってやって来た。そして、メモを一枚見せてきた。そこには、コノハ薬局までの行き方を教えてください、と書いてあった。
その女の子の耳にはイヤホンのようなものがついていた。それが補聴器だったことはその時にも分かっていたと思う。
薬局までの道は知っていた。この住宅街ではなく、隣の住宅街にあるのだ。大通りを一本間違えてしまったのだろう。
その女の子を前にして、私はどうすることもできなかった。
道を教えてあげるべきだと分かっていても、そこまでの道のりが分かっていても、声が出なかった。
だから私は走って逃げた。下を向いて、汗だくになって走って逃げた。
今でも時々考える。あの子は薬局までたどり着くことができただろうか。あの住宅街をいくら探したところでないのだ。
そう思い返せば返すほど、自分のことが嫌いになる。
そして、誰にも話す事ができない自分の臆病さが嫌いだった。
意識を救いあげるように、扉が開く。
ここは前の町ではない。そして今は夏ではなく、秋だ。だけど記憶はいつでもあの日あの時に自分を連れて行ってくれるようだった。
扉が閉まる音がする。
「先生、私、音楽会の日まで、練習にはちゃんと出席してみせますよ」
保健室に入ってくるなり、りんずちゃんは開口一番、ガッツポーズしながらそう言った。
「あらあら急にどうしたの」
りんずちゃんは、教卓に座っている私を認めると、手を振った。
そして、先生の方を向き直る。
「私、昨日雨の中を走って、思いました」
山田先生は一瞬ん?と首を傾げた。
どこが気になるかというと、
「雨の中を走った?」
やはりその部分。
「はい」
りんずちゃんが即答する。そして続ける。
「私、授業を受けてないのに、音楽会だけ出るなんてずるい子だって、自分でも思っていました。好きなことだけやるのは許されないことだって。人からも良く思われない行動です。クラスには、私が音楽を好きなことを知っている子も何人かいます。その子とたちにとったら尚更面白くないはずです」
りんずちゃんは好きなことだけやっているのだろうか。
好きだけだったら、
“私だけ嫌だと言う理由で出ない訳にはいかないじゃない”
あの言葉は出なかったんじゃないか。
誰かの言葉が間違っているとは思わない、だけど、そこには必ず痛みも伴っていると思う。
「だから、びくびくしていたんです。何か自分が傷つくことを言われるんじゃないかって。びくびくしていました。傷ついたら自分を責めることしか、その傷をいやす方法を知らないから」
その感覚はよく知っている。
自分が感じた痛みよりもさらに痛い痛みを自分に課すことで、元の痛みを押し込める。誰かに取ったら責められる行動だが、本人からのしてみたら一番効力がある薬。
触ってないのに左腕がじんじんしてくる感覚がある。
「だから、先生の言う通り鞭を打ちながら毎日みんなのところに行っていました。でも、どうして私が音楽会の練習に行っているのか思い出したんです。昨日のその」
「雨で?」
山田先生はやけにその部分に厳しい。
「はい。雨で。音楽が好きだからです。一番最初に私を動かした気持ちはシンプルでした。
歌いたいときは歌いたいし、吹きたいときは吹きたいからです。
その瞳には強い光があるように見えた。
ああ、そうだ、紅葉を見たいと言った時と同じ耀き。
「今までは、雨の中、傘を差しながら、体に当たらないように、靴が濡れにようにそればかり考えていました。それで身動きがとれなくなるほどに。
でも少しの間、雨の中、傘を捨てて、ずぶ濡れになって、地面を跳ね上げて、バカみたいに笑いながら走ろうかと、思います」
なんて、強い子なんだろう。
昨日隣を走りながら、彼女は私が行けないところに行ってしまったのだ。
「翠ちゃんもまた一緒に走ろ」
と言った。
軽いノリで言ってるのかと思ったけど、目は真面目だった。
思わぬ形で話が飛んできて、目を見開く。そして、その真面目な自由さに私はまだ乗れなかった。
私は練習にすら参加できてない。無理だよ。
正直な気持ちをスマホに打ち込む。
ここで引き下がれば、彼女はどんどん先に進んでしまう。先を行く背中をながめるのは悲しいだろう。
図書室から見た景色も、一緒にリコーダーを吹いたことも、きれいな過去として二度と掘り返せなくなるかもしれない。
私はそれでいいのだろうか。
友達になってくれた彼女の背中をただ眺めているだけで。
「とりあえず、実際に雨が降ったときは、傘をさして帰りなさいよ」
山田先生が目を細めて言う。
「二人とも風邪ひくわよ」
山田先生はくすりと笑う。
