第六章 契約
薄暗い部屋のなかキャドルの灯りがともる
ペンタクルを描き終えたアンディールは「その時」を迎えるための準備を済ませた
「誰を召喚しようってんだ? え? アンディール」
背後から聞き覚えのある声がした
気のせいか? と思いながら振り向くと…
マキーャを抱きかかえたアンディールを城に匿い埋葬の手筈をしてくれた親愛なる友人コージュが
シルクハットに漆黒のタキシードのマントをなびかせ腕を組んで佇んでいる
「なんだ、その恰好…お前には…感謝してるよ…だが邪魔しないでくれないか…」
殺意の籠る眼差しを友に向けアンディールは苛立ちながら舌打ちする
ふっ…俯きながら微笑むコージュは静かに口を開いた
「お前さんが何をしたいのかは察しがついてる…協力してやろう…」
「え…?」
コージュの以外な言葉にアンディールは驚きながらも耳を疑った
「仕方ねぇな……長老に頼んでやるよ…俺が跡を継いで当主になれば済むことだ」
コージュは自分が何者であるかゆっくりと語り始めた
「出来れば話したくなかったが…俺の家は代々中世から続く純血種のVampire一族だ」
「……からかってるんじゃないだろうな…」
半信半疑な様子のアンディールに構わずコージュは続ける
「うちのじいさまは我が一族が誇るクロック・ノアール公爵だ、そっち系に詳しいお前さんなら名前
くらいは知ってるだろう」
「クロック・ノアール…底知れない力を持つ魔界の大魔王でありVampireの純血種か…」
「俺は人間として気楽にやっていきたかったが…マキーシャがあんな事になり…今のお
前をこれ以上…黙って放ってはおけねぇんだよ!」
「コージュ…」
炎のように真っ赤に燃える魔眼と気迫にアンディールが昔から知っている天然ボケのコージュの面影は何処にもない
「じいさまに頼んでNosferatuになれ…不老不死となり彼女の生まれ変わるのを待つんだ…
どうせ契約の目的はそれなんだろ?」
「否定はしない…」
「なら、話は早いな!…いくぞ!」
コージュは漆黒のマントを広げアンディールを包み込むと霧に姿を変え夜空を舞い古城へと降り立った
数時間後…気難しい面持ちのクロック公爵はスラリとした長い足を組みながらアンディールをじっと見つめて念を押す
「本当に…後悔はないな?」
「はい…」
「二度と人として天国の門をくぐることはまかり通らぬ…お前は彼女に愛されるまで何百年、何千年もの時を独りで待ち続け彼女が転生したら逃さず傍に行き時が来るまでの間、おのが姿を現すことなく…
ひたすら彼女を見守り続けなければならない」
「転生すると前世の記憶はなくなる。仮にだ…いつ人間の男と恋に落ち結婚するかもわからない…
マキーシャが19になるまでお前は悪い虫がつかないように見守るしか出来ないというわけだ…
理解したか?」
「はい…」
クロックは鋭い眼差しをアンディールに向けると突如、カッと見開いてステッキを床に叩きつけた
ダン!!!!!!!
「声が小さい!! わしは人間風情に慈善事業する気はない!!」
知らぬ者はいないほどその名を轟かせ誰もが一目置くクロックの気迫にアンディールは
自らの無礼を即座に理解しぶしつけな態度を改めた
「申し訳…ございません、このアンディール、しかと理解致しました…」
「おう、じいちゃんよ、あんまり俺の友達をイジメんなよ」
コージュのとりなしでクロックの表情が和らいだ
「コージュ…お前がわしの跡を継ぐという約束のもとにこいつと契約してやるのを肝に銘じておくのだぞ」
「わかってるよ、約束は守るぜ、アンディールはいい加減な奴じゃない。俺が保証する」
「まったく…お前にはいつも驚かされる…」
可愛い孫に頼まれクロックは渋々頷いた
「よろしい…アンディール、では…こちらに来なさい…契約書にサインを…」
「はい…クロウ様、マキーシュは我が半身でありかけがえのない命です!
再び彼女が転生しこの腕に抱きしめるまでわたしは不老不死となり彼女を見守り目覚めさせ、
必ずや我が妻と致します。
人間風情のわたしを一族にして頂けることに微塵の後悔も迷いもございません!」
愛する者への恋慕に飢え餓え求め続ける真剣なアンディールの眼差しに命がけの青い炎を垣間見た
クロックはただ静かに頷いた
「そなたの想い……確かに受け取った…」
雷鳴が轟く夜、アンディールは契約しNosferatuの儀式を受けた
to be continued