表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
femme fatale  作者: はとたろ
最終章 蒼い口づけ
8/8

最終章 蒼い口づけ

ドレスを身に着け鏡を見つめる魔樹

本当に自分の為だけに作られたようにサイズがぴったりなのに驚いた


私のサイズなんて知ってるはずないのに…


鏡の向こう側に佇んでいる自分は何故か切なげに悲しい瞳で魔樹を見つめ返す


「おにいさま…おにいさま……」


もうひとりの自分が安道を恋しがり涙があとからあとからとめどなく零れ落ちる


「どうして…どうしてこんなに…」


それもそのはず…アンディールが手首を切り自らの血で染めた生地をドレスに仕立ててあるのだから

狂おしいほどの妹への恋慕と共に…


「魔樹~支度できた?そろそろこーちゃん達、迎えに…」


魔樹のあまりの妖艶な美しさに桃は言いかけた言葉を飲みこんでしまう


「綺麗よ…魔樹、本当に綺麗…きれ…い…」

ドレス姿の魔樹を見て桃の涙腺が壊れたように涙が溢れてくる


自他ともに認めるクールな桃は生まれてこの方、数えるほどしか泣いたことがなかった

まるで感情のない人形のように冷めている自分が何故このように心が震え乱れるのだろう…


「魔樹…綺麗だぜ…流石は安道だな…なんてよく似合うんだ…」


「やだ、からかわないでよ(笑)」


泣き笑いして照れる魔樹に見惚れながらふと横を見ると桃がボロボロに泣いているのに気づき

ギョッとする



「おいっ、どうしたんだ、ももたん! 歯でも痛いのか?」


「違うよ…こーちゃん、魔樹のドレス姿を見たら涙が止まらなくて…苦しくて…切なくて…」


純粋なぶん、アンディールの想いを受けちまうんだな…


「お、おめぇはふわんふわんの白い鳩か!可愛いぜ…」


「鳩じゃないよ…鳩人間なの…」


「そうか、そうか、可愛いぜ、ずっとその姿でいろよ」


桃の頭を撫でながら孝治はアンディールの来るのを今か今かと時計を見ながら待ちわびる



「遅刻魔のこーちゃんが時計を気にするなんて~嵐にならなきゃいいね」


「あはははは!!ほんとだ~」


孝治をからかいながら魔樹と桃がくすくす笑う


「おいおい、勘弁してくれよ、参ったねぇ…」


ピンポーン♪


玄関のチャイムが鳴ると魔樹は滑り降りるようにドレスの裾を翻して階段を駆け下りる


その様子に少し驚いたように桃と孝治は顔を見合わせた


「遅れてすまない…」


紫のタキシードにマント姿の安道が玄関まで迎えてくれた魔樹を見つめ愛し気に目を細めた


「あの…おかしくない…?」


不安げに訪ねる魔樹の頬を撫でながら安道は今にも溢れそうな涙を堪えた


「綺麗だよ…よく似合ってる…」


その言葉を聞いて嬉しそうに魔樹はくるくると回ると無意識に血礼のポーズをとった


「あなたも素敵ですわ…スネイプ公爵…」


「そうじゃない…」


「え…」


「アンディールだ…」


「アン…ディール?」


「おいおいおい、いくら名前が安道だからってちげーだろう! 今夜はスネイプ侯爵とその愛妻のコスプレだぜ」


バカ…はえ~だろう!


孝治は目くばせしながら安道にシーパシーを送った


「そうだな…あまりにきみが素敵だからつい、韻を踏んでしまったよ」


大真面目な顔で言われて魔樹は笑った


「ところで…こーちゃん、どう見てもVampireなんだけど…ミイラ男かゾンビになるんじゃなかったっけ?」


「気が変わってな…こっちのほうが…好きだろ?」


自信ありげに据わった眼差しで言いはられ桃は抗えずに目をハートにして何度も頷いた


「ほんっと素直だな…お前はよ…」


「くるっ、恥ずかしいっぽ、くるるっ」


「鳩になりきってやがる(笑) んじゃ行こうぜ」


孝治の運転で4人は神奈川の別荘に向かった


1時間後…


古めかしいが威厳のある洋館が皆を出迎える


「うわぁぁぁ…すっご~っ!ムード満点…霧まで出てきたし…」


Vampire好きの桃は大喜びではしゃいでいる


「お手をどうぞ、お姫様…」


差し伸べられた安道の手をとり、魔樹は孝治のヴァイオリンに合わせてワルツを踊る


こーちゃん、素敵…アンディール様とマキーシャ様もなんて素敵なの!!!


