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femme fatale  作者: はとたろ
第五章 恋慕
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第五章 恋慕

マキーシャが儚くなり幾日経っただろう


今宵もアンディールは墓地を訪れる

棺に眠る愛しい人を抱くために…


コツコツコツ…ひんやりした静寂(しじま)のなか、足音が響く


ギィィィ…


「マキーシャ…マキーシャ…待たせたね…ひとりで寂しかったろう、怖かったろう…許しておくれ…」


虚ろな瞳でやつれ果てたアンディールは棺の蓋を開けると愛しい妹の亡き骸に接吻し愛ではじめる


「愛している…愛している…ああ…愛しているよ!!」


毎晩、毎晩、幾度となく躯となったマキーシャを抱きにくるアンディールの眼差しには

狂気が宿りもはや(うつつ)は蚊帳の外であった


最後の夜…寝室の枕元に短剣を忍ばせマキーシャは物心ついた時から抱いていた狂おしいほどの

想いのたけをアンディールに告白し無垢なる純潔を捧げ彼の妻となった


互いの想いを確かめ合うように何度も何度も愛し合い夜明け近くに気を失うように眠りについたアンディールを愛しそうに見つめるマキーシャ


「おにいさま…私は未来永劫…あなただけのものです。生まれ変わったらきっときっと

…見つけてください…愛しています…アンディール…」


羽根ペンを走らせながら涙が溢れぽろぽろと滴り落ちる


マキーシャはそっと枕元の短剣にその手をのばすとためらうことなく自ら命の炎を消した


冷たくなったマキーシャを抱きしめながら涙を流し放心している友を前にコージュは頭

が混乱し言葉を失い暫くの間、立ち尽くしていたがふと我に返るととめどもなく流れる涙を拭うのも

忘れアンディールの肩に手をかけると優しく話しかける


「アンディール…おい、アンディール…聞こえるか?アンディール…」

友が反応するまで何度も何度も呼びかけ続けた


「そのままじゃマキーシャが風邪をひいてしまうぞ…その姿を見せたくないだろう…き

ちんと…休ませてあげないと可哀想だぜ…」


嗚咽を堪え必死に説得を続ける

コージュにとってもマキーシャはかけがえのない大切な幼馴染であり妹のような存在でありそして…

初恋の人だった


「マキーシャ…風邪をひいたら…大変だ…!!」

コージュの呼びかけに反応するアンディールに少し正気を取り戻したかとコージュはすかさず話しかける


「そうだよ…服を着せてやんねぇとな…凍えちまうぜ…お前が着せてやらないと…なぁ

…アン…ディール」


そのあとのことはアンディールは憶えていない


マキーシャの身体を拭いてやろうとしたアンディールは彼女の手に握られた鮮血が滴る

短剣に気が付いた


それは以前、旅行帰りのお土産にと彼女に贈ったルビーやサファィアが散りばめられた

美しい短剣だった


「なんて美しいの…!素敵だわ…おにいさま…!」


マキーシャはまぁるく瞳を輝かせてひどくその短剣を気に入り、アンディールに抱き着

くと可憐なKissの雨を降らせて「一生お守りにするわ」と大切にしていたのを思い出し

アンディールは泣き叫びながらその短剣を懐に忍ばせるとマキーシャのお気に入りだったドレスに

着替えさせコージュに言われるまま友の馬車へと乗りこんだ…


娘の婚約を正式にまとめた父マルクは幸せそうな花嫁姿を心に描きながら約束された未来に安堵して

帰宅すると真紅に染まった娘の寝室に慌てふためきアンディールを呼ぶが返事はなく屋敷中をくまなく探した

息子の姿は何処にも見当たらずに惨劇の跡を残して2人は自分の前から永遠に忽然と姿を消した


to be continued


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