第七話 死者は死神になる
また長くなってしまいました。
辺りは血まみれ、人々は恐怖で顔が強張り、震える者さえいた。
「何だよ?アレ?」
俺はその原因を見て呟いた。
(でかいな。1時間前に倒したスペクターってやつより。)
そう、ソレは大きさはスペクター呼ばれたものよりも二倍くらい大きく、フード付きのコートというより布を被ったような姿で巨大な鉈を持っていて今この場にいる誰よりも死神に近かった。そしてようやく、
「リ、リッチだぁ!!」
「なんで!?スペクター以上の死霊は出ないって言ったのに!!」
「いやああぁぁぁぁ!!!」
「と、とにかく逃げるぞ!!」
死神見習い達は叫び、逃げようとしたら、
ブンッ!!
ソイツは鉈を振るい、
ドコン!!
逃げようとした者達を巻き込んでゲートを破壊した。
「な、ゲートが!!」
と、誰かが叫び、
「もうダメだぁ!!」
誰かが嘆いた。一方俺は、
(何だアイツは?そんなに強いヤツなのか?それにまたアレが見えた。)
俺はあの時と同じ死神見習い達やゲートを貫いた見えない何かが見えた。
(さっきから何だ?アレが貫いた後、貫かれたやつらは死んでいく。)
俺はなぜかこの地獄絵図より、あの見えない何かが気になった。だが、
「くそ!!森の中に逃げるぞ!!」
死神見習い達は森の中に我先にと逃げていった。
「オイ!?、何やってんだ!?早く逃げるぞ!!」
俺は誰かに肩を掴まれた。仕方ないのでソイツの後を着いて行った。
「なあ、アレは何だ?」
俺は走りながら質問した。
「ああ!?お前そんなことも知らないのか!?いいかアイツは・・・」
ソイツの話はこうだ。
アレはリッチという死霊の中で最上級のクラスなのだそうだ。死霊には三つのクラスがあり、下から今まで相手にしてきたスペクター、中級のリビング、そして最上級のリッチ。白夢ではリビングすら勝てないのに、リッチでは虫けら同然らしい。
「いいか、リッチに会ったらすぐに逃げろ。オレ達がどうやったって勝てる相手じゃないんだ。」
ソイツはそう言った。
「じゃあ、どうすんだ?ゲートが壊されたのに助けに来てくれるのか?」
俺はそう質問すると、
「どこかに非常用のゲートは二つあるんだ。それを見つけてこの会場から脱出する。もういいだろ?ここからは別行動だ。」
そう言ってソイツはスピードを上げた。
「全く、必死だな。」
俺はなぜか落ち着いていた。
「なんで落ち着いていられるのかねぇ?諦めじゃなきゃいいけど・・・」
そう諦めではダメだ、なぜなら・・・
「俺にはやることあるんだ。」
あの女を追いかけるために・・・
「だったら、こんなところで・・・」
負けるわけにはいかない。
俺の目の前にヤツが現れた。俺は走るのを止めた。そして、
「悪いな、そんなになってまで、ここで何がしたいのか、俺には解らない。だけど・・・」
俺にとって第二の死が前にいるのに俺は恐怖は感じなかった。なぜなら、
「俺にもやることがあるんだ。死ぬわけにはいかない。だから・・・」
俺は剣を構えた。
「アンタを・・・・・・殺す・・・」
そう静かに言った・・・
死神見習い(さっき死霊について説明したやつ)A視点
「ハア・・・ハア・・・・ハア・・・ハア・・」
死神見習いAは非常用ゲートを探していた。
「くそっ!何処にあるんだ!?もたもたしてたら殺されちまう!」
実際、リッチと遭遇してから結構時間がかかっていた。それなのにいまだ生きている自分が不思議だとさえ思っていた。
「とにかく、早くゲートを見つけて逃げないと。」
そしてまた走っていくと、
「ん?なんだ?・・・」
キィン、ガキン、ブン!ブン!ドン!ガキン!
どこかで金属同士が打ち付け合うような音が聞こえた。
「もしかして、応援がきたのか?なら助かった!!」
そう喜んでいると、信じられないものを見た。
キン!ガキン!カン!カン!カン!
「ハッ、ハッ、ハッ、・・・ハアァ・・・ハア!」
リッチと戦っていたのは、色夢ではなく、ついさっき死霊について教えた未熟者だった。
神崎 悠志視点。
「ハア!」
キン!
「セイ!」
ガキン!
「うおおおぉぉ!!」
ガン!キン!ブン!ブン!ドン!
俺は無我夢中に剣を振っていた。相手を打倒するために、アイツを追いかけるために。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
正直に言えば、アレは強かった。今、生きているのが不思議なくらい、なんで生きているかというと、
「グオオオオオ!!!」
リッチが鉈を構えた。
(上から頭に、左から胴に、右から足に、下から上に腕!)
ブン!ブン!ブン!キン!
リッチは俺の読み通りに攻撃した。そして俺は、それを剣でいなした。
(よし!やっぱりアレの順番通り!!)
そう、俺はあの見えない何かの流れに従い、その攻撃をいなしていた。
(やっぱりアレは、次の攻撃の予知みたいなものだな。コレがあればまず死なない、問題は剣があの連撃に耐えられるかどうかだ。)
俺は今までの連撃で剣が折れていないか、確認した。
「よし、折れてない。」
確認したらすぐに、リッチに目を向けた。
「・・・・・・」
リッチはただ無言で鉈を振り下ろした。俺はそれを避けて、
「おらぁ!」
ブン!
ヤツに剣を振った。
ガン!
だけど剣はヤツを切れず、
「カッッ!!」
ガキン!
