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ソシテ魔法ワニド死ヌ  作者: 悟飯 粒
第一の市街地
6/11

コソコソな冒険

登場人物

岩村(いわむら)数不知(かずしらず):主人公。色々あって人類の敵とみなされている。本人にその気は一切ない。合理的に物事を判断する。それが僕の良いところだ。

・バーボッシュ=アーノルド:人類最初の超越者。アルと呼ばれている。見た目は10才ぐらいの子供。

 「ここで1番美味しい牛肉を下さい」


 僕はテキトウに見繕ったお店に入り、特に考えることなく店員にそう言った。


 「はい、わかりました。焼き加減はなにに致しましょう。ミディアムやレアがおすすめですが」

 「ベリー・ウェルダンで。僕、生の食感が嫌いなんですよね」

 「………………」


 店員は少し不服そうな表情をして厨房へと離れていった。ナマモノが嫌いなんだ、しょうがないだろう。ああいうのを食べると命の危機を感じる。もっと火を使うべきだ、人間は火によってここまで進化したんだぞ。原初の知恵というやつだ。もっと有り難がれ。


 僕は牛肉が来るのを待ちながら街を眺めた。

 この一帯の、この街を除いた全てはアルの手によって滅ぼされていた。なぜこの街が生き残ったかというと、超越者(グランドセージ)が守ったかららしい。さらにここの超越者は中立を宣言し、今はアルとも他の超越者とも対立していない。確かに住みたい街だというのはよく分かる。安全だから。


 「…………………」


 まさかこんな時代が来るなんて誰も思ってはいなかっただろうな。臨界点に到達した科学によってもたらされていた最高の生活が、それをもたらした人間によって滅ぼされようとしているなんて…………狂っている。現実味がない。まるでフィクションの世界だ。…………いや、超越者が誕生し魔法が発明された時から、この世界はもう既に御伽噺の中にいたのだろう。


 「お待たせいたしました」

 「ありがとうございます」


 テーブルに置かれたステーキを見つめる。15時間も海を漂流していたせいで空腹だ。ざっと300gはありそうだけど、これぐらいペロッと食べちゃうぞ。僕は少し硬くなった肉を切って口一杯に頬張った。…………こんなに焼いているのに、それでも肉汁が沢山出てくる。すごい肉の旨みだ。血なんて滴ってなくても肉の味はちゃんと感じられるのだ。頼むから僕に[人生半分損してる]なんて言わないでくれ。君たちの知らない人生を僕は味わっているんだから。


 「………のどかだなぁ。」


 遠くに見える海を眺める。右を向くと崖があり、白い砂浜と青い海、晴れ渡る快晴が相まってとても絵になる。…………そうだ。


 「ごちそうさまでした。」


 僕はお会計を済ませると、近くの雑貨屋へと向かった。

 僕は見た目通り………いや、こんな赤と青と黄色の斑目模様だなんて目に悪いパーカーを好き好んで着ているわけではないが…………絵とか彫刻などの美術系の進路を目指していた人間だ。人並み以上には絵が上手い。こんなに美しい景色があるのなら、絵として書き上げなかったら無作法というもの。僕は絵の具と筆とパレット、イーゼルと適当な紙を買い海と砂浜、そして海岸の崖が一度に見える場所を探した。


 「…………………」


 丁度良い場所を見つけられたが、そこには一軒家があった。なるほど、この景色が好きで建てたってわけか。なかなか良い感性を持っているな。


 僕はその一軒家の隣、硬い地面に画材を準備すると絵を描き始めた。


 僕は経験で知っている。良い作品を描こうとすると、どうにも力が入ってしまいろくなものにはならないのだ。本当に何か素晴らしいものを作りたいのなら、心の底から楽しみながら描く必要がある。しかしその為には練習が必要で…………練習と作品は切り分けなくてはいけない。

 細部を緻密に描くことに喜びを、景色を見ることに楽しみを、没入することに誇りを。ただそれを無意識に………ただ感性を、美しさを、感動を、ぶつけるのだ。ちょっとずつ仕上がっていく作品に喜びを見出しながら、僕はひたすらに筆を進めた。


〜5時間後〜


 「…………描き足りないけど、もう暗くなっちゃうからな」


 完成度はまだ30%と言ったところだが、まぁいい。僕は画材を撤収すると、その場を後にし…………


 「…………ん?」


 30メートルぐらい離れたところから1人の女性が僕を見ていることに気がついた。外国の女性ってなんであんなに綺麗に見えるのだろうか。整った顔立ち、綺麗な長髪、クリクリとした金色の目。普通だったら僕に好意があるのだろうかと舞い上がるのだろうが、僕は一つ違和感を覚えた。なんていうか………雰囲気がそっくりなのだ、アルに。


