ヨゴれたカネのハナシ
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「ホワイトドラム」と呼ばれる巨大な太鼓型の建物――本部に、私と相棒は呼び出されたわけだ。誰にってボスに。最近、手が空いているので、たまに召喚されるのは、かえっていい暇潰しなのかもしれない。
ボスは自身の居室において、いつも書類に目を通すかゴルフクラブをスイングするかしている。書類をペーパーメディアで読むのはいかにも前時代的だし、クラブを振ったところでコースを回る暇はない。齢八十の老人だが、無駄な時間を費やすことについては、変な話なのだけれど、ある意味余念がない。
マホガニーの机の向こうで書類を眺めているボスである。
「最近、偽造紙幣が出回ってる。知っているかい?」
「そりゃあね」と私は答えた。「ヤフーニュースくらいは見るから」
「えーっ、せっかくならもっと確度の高い情報を得てもらいたいなぁ」
「わかってるよ。冗談に決まってるじゃない」肩をすくめた私である。「ウチの『情報部』から逐一知らせは受けてる。ヤクザなんでしょ?」
「そうだ」と言って、ボスは大きくうなずいた。「金にまつわる話について最も詳しくて最も恭しくて最も目敏いのが彼らだ。金の話があるところに彼らありというわけだ」
私は顎に右手をやり、ふむふむとうなずいた。
「それで、どうしろと? 『情報部』と連携して、取り締まれっていうの?」
「『情報部』との連携は不要だ。あいにく、彼らは忙しい」
「否定はしない。くどいようだけれど、私たち『行動部』が現状暇であることも否定はしない」
「まあまあ、冗談半分の冗談なんだから。怒らないでよ」
「怒ってはいないけど」
ボスが唐突に「クボクラ」と人名らしき語句を吐いた。クボクラ。そう聞かされると、ピンと思い浮かぶ人物がいる。相棒だってそうだろう。相棒が「奴さんがどうかしたんスか?」とじゃっかん不機嫌そうに早速訊ねた。「記憶力がいいね」とボスに茶化された相棒は舌を打った。
「そもそも偽札騒ぎはいまに始まったことじゃあない。最近も数件あったし、都度、精度の高い紙幣もどきが確認されている。幸運なことは、いままでのケースにおいては原版を回収できたということだ。今回もそうしたいし、そうありたい。わかるよね?」
「わかるッスけど――」
「わかるッスけど、なんだい? ○○くん」
「ですから、クボクラがその道に詳しいってんですか?」
「そうだよ。公安、四課だね、彼らの情報収集能力はぼくたちに匹敵する」
「だから、やれと?」
「そうだよ。やれ、だ」
相棒が緑色のボックスから取り出したアメスピをくわえた。
「○○くん、ここは禁煙だ」
「わかってるッス。もう行くッス」
自動式の戸を抜け、相棒は出ていった。
私は腰に手を当て、あらためてボスのほうへと向き直った。
「ボスは直接、クボクラと話をしたの?」
「それってなにか重要かい?」
「クボクラは信用ならない。ボスは信用できる」
「いい答えだ」ボスは満足げだ。「億単位で市場に流してるヤクザのもろもろについては把握している」
「億単位? なにやってるの、おまわりさんは」
「限りなく完璧に近い。そういうことだよ」
呆れ、私は小さく首を横に振った。
「でも、流通を許すのはおかしい」
「そんなにいじめないでよ」ボスはなぜだか納得したように「うんうん」とうなずいた。「世の中に出回っているであろう数を考えると、回収はほぼ不可能だ。ただ、これ以上そうならないよう、防ぐことはできるだろう?」
「まあ、出所がわかってるっていうんならね」
「がんばろうよ」
「そうだね。っていうか」
「うん?」
「どうしてかな? 偽札騒ぎなんて、テクノロジーの進歩とともになくなりそうなものだけれど」
「テクノロジーが進歩するから、いたちごっこになるんだよ」
それもそうか。
