赤色の指
〜登場人物〜
・岩村数不知:主人公。色々あって人類の敵と見做されている普通の人間。しかし本人にその気は一切ない。今はアルの力を借りて、人類滅亡の危機に瀕している世界を旅行中。合理的に物事を判断することができる。それが僕のいいところだ。
・バーボッシュ=アーノルド:始まりの超越者。アルと呼ばれている。見た目は10才ぐらいの男の子。
〜作中用語〜
・超越者:科学の臨界点に到達した人間がそう呼ばれる。彼らの登場により机上の空論で終わっていた全てが実現可能になった。
・exmagic:超越者が操る魔法のような科学。見えない力で物を握りつぶしたり、空を飛んだりする。
・超科学:超越者が作り出した機械。人類からすればなぜ作動しているのかよく分からない代物。
人が空を飛べる時代になっても、人々は頭上に意識を向けない。みんな下と前ばかりを見ている。高層ビルが乱立する時代ですらそうだったのだ、人の意識なんてとても二次元的で平べったい。僕は空を飛びながら、夜の市街地を歩く不審者を観察する。アルからもらったこの服でなぜ飛べるのかは分からないけれど、どうせ揚力とか斥力を使っているのだろう。科学の先にあるexmagicを使いながら、尾行している奴らのことを考える。
超越者を倒せる兵器…………人間がそんなものを作れるはずがない。きっとアルと敵対する超越者が作り出したんだ。僕は人類の滅亡に興味はないけれど、今後の時代のキーポイントになる気がするから、その兵器の情報は先にゲットしておきたい。………最悪、アルが人類側に負けた時に護身用として持っておくのもありだろう。僕は危険性を排除するためには合理的に判断を下せる。それが僕のいいところだ。
彼らは市街地からドンドン離れていき、辿り着いたのは山の中。そこからさらに進み彼らは洞窟の中に消えていった。自然にできた洞窟だ………やだなぁ。こういうところって寒いし水が滴ってるし、コウモリのフンで一杯なのだ。手袋とか持ってくればよかったな。
「アルー。僕に渡した道具に何かいいものない?」
次元の狭間にいるアルにテレパシーで呼びかける。
「君の服はどんな形にもなるから、手を覆うように変形すれば良いんじゃあないか?」
「でも服が汚れてしまうじゃん」
「その服は汚れを勝手に落とすし、勝手に殺菌もする。いくらでも汚してくれ」
「ふーーん…………それで、武器になるような道具はないの?」
アルから貰った4つの道具をいまだに僕は使っていない。そして不審者の跡を追って、こんな逃げ場のない洞窟に入ろうとしているのだ。護身用のものを最低一つは持っていないと安心できない。
「そうだな…………一応言っておくと、君に渡した道具のうち3つは純粋な武器じゃない」
「どんな用途?」
「ほら、デザインがあるだろ?◯、×、△、◇だ。◯から言うぞ」
僕は道具を言われた通りの順番で左から右へと床に置いた。
「◯は対象の色を変える道具。×は対象を崩壊させる。△は対象の性質を変え、◇は対象の形を自在に変えられる。順にファースト、セカンド、サード、フォースと名付けられている。ちなみに×だけは絶対に使うな」
「絶対に使っちゃいけないものを僕に渡したのか?」
「護身用の最終兵器として渡した。それを使わなきゃいけない状態に陥ることはまずないだろうが…………そのバツだけは軽はずみに使うなよ。下手したら人理が崩壊する」
なんてもの渡してるんだ…………
僕は恐る恐る道具をバッグに詰め込むと立ち上がり洞窟の中に入っていった。
「しかしアルが渡した道具は、なんか、微妙だね。もっとエキセントリックな魔法でも使えるかと思ってた」
「炎や雷を操りたいのかい?ははっ、そんなの面白くないじゃないか。とても直接的すぎる。それに美術系を志望していた君のような人間には、創造性を刺激する魔法の方がいいと思ったんだ。それらを駆使すれば色んな作品をこしらえることができるんだ。どうだね?旅のお土産として作品を完成させて私に見せてくれても良いのだよ」
なるほど?確かにそれは面白そうだ。………まぁ今回は絵を描き始めているから、次回の旅行からだろうな。
僕はアルとテレパシーで交信しながら男達を尾行し続けた。
〜10分後〜
「さぁ、これが君達が見たがっていた超越者を倒す兵器だ。」
武器商人のような男のアジトに到着し、彼が持ってきた兵器は魔法の杖のような形をしていた。ほら、木の枝みたいなやつ。…………なんで魔法の杖ってあんなダサい形をしているのだろう。もっとカッコいい形にすればいいじゃないか。剣みたいな形とかにさ。
「それを対象に向けて念じれば魔法が飛び出してどんなものでも倒してくれる。お手軽だろう?」
…………やはり人間が生み出したものじゃあないな。あんな30センチメートルにも満たない大きさの道具で、超越者を倒せるほどの出力を生み出すなんて人智じゃありえない。僕のこの4つの道具と同じで超越者が作ったとみて間違いないだろう。僕は兵器の形を把握し、当初の目的を達成できたのでさっさとこの洞窟から離れることにした。こんなところに長居したら危険と遭遇するリスクを高めるだけだ。
「そうだ、試しに紛れ込んだネズミにでも放ってみたらどうだ?ほら、君達の後ろにいるじゃないか」
バチィインン!!!
