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femme fatale  作者: はとたろ
第三章 とまどい
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第三章 とまどい

第三章 とまどい



「しつこいな…」

携帯を見つめながらため息まじりに呟く魔樹


安道と出会って一週間、毎日朝から寝るまでの24時間メール攻撃

孝治が教えたであろう魔樹の受信ボックスは安道一色で埋まっていた


「こうなると…ストーカーだね、こーちゃんに相談したら?」

メールを覗き込みながら呆れている桃に振りかえる


「とっくに言ったわよ、意味なかったけど…」


一昨日の夜


「おうおう、どした?」


「どしたじゃないわよ、こーちゃん、安道さんに私のメアド教えたでしょ」

なかばキレ気味の魔樹に焦る孝治


「そういゃあ、マックで聞かれたっけな、わりぃ、勝手に教えちまって…で、なんだって?」


「あのさ…毎日毎日、聞いてないのに朝から寝るまで自分のスケジュールを細かく説明してきて…又会いたいとか30通くらいメールしてくんのよ!…倒れた時にうちまで送ってもらって…世話になっちゃったから文句言えないじゃない…こーちゃんからなんとか言ってよ」


「毎日30通…マジかよ…わかった、今日、安道にちょっと会って話してくるぜ」


「え?」


「迷惑かけてごめんな、仕事終わったら行ってくるから安心しろよ。んじゃ」


「ちょ…こーちゃん!」

ツーツーツー…

「まぁ、いいや」


疲れたように携帯を置いてため息をつく魔樹を見て桃は心配と好奇心とで少しわくわくしながら

聞いてくる


「こーちゃん、なんだって?」


「安道に会ってくるって」


「よかったじゃん、ねえねえ…安道さんって、どんなメール送ってくるの?」


魔樹は無言で携帯を渡した


おはよう、寝起きで髪が跳ねてる俺です(笑)

魔樹は眠れた?

たぶん3時間くらいしか寝てないか…ショートスリーパーだもんな

これからスタジオに行ってアルバムの打ち合わせ


じゃまた 安道


メールには眠たげに髪をかきあげる安道の自撮りが添付されていた


「かっこいい…」


画像を見つめため息まじりにポォーッとしている姉を見た魔樹は思わず耳を疑った


「へ?」


「だって~寝起きだよ、ね・お・き!目がとろんとしてなんか素敵じゃない」


桃は安道からのメールに目を通すと


「すごいね…移動中の建物や景色…スタジオでまた自撮り…いやん、これ半面だぁ~」


きゃっきゃと笑いながら喜ぶ桃を見て魔樹はひと言


「じゃ、おねえちゃんが付き合ったら」冗談めかしに呆れて言ったのだが…


「え、え~ そんなの迷惑じゃない?  でも どうしたらいいかな」


かなり乗り気な桃に魔樹は驚きながらも閃いた

そうだ、おねぇちゃんがこいつと付き合ってくれたらストーカーメールから解放されるかも!

こーちゃんはあてにならないし…よし!


「おねぇちゃん、とりあえずメールしてみなよ、画像添付して。撮ってあげるから」


「わぁ嬉しい♪魔樹写真撮るのうまいもんね、うん、うんお願いしま~す♪あ、着替えたほうがいいかな」


「そのままで可愛いよ、じゃいくよ~口角あげてね~はいっ、チーズ」


パシャリ


「ほら、可愛く撮れたよ」


「ほんとだぁ、黒目がちで可愛い♪ 私の三白眼がわかんないよ~ありがと~」


「メール、なんて打ったらいいかな」


魔樹の目の前で嬉しそうにメールを打つ桃を見て おねえちゃんのタイプみたいだしいけるかも


「なんて打ったの?」


「うん 見て、変じゃないかな?」


重度のシスコンの桃は妹にメールを見せながら不安そうにしている


「ふん、ふん、いいじゃない。かわいいよん」


ストーカーからの解放感に安心した魔樹は桃のメールを読みながら2人がうまくいくようにアドバイをしはじめた



ピロン♪


メールの受信音にはね起きたアンディールこと安道は慌てて受信メールを開くと…


安道さん、はじめまして

魔樹の姉の本城桃です

こーちゃんには「ももたん」って呼ばれています


先日は妹を家まで運んでくださってありがとうございました

魔樹はすっかり元気になってさっきデートに出かけました(笑)


こーちゃんから安道さんはリュートの奏者と伺って感動しました

私ね、「トリスタンとイゾルデ」が好きでトリスタンはリュートの名手なんです

だからリュートにとても興味があって…

もし、もしご迷惑でなければメル友になってください

リュートのこと、いろいろお聞きしたいです


あ、添付画像は出かける前に妹が撮ってくれました


突然メールしてごめんなさい

どうかお気を悪くなさらないでくださいね



クックック…「デートねぇ…嘘が下手だね…マキーシャ…」


メールを読み終えると安道は優しい微笑みをたたえながら返信ボタンのキーを押し長い指で文字を打ち始めた


10分後…ピローン♪


「きゃ~魔樹、魔樹、返事がきたああぁぁぁぁぁ」


「お、やったね♪何だって?」


携帯を握りしめピョンピョン跳ねながら歓喜する桃は安道からのメールを読み始めた


おねーちゃん、メールと可愛らしい写メをありがとう

いゃあ~美人さんですね

やっぱり姉妹だなあって同じ血族の絆を感じて感動しているあんちゃんです


あ、俺、安道弘司っていいます

こーちゃんには安道って呼ばれているけど自分のこと「あんちゃん」って言ってるのw

あんちゃんでもおにいちゃんでも弘司でも好きなように呼んでね


リュートがお好きだとは嬉しいです!

俺は最初はソロのギター奏者としてやっていきたかったんだけどおねーちゃんと同じく

騎士道伝説が好きでね

ミンネを語る吟遊詩人やトリスタンもリュートの名手でどんな音色なのか興味が沸いて

調べているうちにドハマりして気付いたら奏者になっていました

添付したのは俺の演奏している楽曲のアルバムです

よかったら聴いてみてね


で、自撮り苦手だけど美人さんに敬意を表して撮ったよ

俺、笑うの苦手で無表情だけど怒ってるわけじゃないからねw


これからもよろしくね


それとデートを楽しんでる妹さんによろしく




あんちゃんより


桃は添付の画像を見ると無口になる


「この人…どうしてこんなに辛そうなの? 何でこんなに切なそうで悲しそうな眼をしているんだろう 」


「どれどれ…」


桃が差し出す写メを見て魔樹はまた目眩がした


なんともやるせなそうな辛そうな表情で長い黒髪を華奢なシルバーチェーンで束ね佇んでいる安道は

中世からタイムスリップしてきたような独特な雰囲気を醸し出している


どうしてこの人を見ると胸の奥がざわつくのだろう

頭が痛い…


「ねぇ、魔樹、すぐ返信したらしつこいかな」


焦りやの桃の言葉に我に返った魔樹


「ちょっとちょっと、来たばっかりでしつこいよ、明日にしようね。焦りやさん」


興奮気味の桃をなだめながら魔樹の心境は複雑だった

なんだか私の嘘を見抜かれているような気がする

おねえちゃんと付き合ってくれればしつこくされなくて清々するって思っていたのに…

何でだろう…

この人は私が誰かと会っていても平気なの?


あれ…私、何言ってんだろう

何考えてんだろう

桃とこの人にくっついてほしくて焚きつけたのに…

考えると頭に霧がかかっているようにモヤモヤしてくる

この感覚はなに…


自分でもわからない想いにとまどいながら魔樹は携帯を桃に返した




to be continued


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