私はそう納得した。
「クボクラの連絡先は?」
「はい」ボスは速やかに懐から紙切れを取り出し、寄越してきた。「直接電話をくれたら出るってさ」
「なんだか舐められてるような気がしてならないね」
「今回に限ってだけど、仕事仲間だ。うまくやろうよ」
「オーケー、ボス」
私もまた、部屋を後にした。
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某駅のロータリーを指定してきたので、相棒と二人、電車で訊ねた。ピカピカの黒塗りのセダンが止まっていて、公用車に用いられるナンバープレートではなく、それはフツウである。相棒と後部座席に乗った。ごつい運転手の隣、助手席にはベージュのコートをまとった人物がいる。オールバックの彼がクボクラだ。先日いろいろあったが、いろいろあったというだけだ。彼はなにも気に留めていないだろうし、こちとら同様。
とっとと仕事の話をしようと考え、私は「これから早速行くの? 行かないの?」と訊ねた。クボクラは男にしては少々高い声で、「あとは向かうだけなんですよ」と結論だけ答えた。
「私たちは単なる兵隊ってこと?」
「いけませんか?」
「そうは言わないけど」私はクスっと笑った。「公安部隊の四課さんは相変わらず、喧嘩には劣る?」
「そうですね。自前の武力は持ち合わせていませんから」小さく肩をすくめてみせたクボクラ。「しかし、じき、予算は組んでもらうつもりです」
「そうしなよ。結局のところ、ニンゲンは腕っぷしだよ」
「そのようです」
暇を持て余しているような相棒が、アメスピに火を灯した。運転手が振り返り、「おいっ!」と相棒に物申した。気にせず煙を吸って吐く相棒。いよいよ運転手が怒りの表情を見せたところで、その顔面を殴り飛ばしたのはもちろん相棒である、野蛮すぎ、でも、わかりやすくていい。「だぁってろ」と言い、ぷかぷかと煙を吐く。同僚がぶん殴られたにもかかわらず、クボクラはクスクスと笑っていた。
「本件は広域重要指定事件です。我々が踏み込むのは本丸で、私ども四課の指示のもと、すでに多くの私服および制服警官が現場を取り囲んでいます。ときを同じくして、全国各地の暴力団事務所にも捜査のメスが入ります。一網打尽というやつです。――が」
「が?」と私は首をかしげた。「なにか問題があるの?」
「問題と言えば問題です。……いや、問題としか言えませんね」
「それは?」
「原版の作成者。その人物の足取りがわからない」
私は眉根を寄せ、今度は反対側に首をかしげた。
「四課の情報網を使ってもわからないっていうの?」
「そう申し上げました」
「だったら――」
「流通させるニンゲンだけを捕らえても意味がないとおっしゃる?」
「違う?」
「違いませんね」吐息をついたクボクラ。「しかし、ヤクザをしょっぴいて損はない。"話し合い"を続ければ、いつかわかってもらえるでしょう」
ぶっと吹き出したのは相棒だ。
「馬鹿か、テメーは、クボクラさんよ。いつかいつかって言ってるうちに、人生、終わっちまうぞ」
「ああ、ほんとうに、あなたの言うことはいちいち響く」
「クスクス笑ってんなよ。からかってんのか?」
「いえ。違います。首尾よく原版の作成者、あるいはそれらしき人物ですね、仮にそれを確保できたなら、尋問はあなたがたにお願いしたい」
「ああん? なんでだよ。そもそも尋問なんてもんがどうして必要なんだ? 特におまえなんかは、案件を右から左に処理してオシマイってニンゲンだろうが」
クボクラは窓の外を眺めた。
相棒は煙草の灰を足元に叩いて落とす。
鼻血ブーの運転手が注意できるはずもない。