杖から放たれた魔法が僕を隠していた岩石の壁を吹き飛ばした!!
あーーやばいなぁ。切実にやばいなぁ。しかしまだ慌てる時ではない。全然、まだまだ、僕には魔法の道具があるのだから。
僕はあらかじめ取り出していた◇の道具………どうやらこの道具の名前はフォースというらしい………それを左袖につけると、三原色の服の色が混ざり合い緑色となった。
ズニュルルル!!!
そして近くの壁を触り振り払うと、それは伸張し僕と武器商人達の間に分厚い岩石の壁を生み出した!
「っつ!!………魔法」
数不知の魔法を見た武器商人の男は顔を歪めると、箱から兵器を取り出し数不知に照準を向け………放った!
カッ!!!
瞬間、洞窟の通路全てを埋め尽くす極太のレーザービームが発射し触れるもの全てを焼き溶かす!!さらに衰えることのないその速度と威力は洞窟を飛び出し一直線に夜の空に吸い込まれていった!!
「お、おい!なぜそんな派手なものを使った!表の奴らが不審がるだろう!」
武器商人が放ったレーザービームのあまりの威力に魔法の杖を貰った男達は驚き、また自分達に疑いがかけられることを懸念して彼を責める。
「表の奴らなどどうでもいい。今この場まで尾行してきた奴が魔法を使えたことが問題だ。私と同じ、超越者から力を借りた人間の可能性が高い」
彼はレーザー兵器を元の箱にしまうと、急いで通話を開始した。
「…………ああ、不穏分子が現れた。計画にどう関わってくるかは分からないが、一応警戒しておいてくれ。それじゃ」
そして通話を終え、武器商人は男達に向き直った。
「邪魔はあったが、なに、その魔法の杖で超越者を倒すことはできる。君達の健闘を祈るよ」
「…………こんなのよりもさっきのレーザー兵器を貸してくれないか?そっちの方が強そうだ」
「こんなのを持って超越者には近づけないし、これじゃあ超越者は倒せない。その杖は彼らを倒すことだけに特化した兵器なんだ、甘く見ちゃあいけない。…………それに、だ」
武器商人は黒色の皮手袋を強く引っ張り、パチンと、キツくはめなおした。
「私の言葉を信用しきれない人間が私は大っ嫌いだ。ほとほと毛嫌いする。分かっているのかい?私達の間には信用しかないのだよ。」
武器商人から溢れ出す殺意に気圧されて、男達は苦笑いしながら頭を縦に振った。それを見た彼はその殺気を抑えて笑顔になると、「取引成立!」とだけ言って男達を帰した。
「まったくバカばかりだ。貴様らのできることなど、大きな流れの中でちっぽけな駒になることだけだというのに。誇りと正義と死の恐怖に胸中を埋め尽くし、疑問も持たずにさっさと死んでこい。…………我らが王国[赤色の指]のために」
「あーーー死ぬかと思った」
僕は軟化した地中から這い上がり息を整える。物体の形を変える道具のおかげでなんとか地面を掘り進めることができた。あのレーザーを食らってたら跡形もなく消滅していたことだろう、魔法様様である。僕はそのまま森に入り木に登ると、枝から枝を伝って洞窟から離れていく。草の中を歩くと僕の跡を残してしまう。こんなアグレッシブな移動方法は疲れるからしたくなかったけれど…………姿を隠しながら痕跡を消すにはこれしかないのだ。
僕はさっき得た情報を整理する。今の武器商人は超越者と関わりがある。その超越者は戦争を起こして金儲けを企んでいる。アルと敵対している人類側の超越者なのか、それとも甘い蜜を啜るためだけに戦いを扇動している第三者なのか…………どちらにしろ関わり合っちゃいけないな。僕は人類がどうなろうと知ったこっちゃない、自分が一番大切な人間である。争いには関わらないし、誰かを助けることもしない。それが僕のいいところだ。
僕は洞窟から離れたことを確認すると低空飛行で夜の街に消えていった。
数不知が持つ4つの道具の説明。
・全てに共通して言えることは、服の袖に装着することで魔法が使えるようになるということ。また、バツを除いた全ては生物には作用しない。
・◯:呼び名はファースト。対象の色を変えることができる。
・×:呼び名はセカンド。対象を崩壊させることができる。ヤバい。
・△:呼び名はサード。対象の性質を変えることができる。
・◇:呼び名はフォース。対象の形を自在に変えることができる。




