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つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)

幼馴染がイケメンエリートと結婚してなんだかもやもやする社畜の僕と、彼氏にフラれてさらに留年してしまった女子大生(高校の時の後輩)が偶然再会し、夜の駅前で話して想いを伝える物語

 幼馴染から久々に連絡が来たと思ったら結婚したという内容だった。


 相手は僕も知っている人。


 高校の時は生徒会に入っていて、とてもしっかりしていた。


 さらにイケメンで、今はなかなか高い年収の超大手の会社に就職したみたいだ。


 いわゆる、エリートと幼馴染は結婚したのだった。


 


 仕事帰りの僕はそんな連絡をスマホで見て、そして少したってスマホを暗くした。


 別に幼馴染のことが好きだったわけではない。少なくともここ数年は、恋愛感情を抱いていない。


 そもそもそんなに会っていなかったし。


 だけどなぜだか、スマホが暗いままでいて欲しいと思ってしまう。


 それはきっと、単に羨ましいんだな。


 愛を育み、順調な人たちが。


 羨ましいと思うことをやめることも、仕事のめんどくさいことを頭から振り払うことも、簡単にできる。


 寝ればいい。


 幸い、常に寝不足の社畜なので、寝るのは得意だし、環境が良くなくても大丈夫。


 


 最寄り駅に着いた。


 さて、人があまりいない。


 終電の一本前なのかな、今乗ってきた電車は。


 まあわからないけど、とにかく少し、駅前のベンチで寝ることにしよう。


 寝そべって寝るのは迷惑だし、品もないので普通に座って寝る。


 まあそんなところでお利口さんなことしてても、誰もどうせ座ってこないから意味ないんだけどな。


 と、思っていたのに。


「あれ……優大先輩……?」


 こんな夜に僕に先輩をつけて呼ぶ人が。


「夏帆……」


 高校の時の部活の後輩。


 うん、そうだ。


 あんまり変わってない。化粧はしてるけど、もともと可愛いと僕は思うし、かつて、幾度となく見つめてしまっていた顔なのだ。



 ☆    ◯    ☆


 

「明らかな社畜って感じに、優大先輩がなってるとは驚きました」


 隣に座って、微笑んでいる夏帆。


 別にお酒を飲んだりしているわけでもないようだし、仕事で疲れている様子もない。いや大学生か夏帆はまだ。なのにこの時間にここにいるってことは、ブラック研究室に入ったのかな? それだったらつらそうだ。


「夏帆は……どうしてこんな夜遅くに?」


 訊いてみることにした。


 かつて、夏帆とぽつぽつ話すのも、好きだったのを思い出す。


「あれです。何にもすることがないので、ただ徘徊してたら、こんな時間に」


「と言いつつも、夜中の駅前の絵を描きに来た」


「え? す、すごい。優大先輩、私のこと前々から見つけてました?」


「いや、別に、見つけてないよ。でも、そんな感じかなって……道具持ってるし」


「ふふ、そんな感じって、優大先輩がよく使う言葉ですよね」


「人類ならみんな使うんじゃない?」


「人類、ねえ。私たちって人類なんですよね」


「いやそうだよ。そうじゃなかったらビビる」


「ですね。でも最近、人と楽しく話してないせいか、自分も人類のくせに、なんか人類と少し離れたところから見てるというか……」


「そうなる時は、あるな」


「あります? なんかやっぱり優大先輩とはそこんところも気が合いますね」


 夏帆は嬉しそうに夜空を見上げた。


 駅前だから光もある。


 そんなに星空がよく見えるわけじゃない。


 その代わり、夜中ではあるけど、夏帆の横顔は、ちゃんと見えた。


 だから昔のことだって、思い出してしまう。



 ☆    ◯    ☆




「優大先輩って、結構丁寧に絵を描くんですね」


 他の美術部員たちが帰った後、まだゆっくりと絵を描いていたら、夏帆が僕のところに来た。


「丁寧っていうか、なんか僕、なんでも遅いからさ」


「おそい……でもすごくうまいですね。葉っぱが丁寧」


「ありがとう。でもこの葉っぱたち、まあコツコツ描いていけば、こんなもんだよ。絵のうまさってより、時間をかけてるだけっていうね」


「謙遜ですかまったく。この前絵を褒めた時も謙遜してませんでした?」


「そうだったっけ?」


「そうだったです。というか、私、すごいなあって思うんですよ、優大先輩のこと」


「それは、どうして……なのかな」


 そう訊くと、夏帆はすぐに答えた。もう決まってるっていうふうに。


「優大先輩みたいに、最後までやれる人がすごいなあって思うからです。わたしにはできないから」



 ☆   ◯   ☆



「そういえば私、結局、優大先輩を見習ったものの、何にも最後までやれてないなあ……」


 夏帆がつぶやいた。もしかしたら同じことを思い出していたのかも。

 