「よりシステマティックかつより効率的に事件を解決する。ざっくり言ってしまうと、私が大学時代にしたためた論文の内容も軒並みそのようなものでした。――が、あなたがたと出会ってから、少し考えを改めるようになりました。動機まで把握していれば、そこをうまくケアすることで、再犯、あるいはより大きな犯罪を防ぐことができるかもしれない。そのあたりの知見を蓄えてみよう。そう思うに至ったんです」
相棒が私に難しい顔を向けてきた。不機嫌そうに見える。だから「私に怒るな、私に」と注意しておいた。
「これから向かいます。結局のところ、鉄火場になるでしょう。――が、武器には頼れません」
「わかってるよ、そんなこたぁ。つーか、オメーだって仕事しろよ。わかってんだろうな?」
クボクラは三度、クスクスと笑った。「わかっています。しゃべることが私の仕事です」と言い、笑った。
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問題のヤクザの事務所は地下にあった。先導のニンゲンに続いてクボクラ、その後ろを私たちがゆく。当然、ボディチェックに遭った。丸腰だなんてわかりきっているだろうに、だからこそ、身体に触れられたところでそのスキンヘッドをばちこーんと叩いてやった。場はにわかに色めき立ったけれど、相棒は大笑いしていた。
いかにも重苦しい感のある両開きの鉄扉が引き開けられ、中へと招き入れられた。「ウェルカム」と言って寄越したのは上座のソファに座っている男だった。金色の長い髪に黒いスーツ。四十くらいだろうか。喪服然とした装いは私たちと酷似している。気になったのは、男の隣に立っている、正装の男のコだ。まだ十やそこらだろう。黒い半ズボン姿で赤い蝶ネクタイが愛らしい。
一言すら断ることなく、クボクラが金髪男の対面に腰を下ろした。周囲の取り巻きがざわつきかけたが、金髪男は右手を上げることで彼らの動きを制した。
金髪男は悠然とした笑みを浮かべ、「クボクラさんだね? 聞いてますよ」と澄んだ声で言った。
「お初にお目にかかります、モリモト組長」
「用件はわかっている。資料はすべて譲渡しよう」
「えらく物分かりがいいですね。良すぎると言ってもいいくらいだ」
「もともとが上へのシノギで始めたことだ。執着なんてないんだよ」
「シノギも上納も大切でしょう?」
「野心があるニンゲンなら、そうだろう」
「なるほど」
クボクラが金髪男――モリモト組長の左手に立つ少年に目をやった。
「そちらは?」
「息子だ」
「息子さん? どうしてこのような場に?」
「保護を頼みたい。交渉だ、クボクラさん。俺にはなにがあってもいい。この組がどうなろうか知ったこっちゃない。だが、このコだけは助けてやってほしい」
組がどうなろうが――。
そんなことを言ったら、ヤクザはオシマイだ。
実際、周りもざわついた。
「モリモト組長、そも上納を強いられたから、それに従っていらしたのでは?」
「そうだ。もはや、そうだよ。それは組を守るためだった。だが、そんなものはもうどうだっていい。組は二番目だ。俺はなにより息子を守りたい」
「守る? 守るとはどういう――」
部屋の四辺を取り囲んでいたうちの一人が逆上したように「てめぇぇぇっ! 裏切り者がぁぁっ!!」と怒鳴り、モリモト組長に九ミリを向けた。誰も咎めることもできなかったし、だから止めることもできなかった。モリモト組長は眉間を撃ち抜かれ、ソファの上で体勢を崩した。驚いたように「わぁぁっ!」と声を発したのは息子殿だ。
相棒がすぐさま発砲した男のほうへと回り込んだ。殴り飛ばした。敵、壁に激突し、ぐったりとなる。一気に周りが騒がしくなる。私はやれやれ結局こうなるのかと思いながら、それなりに急いで両手に薄い革手袋をはめた。これをしないと爪が折れてしまう。――相棒が二辺を私が二辺を掃除して回る。勝ててあたりまえなのだから、駆逐するのもあたりまえ。私たちの仕事が片づいたとき、クボクラはすでにケータイでどこぞに連絡を入れていた。