 「…………いつからいました?」

 「30分ほど前。全くもって気づかなそうで驚いたよ」


 女性はそう言うと僕の方へと近づいてきた。


 「しかし…………その、なんだね。えらく集中して描いていた割には下手だね」

 「ここ3年、なにも絵を描いてなかったですからね。下手になってるのは当然ですよ。」


 今回のこの絵は絵を描く楽しさを思い出す為に無我夢中に描いていたに過ぎない。完璧な作品を作るつもりなんてとてもとても…………


 「そうか………それもそうだな。あの超越者が宣戦布告してから、どの国もそういう状況じゃあない。」

 「…………僕が外国人だって分かってるんですか?」

 「そりゃあ顔が全然違うからね。アジア系?ジャパニーズ?」

 「そうです、日本人です。岩村数不知といいます。」

 「ふーーん?変な名前だ。」

 「よく言われます。」


 暗くなり始めた空。夕焼けが海と僕を赤く染める。


 「………それで、僕に何か用が?」

 「いや、なに。ここが私の家でね。邪魔するのもなんだと思い待っていたんだ」


 この人の家なのか。ふーん、素敵な一軒家なことで。


 「明日も来るのかい?」

 「あ、いや、邪魔ならもう来ないですよ」

 「全然、遠慮はいらないよ。この景色を私1人で独占するなんて勿体無いからね。好きなようにきたまえ」


 それだけ言うと女の人は家の中に入っていった。


 「…………素敵な人だな。知的で、快活で」


 それ故に怖い。僕は泊まれる場所を探して市街地を歩き回った。



 夜の市街地はピリピリしていた。みんな戸を完全に締切り、灯りを絶えずつけ続ける。家の周りには巡回ドローンが徘徊し、侵入者がいないかどうか見張っているのだ。いつなんどき、どんな人が襲ってくるかもわからないのだからこの警戒の仕方は当然だろう。そんな夜の街を、僕は格安の宿に画材を置いて散歩していた。

 良い景色だ…………日本にはないこの中世って感じがいい。ドローンとか警備用ロボットが景観をぶっ壊しているけれど、それにさえ目を瞑れば最高。あとは………


 僕は背後を振り返った。


 「………………」


 やはり誰かが尾けてるな。旅行者を狙った強盗?とにかく気をつけないとろくなことにならない。僕は嫌な気分になったから近くのパブに入った。



 「この街は南米を執り仕切るべきだ。」「そうだそうだ!」


 パブの中はみんな馬鹿みたいに酔っ払って楽しんでいた。人類が危機に瀕しているというのに、関係ない人間はこうやってとことんまで無関係を装う。とても良いことだと思う。だってどんなに悩んだってなにも解決しないのだから、とことんまで忘れれば良いのだ。しかし中には、こんな状況をどうにかしたいと考えるバカがいて、どうにもならないのに解決策をあーだこーだ口喧しく言うのだ。アホかと思う。とても合理的ではない。一般人がどうにか出来ることではないのだ、馬鹿騒ぎしとけばいいのに。僕はここが二軒目だと嘘をついて、ジンジャーエールを頼んで飲んでいた。


 「そうしてこの戦争に参加し、人類を滅ぼそうとする超越者を倒す!中立なんて生ぬるいことはせずに戦うべきなんだ!」「そうだそうだ!」


 僕はそんなバカの話を聞きながらジンジャーエールを飲む。

 …………なんだ、変な正義感にあてられて独立しようとしていたのか。救いようがないな。てっきり南米を執り仕切る権利を得つつ戦勝国になって莫大な利益を得る為だと思っていたのに。今時、正義感で戦争する奴なんていない。戦争に参加するということは需要と供給を加速させ、勝てばさらに半永久的な権利を得ることに繋がるのだ。戦争なんていうのはビジネスでしかない。……ここの超越者はそういうのを嫌って中立な立場に留まっているのだろう。もしかしたらもっと別の意味があるのかもしれないけれど…………


 「………そんなにお前達は革命を起こしたいのか?」


 すると見るからに金を持ってそうな男が、馬鹿騒ぎしていた男達に近づいた。…………戦争で稼いでるなこの男。こいつらも金儲けの道具として利用されるのか……


 「実は超越者を倒すことのできる兵器を手に入れたんだ。どうだ?これを使ってこの国の超越者を支配しないか?」

 「…………………」


 男達はヒソヒソ話を続けると、店を後にした。


「…………………」


 一応尾けてみるか。今後に役立つ情報を聞けるかもしれない。僕は店を出ると右手首を触り空を飛んだ。

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