「りんちゃん、素敵よ。たくさんのことを感じて、たくさん頭を働かせたあなたは素敵よ。ずっと応援してる。だから、やりたいようにやりなさい。先生はずっとこの部屋にいるから。いつでも帰ってきて、いつでも、旅立っていきなさい」
山田先生の言葉になぜか私の目が潤む。
その言葉の矛先が自分ではないからだろうか。一歩先を進んでいるように見える彼女に追いつきたいのに、追いつけないからか。
そのとき、保健室のドアが開いて、六年一組担当の小林先生が顔をのぞかせる。
「あやちゃん、ちょっと」
と、手招きすると、りんずちゃんはきょとんとした顔のまま、先生と一緒に出て行ってしまった。
「焦っちゃだめよ」
二人きりになった保健室で山田先生が言う。きっと私たちよりも長く生きてきて、tくさんの子どもたちをみてきた先生には、私の気持ちなんてお見通しなのだ。
なんだか、自分の心が隠したいものが透明の器に入っていて、それを見られたような気恥ずかしさを覚える。
それに、焦っちゃだめだと言われても、焦ってしまう。
隣にいた子が急にどこかへ駆け抜けてしまうのだから。
「りんちゃんは、ものすごく大人っぽく見えるときと、子どものような無邪気なエネルギーだけで動くときで別人のように見えるよね」
私はこくりと頷く。
多面体みたいです。いろんな面があるから。
四年生のとき、静かな子だと思いました。彼女の周りだけ時間がゆっくり流れているんだと。でも、今は彼女の周りだけ、時間が加速して燃えているように見えます。
先生はそれを読むとまたくすりと笑った。
「すいちゃんは言葉で表現するのが上手ね」
さっきまで気恥ずかしかったはずなのに、山田先生に褒められると妙に照れくさい。
先生、昨日、雨の中を走って楽しかったんです。家に帰ってから笑いが止まらなくなりました。
「あら、じゃあ私もご一緒すればよかったかしら」
今、一緒に走ろうって言ってくれた時も嬉しかったんです。
山田先生は老眼せいか、顔の位置を調整しながらスマホの文字を読んでくれている。
でも、私にはできないです。私は勇気もないし、自信もないから。
先生は文字を読むと、眉をさげ、優しくほほえんだ。
「立派よ。あなたも立派よ。勇気がない?まさか。あなたは今、私に勇気を見せてくれている」
私は首を傾げた。私は今、弱みしか見せていない。
「できないことを、できないと自分で認めてあげられるのは、できると思うことと同じくらい勇気がいることよ。先生はそう思う。そして、それをだれかに伝えるのはもっと勇気のいる事よ。あなたはそれができている。立派よ」
私は立派じゃない。できないと言うことはただの臆病ではないか。
私は時々考える。あの女の子には私が去っていく後ろ姿がどう見えたんだろうと。きっと、たまたま私が通りかかったからというのもあるだろうけど、年が近いから話しかけやすそうと思って話しかけてくれたのだ。その気持ちを私は裏切ってしまったように思う。
「子供が自信を持てない世界なんかくそくらえ、だよね」
くそくらえ、か。先生でもそんなこと言うんだな。だけど、その言葉で先生は味方なんだなと思った。私がここの学校の児童でいる以上、先生は私の味方でいてくれる、そう確信した。
そう思ったら弱い気持ちがどんどん出てくるようだった。
誰かに聞いて欲しかった話。
自分の中では抑えきれない不安の話。
先生、私は一人で買い物ができません。服屋さんにも一人で立ち寄ることができません。店員さんに声をかけられるのが怖いから。
最近ショッピングセンターでかわいいと思う服が増えた。つけてみたいと思うアクセサリーが増えた。それを手に取ってみてみたい。そう思って足を向けたところで、私は自分を止める。
美容室にも行けません。髪の毛はずっとお母さんに切ってもらっています。
今はいいかもしれない。お母さんが髪を切ってくれるし、お母さんが服を買ってくれる。お母さんと一緒にお店に入ればいい。
だけど、いつかそれがよくなくなる時が来る。
そのとき私はどうやって生きていくんだろう。漠然とした不安が波のようにおそってくるときがあった。
先生は深く頷く。こんなこと人に言うの初めてだった。周りができることを自分はできない。周りは確実に大人になっていくのに、自分だけいつからか成長が止まったようで。
それにもし病気になっても、事故に遭っても、私は電話をかけることもできず、助けを呼ぶこともできないと思います。
だけど、私が山田先生に伝えたかったことはここではない。
補聴器を付けた小三くらいのあの子は、おつかいだったのかな。親とはぐれたのかな。熱中症にならなかったかな。