ふいに立ち上がった人物がいた。ぐったりとしているモリモト組長――そのソファの後ろで、彼が息子だと謳った少年がまっすぐに立ったのだ。腰を屈めた相棒に顔を覗き込まれると、少年は相棒の左の頬を右手で張った。「父さんを殺したな!」と強い口調で言い、涙を流し始めた。言いがかりもいいところだなと思ったのだけれど、たしかに、私たちが踏み込むことがなければ、こんなことにはならなかっただろう。
クボクラが「五分後にマル暴をはじめとする警察が踏み込みます。それまでに少年を連れて出ていってください」と言った。スマホをコートのポケットにしまって立ち上がる。
「いいのか?」
「訳アリなのでしょう。尋問はお任せします」
「だとよ、先輩殿。どうするよ?」
とっとと行くよ。
私は速やかにそう判断し、二人を従えて地上へと続く階段をのぼった。
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ホワイトドラムには立派な尋問室もあるのだけれど、たかが十の少年相手に使う部屋でもない。二階のフリースペースで話を聞くことにした。相棒とテーブルを挟んで向き合っているのが少年だ。私は相棒の隣に立っている。少年がいきなり駆け出しても即座に捕まえてやれるように。
「名前は?」
「……うるさい」
「名前は?」
「偉そうに」
「名前は?」
「偉そうに!」
少年がいよいよ立ち上がった。はらはらと涙を流しながら、両手をぎゅっと握り締めて、相棒を見下ろす。それでも相棒は前を向いたまま、「名前は?」と訊くばかり。次に発した「名前は?」は幾分強い口調でのものだった。びくっと身体を揺らした少年はすごすごといった感じで引き下がり、椅子に座り直した。
「名前は?」
「……ツヨシ」
「いい名前だ」
「えっ」
「いい名前だっつったんだよ」
下を向き、ぽろぽろ涙をこぼす少年――ツヨシ。
「よくわかんねーんだわ、ツヨシ。話してくれねーか?」
「なにをだよ」
「おまえの親父は、おまえを守りたいっつった。なんだ、守りたいって。いったいなにからおまえを守りたいんだ? いったい、どうしておまえを守らなくちゃならないんだ?」
「それは……」
椅子から腰を上げ、相棒がてくてく歩いていった。てくてく戻ってきた。手にはブラックの缶コーヒーと小さなペットボトルのレモンティー。レモンティーをツヨシの前に置く。「私の分は?」と訊ねると、あっけなくブラックを寄越してくれた。「小銭がもうなかったんだよ」ということらしい。今時、小銭で自販機を使うのもなんだけれど、にしたって、きちっと私に譲ってくれるってね。
「原版」
「……えっ?」
「偽札の原版、作ったの、おまえだろ?」
相棒はにっと笑った。
驚いたのだろう、きょとんとなったツヨシである。
「どうして……」
「まあ、飲めよ」
勧められ、ツヨシはレモンティーをすすった。
「ここからは勘で話す。つらつら話す。間違ってたら指摘しろ。おまえはいつかどこかのタイミングで、いま流れてるものとまるで同じと言っていい精度の紙幣をデータ化することに成功した。だったら、どうしてそんな真似をしようと考えたのか。最初は遊びのつもりだったんだろ。でも、おまえの才能に気づいた親父はほうっておかなかった。そりゃそうだ。金になるんだからな。ここまでは? 間違ってねーか?」
「う、うん、合ってる、合ってるよ」
「ヤクザに重要なのは腕っぷしでもなんでもねー。金だ。だから親父は他から抜きんでることができた。より多くの上納金を納めることができたわけだから、より上だ、上の親分殿だ、そいつの目に留まるようになった。そこで親父は気づいたんだな。自分の存在より、自分の息子のほうが大事にされてるってことに。親分殿はおまえを寄越せと言ってきた。それはできないとおまえの親父は言った。そしたらどうなったか。親分殿は親父の女房、つまり、おまえの母ちゃんをさらったんだろ?」
