黒と焔と白詰草と
初出 : 2016/1/28 pixiv
鯰尾side
からり、と障子が音をたてる。
ボクのことわかりますか
口を開く前に降ってきた言葉に、俺は一つ息を吐き…
俺とあいつは、いうなれば腐れ縁と言うものだろう。
一度別れて、また出会って…そして今は背中合わせに俺たち自身を振るうことすらある。
時間の単位は、数十年とか数百年、なんてものだけれど。
一番初めに一緒にいた時には、あいつにはまだ名前がなかった。
いや、なかったわけではないけれど、それがあいつだけを指すにはあまりにも漠然としていた。
その後あいつは他の城にもらわれて行って…次に俺の記憶にあいつの姿が現れたのは、戦場で敵方の大将の刀としてだった。
そして俺は…そこで燃えた。
ここまでの話があっさりしてるのは、それが原因で記憶が一部ないからだ。
燃えて、一度刀としては死んだ俺はあいつの主の命で再刃され…あいつと再会した。
あいつは、あの戦を無事にくぐり抜け、名を授かっていた。
物吉…
勝利を運ぶ、幸運の刀と。
何が幸運だ、俺にとっては…と思い、思わず言い放っていた。
俺は記憶が一部無い…、だから君のこともわからない、と。
あいつの傷ついたような顔を見て、少し後悔もしたけど…俺の知ってるあいつは、無銘の貞宗で、物吉貞宗ではないと自分をもだました。
俺のその言葉が、思ったよりもあいつをずいぶんと傷つけてしまっていたことに気付いたのは何百年もたって、ここにあいつが喚ばれてきた時だった。
「久しぶり?いや、さっきまで話してましたよね?」
そう、必死に言い募るあいつを不思議に思いながらも俺がこちらに来たのは約半年前で、その間あいつと一緒にいた俺も俺には違いないけれど、違うということをどうにか教え込んだ。
「つまり、こうしてる間にも、向こうには鯰尾君もボクもいるってことですか?」
そう、そう確認してくるあいつに頷けば、あいつは苦く笑った。
この時点では、不思議に思っただけだったけれど、最近あいつが出陣から帰ってくると決まって聞いてくることがあってさすがに気が付いた。
それは決まって、俺たちが戦った、あの戦場から帰ってきた時だった。
そして今日も…
だから、俺は、せめてこう答えるんだ。
全部、覚えてるよ、と。