傘を手放して
っぱ夏はホラー百合だよなあ〜〜〜!!Foooooooo!!!という気持ちを込めて書きました。拙い部分ばかりではありますが、よろしくお願いします。
「お姉さん。その傘捨てたほうがいいですよ」
「はあ?」
土砂降りの夜、知らない女の子に声をかけられた。
「危ないものがついてる。傘入れてあげるから、早く捨てて!」
「…………」
あ、不審者か。無駄に冷静になって踵を返そうとした。しかし、手首をつかまれる。
「危ないの!黒い手とか、虫とか、いっぱい見えるし、全体が暗いモヤに包まれてる…」
「わかった、わかった、ここに置いちゃっていいかな?」
「うん」
その子はアヤメと名乗り、私を水色の傘に入れてくれた。
「どこに住んでるの?」
「すぐそこ。あまのぎ町の、リラークかきつばた」
「え、めちゃくちゃ近い!私、あまのぎの隣の、虹波町に住んでるの!」
「まじか…」
ーーーーーーーーーーーーー
「送ってくれて、ありがとね」
「いえいえ〜」
相合傘あるあるだけど、アヤメの右肩がびしょ濡れだ。ずっと私の方に傘を傾けてくれていて、ずっと車道側を歩いてくれていた。
不審者と思ったのは悪かったかも。
「アヤメちゃんも濡れてるしさ、お茶くらい淹れるから休んでいきなよ」
「ええっ。悪いよぅ。私が勝手にしたことだし…」
「風邪引かれても困るから。それとも予定あるとか?」
「いや……」
普段の私ならここまでしつこくはしなかったのだろうけれど、雨の日とか夜とかってほら、寂しくなりがちだから。新しい友達でもできたらいいなあ、なんて考えで、引き留めた。
「シャワー使う?」
「いや、そこまでは…」
「じゃあタオルで拭いて」
こういうときじゃないと使わないからって、新品のタオルなんかおろして。客観的に見てテンションが上がりまくってる。
お茶は好き嫌いがわかんないから、万人受けの緑茶をティーバッグで淹れた。
「…おいし」
「そう。よかった。寒くなったらあったかいものだよね」
「うん…」
「…」
喋ることがないけど、落ち着く。まるで、さっき知り合ったとは思えない。
「あ、ラ◯ンとかやってる?繋がろーよ。……名前忘れてたね、小野寺なるっていうんだ」
「なるさん!よろしくお願いします…?」
「敬語いらないよ、てか使ってなかったでしょ」
「じゃあ、なるちゃん、よろしく!」
SNSまでゲットしてしまった。
ーーーーーーーーーーーーー
アヤメと仲良くなってから一ヶ月ほど経つ。
梅雨が明け、学生は夏休みを謳歌する頃か、久しぶりの雨の朝、誘われた。
『水族館いきたい』
『デートかよ、いいよ』
そう返し、二時間後には傘を持った。
「おまたせ」
「なるちゃん!やっほー!」
いやにきれいにメイクをして、お洒落な服から伸びた手には、ブレスレットとネイル。
「かわいーじゃん」
「でしょ?」
二人で、電車に乗って水族館へ向かった。
その途中、何度も変なことに巻き込まれた。
女性専用車両で痴漢に遭った。
人の少ない駅で足を引っ掛けられた。
何種類かのジュースがスカートにかかった。
そのたび、アヤメが気づいては鬼の形相で相手を睨んだり私より怒ったりするから、私のストレスは実質ゼロだったのだけど。
「ほんとなんなの!なるちゃんばっかり!」
「…へへ、なんでだろうね」
それが嬉しいのは、私の、女の、人間の、汚い性であろうか。
「ようこそ!海良水族館へ!」
「カップル、お友達、ご家族、お一人、それぞれお得なプランありまーす!」
「どっちにする?」
「何が?」
「カップル割かお友達特典か」
「んなっ?!」
「誘ったとき、デートかよって」
「…………………………オトモダチ、トクテン」
その後は、お友達特典のジュースを飲みながらドルフィンショーを見たり、ヒトデやドクターフィッシュを触りまくったりした。
ーーーーーーーーーーーーー
「楽しかったねえ」
ニコニコしてるアヤメと、手がずっと震えてる私。
「ヒトデの感触が消えない…」
「…ねえ」
アヤメが口を開く。
「ん?」
「…私のこと、どう思ってる?」
「え?まあ、いいお友達、と」
「そう」
「?」
「私はね。なるちゃんのこと、好きだよ」
「はあ?」
ちょっと待ってくれ、急展開過ぎる。
「カップル割でもよかったと思うくらいにね」
「は」
傘を、落とした。アヤメとおそろいの、水色の傘。
アヤメはそれを見て、私のと、自分のまで、傘をたたんだ。
「うち来る?誰もいないよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「ここからなら虹波町の方が近いもーん」
「うう…」
強引に腕をつかまれて、雨に降られながら引っ張られる。
「ずぶ濡れだねえ。お風呂入らないと」
「行くなんて言ってないんですけど…」
「じゃあさ、あの呪いの正体知りたくない?」
「…あ、傘の…」
「そうそう。あれ、私にしか解けないと思うよ?」
「なんなんだその自信は…」
そんなこと言ってるうちに。
「ほら、ついたよ」
大きなボロ屋。雑草や木の手入れは全然されていない、生活感がない豪邸。
こんなとこに住んでるの?まじ?
「入ろ。中はきれいだから」
ーーーーーーーーーーーーー
二種類の鍵を使って、扉を開けたアヤメ。
「きっと呪いは抵抗するからー。どうしよ、防音室行こうか」
ばたん、と。防音室の扉が閉じた。確かに中はきれいだ。
「呪いは?」
アヤメはくすくす笑う。
「呪いなんて、嘘に決まってんじゃん」
「へ」
ガチャンと重い音がする。俗に手錠と呼ばれるものである。足首にもつけられたが、これは足錠でいいのかな。
「私、写真は家に飾りつけじゃなくてアルバム作る派なんだよね」
わざわざ渡された重い本に、私の日常生活が四角く切り取られ、丁寧に貼られていた。速攻閉じる。
危機感が、ようやく、津波のような速度と大きさで。
雨か汗か、身体に纏わりつく水分が、気持ち悪さを増幅させている。
「歪んでるとかキモいとか言ってもいいよ。理屈じゃ説明つかないことってあるもんね」
怖い。
「女の子同士だもん。怖いことないよね」
そんなことない。
「大丈夫、大丈夫」
ぐしゃっ、と、冷たい服がつぶれる音。
「ね、なるちゃん」
恋人繋ぎされた手は、汗でぬるぬるしてた。
読んでくれてありがとうございます。
じっとりくるのはサイコホラーかなあと勝手に思って、こんな話を書いてみました。百合じゃねえよこんなん!って思うかもしれないけど、意味分かんね〜〜〜って思うかもしれないけど、書いたものは出さなきゃね!