ツヨシの口がわななく。あまりにずばずば言い当てられて空恐ろしくなっているといった感じだ。
「苦悩する親父に言われて、ドル、ポンド、ユーロ、おまえは原版作りに勤しんだ。そうするしかなかった。いつ母ちゃんが帰ってくるかもわかんねーんだ。不幸なこったよ。正直な? ツヨシ、おまえの母ちゃんが生きてるかどうかなんて、俺にもわかんねーんだ。ただ、おまえの親父の組がなくなっちまった以上、生かしておく理由もないいっぽうで殺す理由もねーんだよ」
「……帰って」
「あん?」
「帰って、きてほしいです……」
なおいっそうの涙をこぼしはじめた、ツヨシ。
相棒は「だったら待ってろ」と言って立ち上がり、さっさとあっちへ歩いていく。
たぶん私はツヨシくんのおもりを押しつけられたのだろう。
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正直、生きている可能性のほうが低かったように思う。だから相棒も、思い切ってダメもとで突っ込んだのだろう。あちこちに銃創を負いながらも致命傷を負うことなく帰ってくるのが奴さんだ。今回はきちんと調整した上で警察にも突入を指示していたようだし、冷静な一手だったのではないか。なにより成果をあげたことがすばらしい。そう。相棒はツヨシのお母さんをきちんと連れて帰ってきたのである。お母さんの生家はスコットランドにあるらしく、そこにツヨシと引き揚げるとのことだ。それでいいのだと思う。ニッポンにいるよりはずっと安心安全だろう。
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後日、ホワイトドラムに呼び出された。自動式のドアを抜けると、ボスがゴルフクラブをスイングしている場面に出くわした。こちらを向くと「やあ」と微笑む。まったくお気楽というかなんというか。
「○○くん、報告書、読んだよ。すばらしいね」
「報告書書くの得意なんスよ」
「そうじゃなくて、成した仕事のことだよ」
「そのへんは濁したつもりッスけど。必要ないかなって」
ボスは本棚にクラブを立てかけると、あらためて相棒と向き合った。
「まず、クボクラくんから連絡を受けた」
「なんて言ってました?」
「うらやましいと一言だけだ」
なにが気に食わないのか、相棒は「けっ」と発してそっぽを向いた。
「次に県警から。きみに続いて踏み込むことを余儀なくされた連中だ」
「署長か誰かスか? だったら、部下が何人いても足りないとか文句言ってたんじゃないッスか?」
「そう思ったからね、"あなたの意見ではなく現場の声を聞きたい"と言ってやった」
「結果は?」
「"あのあんちゃんほど勇気のある男は知らない"、だそうだ」
また「けっ」と発して、肩をすくめた相棒である。そんな相棒をボスがゆっくりとゆったりと抱き締めた。巨躯を誇る相棒を悠々と抱き締められるくらい、ボスはのっぽだ。
拘束が終わると、相棒はすぐさま身を翻し、部屋から出ていった。
「なんて可愛いんだろう。彼を部下に持てたことは得難い幸福だなぁ」
「それ、今度、私にも言ってよ」
「おやおや、なんだったらいま言おうか? というか、抱き締めてあげよう」
「遠慮しとくよ」
私も身を翻す。
呼び止められた。
「彼はすばらしい男だ。何度だって言うよ。だからこそ、フォローしてあげるように」
「優れた駒がなくなると、ボスとしてはやっぱり痛手?」
「嫌味を言わないでよ。ぼくだってニンゲンなんだからさ」
「あいつは誰より先に死ぬね。そういうふうに決まってる」
「悲しいかい?」
「っていうか、悔しい」
私はボスに一つ笑って見せてから、部屋を出た。
走って走ってジャンプして、相棒に後ろから抱きついた。そのままおんぶしてもらった。てっきり怒ると思ったのだけれど、相棒は楽しげに「ははっ」て笑ってくれた。