「最後までやればいいってもんじゃないよ、たぶん」


「そうなんですか?」


「そう、今日だって最後まで仕事してたからこんなにおそいんだけど、これはね、たった二文字にまとまっちゃうんだよ。社畜ってな」


「……二文字。いやそれなら私なんてもっとひどいですよ。留年です留年。彼氏に三ヶ月前くらいに振られて、なんか勉強に興味も持てなくなって、大学の単位落としまくりました」


「そっか、留年……でもさ、そういう時もあるでしょ。うんうん」


「って慰めてくれる人多いです」


「そうなのか、なんかつまんなくてごめん」


「いえ、優大先輩は、面白いので。自信持ってください」


 なんかすごい強調して言われた。そして続ける。


「あの、明日も、ここに来てくださいませんか?」


「え?」


「来て欲しいというか……私が、何にも最後まで達成できなかった私が、もしかしたら達成するかもしれないので」


 夏帆はそんな風に言い、少し遠慮がちに僕に頼む。


 そう言われたら、もう行くに決まってて。


「何時くらいにいけばいい?」


「会社が終わったらで、大丈夫です。あの……ここに連絡してくだされば嬉しいです。私は、いつでも駆けつけられるので」


「あ、ありがと。まあ……また同じ時間になっちゃうかもしれないけど」


「それでも大丈夫です」


「わかった」


 僕はうなずいた。


 そしてそれから、思い出話をしたりした。




「……なんか思い出って言っても、なんかいつも私と優大先輩が最後まで残ってた話ばかりですね」


 ひとしきり話した後、夏帆がそう言った。


「そうだな。なんか、遅かったかもな。絵を描くのとか、色々と」


「そうですね」


 誰もいない駅前の広場を、二人で見回す。


 ちょっとだけ、また取り残されてしまった二人な感があった。


 その後ぽつぽつと喋ってから、夏帆とは別れた。


 もう一度、ここで会うって、約束をして。

 


 ☆   ◯   ☆



 結局、また昨日と同じ時間になってしまった。


 一応夏帆には連絡をしたけど、でも無理しなくていいよと書いておいた。


 だってこんな夜遅くにわざわざ僕と話しに来るなんて結構コスパ悪いと思うし。


 それなのに、夏帆は少しぎこちない歩き方で、こちらに来た。


「こんばんは」


「こんばんは」


 そして夏帆は隣に座るなり、すぐに、少し小さめのサイズの、絵を取り出した。


「はい。プレゼントです。優大先輩もいる絵です」


「うお、リアル」


 夜中の駅前が、そのまま描いてあった。


 そしてベンチには、小さいけど確かに、座っている僕が描かれていた。


「なんか僕、ちょっと若々しいな」


「あ、バレました?」


「バレたっていうのは……」


「それ、高校生の時の優大先輩を見て描いたので」


「え? そうなの? あ、昔の写真とか使った感じか」


「いえ、あの……優大先輩の辺りだけ、私が高校生の時に、描きました」


 街灯が、少し恥ずかしがっているようにも見える夏帆の横顔を、強調したように感じた。


「そうなのか。でも、どうして僕を描いた、描きかけの絵が……」


「それは、ですね、ほんとは優大先輩が卒業する前に完成させて、渡したかったんです。でも、のろのろ描いて、どうせ渡す勇気も出ないだろうなって……」


「……」


「私、高校生の時、優大先輩のことが、好きだったんです」


「そ、そうだったのか」


 僕は夏帆の絵に目を落とした。


 駅前のベンチに、今僕たちがいる位置に、まだ生き生きとした僕が座っている。


「なんか……書き足したくなるな、夏帆を」


「え?」


「いやだって、今なんだかんだで、二人でいるし。それに、なにをかくそう、僕も好きだったから、夏帆のこと」


 僕は笑った。


 夏帆は驚いたように見えたけど、でもその後やっぱり笑って。


「私たち、お互い言うの遅っ」


「だな」


 ひたすら夜中のベンチで笑った。


 なんだこの取り残された人たち。


 でもそんな取り残された二人が久々に再会して、昔の想いを伝えあって、そしてもしかしたら……


「優大先輩、あの、今度……あんまりないかもしれないですけど、優大先輩が心も身体も休められた時に」


「うん」


「二人でどこか、行きたいです」


「うん、行こう。ていうか絶対行く。もう今週中行きたい」


「え、疲れがたまってたりしませんか……?」


「それを夏帆と過ごして、吹き飛ばせたらいいなって」


「なるほど……あの、優大先輩って、私のこと、結構好きだったんですか?」


「まあ……結構好きだったな」


「ふふ、そうなんですね。あの、私も、なかなかに優大先輩のこと好きでした」


 そうだったんだな。


 うん、もしかしてじゃなくて。


 取り残された二人がまた一緒に過ごしたって、きっと素敵なことが起こると思うのだ。


 ふと、隣の夏帆を見つめた。


 目があって、すると瞬時に恥ずかしくなって、街灯を見上げた。


 夏帆もおんなじことしてる。


 夜中の駅前の街灯は今日も、二人を照らすべく灯っていた。



お読みいただきありがとうございました。

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