私はあの子のことを傷つけてしまったんじゃないかなってずっと怖かったんです。
だから、だからね。私は思うんです。
だけど、自分のことなら、まだ、いいんです。私は、自分の助けが誰にも届かない事よりも、誰かの助けを掬うことができないことの方がずっと怖いんです。
だから、だからね、普通になりたいんです。最低ラインに立ちたいんです。人と関わって生きていけるように。
あの女の子を避けた日から、前を向いて歩くことはほとんどなくなった。誰にも何も聞かれないように、だれのことも傷つけないように。そうしているといつからか、体が貝みたいに固くなって動けなくなることも増えた。
でも、誰かの期待に応えられなくて相手を傷つけてしまうのは、結局自分が傷つくのと同じだ。
先生は何も言わなかった。ただ深く頷く。
そして、
「相手を助けられなかったことがあるのね」
と、言った。
それを聞いて思う。ああ、私はこのことを誰かに認めてほしかったんだ、と。相手を傷つけてしまったかもしれないということを認めてほしかったのだと。
言葉にすることでそれを揺らぐことのない出来事にしてほしかったのだと。見える形、聞こえる形で保存したかった。
うん。助けられなかった。逃げた。
先生はまた頷いた。そして、
「そっか」
と、軽く言った。
「逃げたか。そっかそっか。つらかったね。逃げる前も逃げた後もつらかったね」
先生は優しくそっと置くように言った。
否定も肯定もせず、事実だけをそっと置いた。目の前に置かれた事実を見て、妙に納得する。
私は多分見える形、聞こえる形でこの事実を置きたかった。そうすることで、いつでもあの子に会えるようにしたかった。そうしたら、ちゃんと後悔できるから。
だけど、それができなかったのだ。あなたは悪くないと励まされるのではないか、それともなんで親切にしてあげなかったのと責められるのではないか、それが不安で話せなかった。
私は自分がちゃんと後悔できるようにしたかったんだ。
鼻で細く長く呼吸する。
先生、私もいつかりんずちゃんみたいに走れますか。
「先生はできると気休めのように言うことはできないの。ただ、その行動をとるとき、翠ちゃんの心がすべて納得できていれば、走れると思います。先生はそう思う」
心がすべて納得。
先生、難しいね。曇り空にのぞく一筋の光のように、自分の行く道を照らすのは。
そのとき、また保健室のドアがガララと開く。りんずちゃんが戻って来たようだ。
「クラスの話?」
山田先生がりんずちゃんに聞く。小林先生と何を話していたか気になるらしい。
「ううん、違う。将来の夢作文、何になりたいか書くの決まった?って」
困り顔で答える。
「将来の夢作文っていうのは、就きたい職業を書くやつでしょ?」
二人同時に首を縦に振る。
「無いんだよね。こういう仕事がしたいみたいなのは」
「保育園生くらい小さい時はなんて言ってたの」
山田先生は真剣なまなざしで聞く。
「お花屋さん?でも、なりたいと思って言ってたわけじゃなくて、みんながそんな感じだから、じゃあ私もって」
はあっとりんずちゃんが息を吐く。
「将来の夢なんて抱いたことないな」
「将来こんな風に生きていたいとかは?」
「それは、ある。そんなにたくさんのものは望まないから、自分が見ていたい景色をきれいだな、素敵だなって思いながら生きていたい。自分が生活できるだけのお金を稼げていたらそれでいい。良く晴れた日に外に出るのが楽しみになるようなクツがあって、雨の日には植物がよく育つことを願いながら折り紙をする。それが私の生きてみたいと思う生き方」
ああ、なんてすてきな夢。
「充分じゃない。それがりんずちゃんの夢でしょ。今話してくれたまんまを作文にしたら?」
と、山田先生が言った。
「できないよ。みんななりたい職業を書くんだよ」
りんずちゃんはきっぱりと断る。
「みんなと同じじゃなくてもいいと思うんだけどな」
山田先生がつぶやく。
みんなと同じじゃなくてもいい。ほんとうにそうなのかな。
だって、みんなと同じであるように教えてきたのは先生たちのはずだ。
だから私たちは誰かと同じであることに安心して、溺れていく。同じでいれば、注意されることも、後ろ指をたたれることもなく、居心地がいいままでいれるから。
そこに、安心感を覚えたころ、突然言われる。みんなと同じじゃなくていい、おんなじ人なんていない、と。
突然、不安を覚える。突き放されたように感じる。
個性を守りながら、個性を突き放し、無個性を可愛がりながら、無個性を非難する。
みんなと同じじゃなくてもいい。それは都合よく使える魔法の言葉であり、どんな作用をもたらすか分からない呪いの言葉。