桃はうっとりしながら「あれ…何、言ってんだろう…私…おかしいのかな…」


う~ん…わかんないや…鳩は脳が小さい…


わけのわからない理屈で無理やり自分を納得させる


「上手だね…」


「リードが上手いからだわ…」


昔、こうしてこの人と踊っていたような…何だろう…この感覚…


「ねぇねぇ、リュートで何か弾いてほしいな~」


「かしこまりました、お嬢様…」


安道はウインクしながら桃のリクエストに応えるべくリュートを用意し奏ではじめる


切ない旋律が心の琴線を震わせ魔樹は涙が止まらない


ああ…この曲…そうよ…私はこの曲が大好きだった…


おにいさまの弾かれるこのメロディが…


「おに…い…さま…おにい…さま?」

リュートを弾く指がピクリと止まった


「きみに見せたいものがある…」


(くれない)の魔眼の孝治に見つめられ肩を抱かれながら桃は庭園へと歩いて行った



「おにいさま…アンディール!  あなたなのね…私のアンディール!!」


魔樹の中で、いや、マキーシャの中で何もかもが霧が晴れるようにクリアになっていく


「マキーシャ…!!思い出してくれたのか…わたしのマキーシャ!!!」


「おにいさま!! 迎えに来て…くださったのね…待って…待っていました…」


2人は抱き合いながら離れていた時間を取り戻すかのように熱い口づけを交わす

そしてマキーシャの髪をかきあげゆっくりとうなじをあらわにすると…接吻し犬歯を

深く中へと食い込ませる…


「ああ…」


「人間のお前の命を一度は奪わねばならない…許してくれマキーシャ……」


血を吸われながらうっとりするマキーシャを自分の胸元へと引き寄せると

アンディールはタキシードを脱いでシャツのボタンを外し…長い爪で自らの乳首を傷つけた


「さあ…お飲み…蒼い口づけを…」


マキーシャはまるで乳飲み子のようにアンディールの乳首を口に含むとコクリ…コクリ

…と喉を鳴らす


数分後…ふたりはベッドの上で狂ったように互いを貪り合っていた…


「ああ…マキーシャ……どれほど…この時を待っていたか…夢なら覚めないでくれ…!!」


「夢ではありません…あなたが見つけてくださったのですよ…言ったはずです、この髪も

この胸も…血の一滴の最後まで私はあなただけのモノだと…」


愛している…愛している愛している!!!! 愛しているよ…


涙に濡れながら想いを確かめ合い夜が明けるまでふたりは肌を許し合った



隣の部屋では桃が寂しそうにぼそりと呟いていた


「ひとりに…なっちゃった…マキーシャが目覚めて…ひとりになっちゃった…」


孝治からすべてを打ち明けられた桃は妹の幸せを願いながらも寂しさに震えていた


「一度も離れたことないのに…どうしよう…」


泣きながら震えている桃を見つめてコージュはため息をついた


「まったく…お前って奴はどこまで天然なんだよ…」


「え…?」


泣き止むのと同時に唇を奪われ桃はすべてを思い出した


「コージュ…コージュさ…ま」


「思い出したか?お前のコージュ伯爵だよ、ポーリシャス…」

ふと自分を見ると真白いふわふわの翼に愛らしい嘴…黒目がちの瞳…まるでぬいぐるみのような可憐な

鳩人間になっていた


「マキーシャに失恋してから女嫌いになった俺は彼女が可愛がっていた天使のように真っ白い無垢な

鳩のお前に恋をして…じいさんに頼みこんで…お前を鳩人間にして妻に迎えたんだよ…」


「ええ、ええ、思い出しました…くるっ、しがない鳩の私に貴方はいつもお優しかった

…コージュ様…」


「よしよし…いい子だ…じゃあ帰るか、我らが城へ…」


その夜…大きな黒い馬車は愛し合う恋人たち4人を乗せ霧の中へと消えていった


Happy End






最後まで読んでくださり心よりお礼を申し上げます

物心ついた時からNosferatuに憧れ

ずっと描きたかったテーマなので長編になってしまいました


今回は少しお笑いの要素が入ってしまいましたが次回の作品はシリアスにNosferatuの切ない物語を語らせていただきたいと思います

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