第七章 Dress
「あれ、出かけるの?」
桃に聞かれめんどくさそうに魔樹が応える
「安道さんが渡したいものがあるんだって…ちょっと行ってくるね」
「なになに~なんか美味しいモノだといいな♪」
「食いしん坊なんだから(笑)お土産、買ってくるよ」
「わぁ~い♪期待してるね~」
姉の食い意地に吹き出しながら魔樹は玄関から出て行った
近くの公園のベンチに座りぼぉーっと空を眺めている安道を見つけ魔樹は声をかけるのも忘れ
立ちすくんだ
カサ…枯葉を踏む音に安道が反応し振り返ると片手に紙袋を持ち笑顔で走ってくる
「呼び出してごめん、これを君に…」
「私に?何?」
大きな紙袋を受け取ると訝しげに安道を見あげる
188cmの彼や孝治と話すには小柄な魔樹はいつも見上げる形になる
「大丈夫だよ、危ないモノじゃないから」
優しく微笑む安道に一瞬、抱き着きたい衝動に駆られる
やだ、私、どうかしている…
安道はそんな気持ちを察したように長い両腕を広げた
おいで…とでも言わんばかりに…
ギュ…
躊躇なく駆け寄り抱き着いた魔樹を安道はあらん限りの優しさを込めて抱きしめながら
やわらかな黒髪をそっと撫でた
どうして…こんなに心地いいの…どうしてこんなにも安心する…の…
「身体が冷えてる…ダメだよ、こんな薄着で来ちゃ…」
自分のジャケットを脱ぐとふわりと魔樹の肩にかけてくれる
「中身…」
「ん?」
「紙袋の中身…何なの?」
「開けてごらん」
ベンチに座り魔樹はもどかし気にラッピンクをはがし大きな箱の蓋を開ける
「え……」
目の覚めるように鮮やかな真紅のドレスが視界を捉えた
「きれい…でも…これ、どうして私に…」
「今年はVampireの妻に扮するって孝治が言ってたから…衣装は任せてって言ったろ?」
「あ、因みにそれ、俺が縫ったの、ハンドメイドね」
ウインクしながらそう言われ
「う、嘘~~だ、だってフリルも見事でなんかお店で売ってたらめちゃくちゃ高そうだ
し…どう見ても素人が作ったドレスに見えない!!!!」
「ああ、俺、洋裁が好きでね、帽子作ったり編み物したり芸術学院にいた時に勉強したんだ」
「デザイナー志望だったとか…?」
あっはは…愉快そうに笑うと安道は優しい瞳を魔樹に向ける
「違う違う、そういうわけじゃないけどね…愛する人に自分で作ったウェディングドレ
スを着せるのが夢なんだ。それで勉強したの」
ズキン……魔樹の胸がキリキリと痛みだす
「ウェディングドレス…安道さんは好きな人、っていうか恋人がいるのね」
ギュッ…!!
軋むように強く指を握られ魔樹は顔をしかめた
「痛っ…」
「いないよ…恋人なんて…正確にはいた…かな…」
ひどく哀しそうな眼差しで唇を噛みしめている安道を目の前にして魔樹は聞いてはいけない質問をしてしまったことを心底悔やんだ
「ごめんなさい…」
「悪いと思ってる?」
コクリと頷く魔樹の頬を撫でながら
「ならHallowe'en本番はそれを着てパーティーに出ること!」
「えっと、つまりこれを着てコスプレしろってこと?」
グイッ…!!
「あっ…」
強引に引き寄せられ魔樹は安道の胸に崩れ落ちる
「約束して…31日はそれで来るって…」
「ん…」
あの人といると調子、狂うな…
安道に指切りさせられ公園を後にした魔樹は紙袋を手に留守番している食いしん坊の桃のため、セブンに寄り肉まんを買って帰った
to be continued