「でも、私は就きたい仕事を書く。内容が嘘だったとしても、他の子たちと同じようにする」
りんずちゃんは、それを選ぶのかもしれない。
嘘をついたとしても、本当のことを書くより、心が納得するから。だから、りんずちゃんはきっと、鉛筆を走らせることができる。内容が嘘だったとしても、気持ちに違和感がないから。
「そお?でもよく考えなね。それって、卒業文集のでしょ?大人になって読み返すかもしれないから」
「はーい」
りんずちゃんは軽く返事をすると、鍵盤ハーモニカを吹き始めた。
ミソラ~ラドシソドレド~
すっかり聞きなれたメロディが空気を駆け抜ける。
私もリコーダーで、りんずちゃんのメロディに合わせる。
スラスラ指を動かせるようになった。目を閉じても平気で吹ける。耳をふさがれても吹ける。
そうやって今日の練習も進んで言ったころ、また扉が開いた。
ノックもせず入って来た人を見て、瞬時に体が凍り付くのを感じる。口についたままのリコーダーをゆっくり離すのが精一杯だ。
放課後の保健室に入って来たのは、鈴木章大だった。
「あら、章大くん、どうしたの。怪我でもした?」
一番に声をかけたのは、山田先生だ。
りんずちゃんが私に顔を寄せ、
「放課後でも、時々児童が来ることがあるみたいだよ。グラウンドで遊んでて怪我するんだって」
と耳打ちしてくれた。
「いや、放課後ここにいるって、小林先生が教えてくれた」
そう言うと、章大くんは表情を変えずに、りんずちゃんの方を向く。
「はい、これ」
と言って何かを差し出した。
それを見て、りんずちゃんはあ~っと、何とも言えないような、何かに納得したような声を出した。
私もほとんど同じ気持ちだった。
章大くんが持ってきたのは、私が園子からもらったのと同じ形、つまり私がりんずちゃんに渡したのと同じ形のユニット折り紙だった。
けれど、りんずちゃんがあ~と声をもらしたのは、その偶然があったからではなく、
「下手くそだね」
ということだった。
そのユニット折り紙は、角がつぶれていたり、折り紙の大きさが合っていなかったり、かなり不格好だった。
正直、下手くそだ。
私もたしかにそう思ったけど、あまりに正直に感想をもらしたりんずちゃんがおかしくて、体の力が少し抜けた。
気づいたら、りんずちゃんが笑い出していた。
そして、
「うん、下手くそ、でもちゃんと形にはなってる。だから面白い」
声をあげて笑いながら、感想をたんたんと述べていく。
その様子もおかしくって、私の体はすっかり元通りのリラックス状態になっていた。
一方、章大くんはというと、
「昔作ってたでしょ、その折り紙」
と、若干居づらそうにそう言った。
りんずちゃんの笑いがやっと収まる。
「作ってたよ。よく覚えてるね」
「最初はどうやって作っていたのか、思い出しながらやってたんだけど、うまくできなくてさ。そしたら、雄大がそれってもしかしたらこうじゃない?って」
私はりんずちゃんと目を見合わせる。
このユニット折り紙のパーツと、あの時作っていた折り紙のパーツ、折り方似てるもんね。
スマホをりんずちゃんに見せる。りんずちゃんがこくりと頷く。
私もそれで、初めて折るにも関わらず、すいすいできたのだ。園子がくれたのに似ていたから。
「んじゃ、おれはこれで」
と言うと、サッと出ていった。
姿が見えなくなる直前、りんずちゃんが、
「ありがとう。下手くそだけど、嬉しい。伝わりにくいかもしれないけど、今すごく喜んでるから。ありがとう」
と、言った。
章大くんは、ん、と返事すると、姿を消した。
「オレンジの折り紙だね。裏側の白が見えてるけど」
昔作ってたのを覚えてて、作ってくれるなんてやっぱり優しいよ。
「そうだね。あれ、なんか入ってる?」
そう言うと、ユニット折り紙を上下に振り出した。
確かに、カサカサっと中から音がする。
園子がくれたときみたいに。
もしかして、章大くんも中に何か忍ばせたのだろうか。
多分、何か入ってるんだよ。家帰ったら開けてみればいいと思う。
「でもこれ、一回開けたら元に戻せるかな。きれいに折られたものじゃないから、難しそう」
その気持ちはよく分かる。私も園子からもらったのを崩すとき、そもそも作り方を知らなかったから、元に戻せるか不安だった。
でも元に戻せたし、何より開けてよかったと思えるものが入っていた。
元気づけてもらえたし、りんずちゃんも開けるべきだと思う。
私は目を細め、りんずちゃんを捉える。
その表情で何か伝わったのか、
「うん、分かった。家に帰ったらすぐ開ける」
と、言った。




