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第十九話「高貴なる友」

 その後、ジャックは席を探すことにした。

 教室には木製の机がひな壇状にずらりと並んでいる。

 だが、席の指定は特にないらしい。

 ということで、ジャックは窓側の一番後ろに座った。

 あまり目立ちたくない彼にとって、ここが最高の位置なのだ。

 その隣にはミシェルが座る。


「はぁ、ハンナちゃん可愛いなぁ……」


 ミシェルは頬杖をついて、うっとりしていた。

 これが恋の病というものなのか。

 とその時、ジャックの前の席に一人の青年がやって来た。

 ダークブラウンの髪で、ぽっちゃりとした体型をしている。

 黒い太縁のメガネが特徴的だ。


「ここに座ってもよろしいかな?」

「ええ、どうぞ」

「では失礼するとしよう」


 彼はそう言うと、どっしりと腰を下ろした。

 そして、ジャックの方を振り返る。


「我こそは高貴なる者、アテコ・ベイカーである」

「こ、高貴?」

「いかにも。我は古くから宮廷に仕える上級貴族、ベイカー家の五男である。故に、高貴なる者なのだ」

「は、はぁ……」

「して、そなたの名は何と申す?」

「ジャック・ハリソンといいます。以後、お見知りおきを」

「そうか、ジャックと申すのか。これからよろしく頼むぞ」

「ええ、こちらこそ」


 というわけで、ジャックに新たな友達ができたわけだが。

 なんだか癖の強そうな人だ。


(ベイカー家……。聞いたことないけど、宮廷に仕えるってことはよほどの権力者なんだろうな。これは敵に回さない方がよさそうだ)


 そんなことを考えていると、アテコがミシェルに話しかけた。


「そういえば、そなたの名をまだ聞いてなかったな。何と申す?」

「はぁ、ハンナちゃん……」

「ん? ハンナと申すのか」

「あー違います違います! この人はミシェル・スミスさんです!」


 と、慌てて割って入るジャック。

 危うくとんでもない誤解が生まれるところだった。


「ほう、ミシェルと申すのか。して、なぜ違う名を申したのだ?」

「彼は恋の病に侵されておりまして……」

「恋の病? よく分からぬが、つまりは病ということか」

「え、ええ、まぁ……」

「それは大変だ。早く治さねばな」


 アテコは心配そうな顔でミシェルを見ていた。

 なんとか誤魔化せたが、勘弁してほしいものである。


「もしもしミシェルさん。そろそろ戻ってきてもらえます?」


 その呼びかけに、ミシェルはうっとりしたままだった。

 ジャックは肩をすくめて溜め息をついた。

 こうなれば、奥の手を使うしかない。


「いつまでもそんな調子でいると、他の男にハンナさんを取られてしまいますよ」

「ハッ!」


 ジャックの一言により、ミシェルの意識がようやく戻ってきた。

 ちょうどその時、チャイムが鳴った。

 ざわついていた教室が静まり返り、緊張感が走る。

 すると、教室の扉が開いた。

 そこから入ってきたのは、黒いローブを纏った女だった。

 銀髪の頭で、見るからに厳しそうな面構えをしている。

 彼女はハイヒールの音を響かせ、教壇に立った。


「このクラスの担任となった、キャサリン・フレッチャーだ。お前たちは、誇り高き我が学院の門を潜った選ばれし者たちである。そのことを常に心掛け、学院の名に恥じぬよう努めるように。……では早速だが、お前たちの実力を測らせてもらうとしよう。校庭に移動するので、ついてくるように」


 キャサリンはそう言うと、教室の外へ向かった。

 クラスメイトたちは席から立ち上がり、その後に続く。

 そんな中、ジャックは不安げな様子でいた。


「実力を測るって何をさせられるのでしょう……」

「さぁな。とにかく俺らも行こうぜ」


 ミシェルはあまり気にしてないらしく、足取りも軽かった。

 自分の実力に自信があるのだろうか。

 そんな彼に、ジャックもしぶしぶついていった。




 校庭に着くと、キャサリンによる説明が始まった。


「さて、全員集まったな。お前たちにはこれから魔術狙撃を実施してもらう。ルールは簡単だ。あそこにある人形を魔術で撃ち抜く。どんな魔術を使っても構わない」


 たしかにそこには、人形が置かれていた。

 だが、なかなか距離がある。

 ここから魔術で撃ち抜くとなると、それなりの魔力が必要だ。

 とはいえ、今のジャックにはディメオがあった。


(よし、これならなんとか行けそうだな)


 ジャックはホッと胸をなでおろした。

 とその時、キャサリンから思わぬことを告げられた。


「ただし、魔導具を使うことは禁止とする」

「……え?」


 まさかの事態に、ジャックは動揺を隠せずにいた。

 あの距離の人形をディメオなしで撃ち抜かなければならないのだ。

 当然、ジャックにそんな魔力はない。


(ど、どういうことなんだ!?)


 すると、キャサリンが話を進める。


「我が学院の生徒であれば、魔導具などに頼らずとも容易く成し遂げられるはずだ。お前たちがここにいるに相応しい人間なのか、とくと見させてもらうぞ」


 つまり、ここで失敗すれば学院に居場所はないということなのだろうか。

 ジャックは不安と焦りに駆られていった。

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