「かはっ!」
ぶっ飛ばされた。
「く・・・そ・・・」
俺はなんとか立ち上がり、剣を構えた。そしてリッチは容赦無く鉈を振り回した。
(左、右、右、上、下、下、下、左、右、上、下!くそ!追い付かない!)
あまりの連撃で、流れを読みきれない。
ガン!ガン!キン!キン!キン!ガキン!キィン!スドン!!
俺は何とか連撃をいなした。だが、
ボロッ、
剣がそろそろヒビが出来始めたように見えた。
(くそ!もうこんなになっちまった。)
俺はボロくなった剣を構えながら、リッチから離れた。
(どこかに剣はあるか?)
俺はリッチに離れながら武器を探した。そこに、
「コレを使え!!」
その言葉が聞こえてすぐに、持っている剣と同じものが投げられた。
「誰だか知んないが、あんがとよ!!」
俺は持っている剣を捨て、投げられた剣を拾って、
「よし!いくぞ!!」
リッチに向かっていった。
死神見習い視点
「なんだよ?あいつ?」
死神見習いは目の前の光景が信じられなかった。
なぜなら、暴風のようなリッチの攻撃を、
「少しは手加減しろよ!!」
飛び入り参加した死神見習いが防いでいるからだ。
アイツはリッチの鉈を避けてすぐに剣をリッチに当てた。
ガン!
が、当てただけで切れはしなかった。
「くそ!なんで切れな・・・・ぐあ!!」
アイツはそう言ってすぐ、リッチにまた飛ばされた。
「く・・・そ・・・!なんで切れない!!」
だが、アイツはまた立ち上がる。もう白夢の制服は血で赤く染まっていた。
「まだまだぁ!!」
だけどアイツは向かっていく。勝てないのは当たり前なのに逃げずに戦う。だからオレは、
「ここは、死者の国だ!だから戦いでは、肉体ではなく精神を使え!!」
大声でそう叫んだ。
神崎 悠志視点。
『肉体ではなく精神を使え!!』
誰かがそう言っていた。
(どういうことだ?肉体ではなく精神を使え?つまり・・・)
アレに勝つには精神を使わなければいけない。
(精神を使え。想いをアレにぶつけろってことか?やってみるか・・・)
俺はその言葉を信じ、アレに対しての想いを剣に込めてみた。
(殺す、アレを殺す、俺には、やることがある!だから、アレに死を押し付ける!!)
俺はそう念じ、
「ツェイッサァ!!」
アレに剣を振った。
ザン!
「グアッ!!」
やっと切れた。だが、
(薄皮一枚分・・・か)
出血が少なかった。だから俺はこう思った。
(想い込めるだけじゃダメだ。というより、もらった剣じゃダメなんだ。なら・・・)
俺は剣を捨て、
(自分で創る!!)
それを見ていた死神見習いたちは、
(何やってんだ!?あのバカ!!)
武器である剣を捨てたら死に繋がることは誰でも知っている。
リッチは鉈を振り上げ、
振り下ろした・・・
ガキン!
と、金属音が鳴り響いた。死神見習いたちは、
(金属音?どこにそんなものがある?)
だからアイツを見てみると、
「フゥ・・・。間に合った。」
刃がそこにあったので驚いていた。
(足りない・・・まだ・・・足りない。)
俺はリッチに離れて、
(もっと、もっとだ)
イメージを創り始めた。
(心を刃にしろ、想いを刃に込めろ。)
俺みたいな一般人が最上級であるリッチに勝てる方法・・・それは、イメージで戦うこと。
(正の感情で柄を創り、負の感情を刃に込める。)
少しずつ剣が形作られ、
(殺意で刃を研ぐ、そして柄と刃を繋ぐ。)
一本の日本刀ができた。
「ガアアアァァァ!!!!」
刀ができた瞬間、リッチは叫びだした。
「コイツに怯えてんのか?心配するな、コイツはただの刀。ただ戦うって想いを込めた刀だ。」
俺はヤツに強い印象を与えるために、不敵に笑った。
ブン!ブン!ブン!
リッチはその笑いが影響してか、今まで以上のスピードで鉈を振り回した。だが俺には、
「ノロい。」
羽が落ちるより遅い。
カン!カン!キン!キン!キン!ガン!ガキン!
全ての連撃を受け流し、
「じゃあな、ここで残した未練は来世で晴らしてくれ。」
ヤツに剣を振り下ろした。
伊織視点
私は遠野に試験会場にリッチがいると聞いてすぐに会場に駆け付けた。
(死神見習いには興味ないが・・・まあリッチとやり合うなら話は別だ。)
私は試験会場に着いてすぐにリッチを探した。
(さて、何処にいる?・・・ん?)
リッチを探していたら、白夢の制服を着たやつがいた。
「おい、リッチは何処にいる?」
私はそう尋ねると、ソイツはある場所を指差した。その先を見ると、
「なっっ!!」
信じられないものを見た。
ザン!!
血まみれになった死神見習いが・・・
「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
リッチを滅ぼした光景を、
「ばかな!?見習いがなんでリッチを倒せる?・・・ん?」
リッチが滅んですぐに倒したやつは倒れた。
「おい、無事か!?」
私はソイツに近付き、状態を見た。
(服はもう血まみれ、生きているのも不思議だ。しかもコイツ・・・)
ついさっき、審査を受けた死者だった。
私は出来る限りの処置をして応援を頼んだ。そして遠野にも連絡した。
『もしもし?どうした?なんかトラブルか?』
「ああ、大事件だ。お前が審査したやつが、リッチを倒した。」
私は事実を伝えた。すると遠野は、
『オイオイ、冗談を言うな。』
まるで信じなかった。
「私は事実を言った。」
それでも事実を言った。
『マジか?アイツには才能はあると思っていたが、リッチを倒せるなんて・・・』
遠野は驚いていた。当然だ私も信じられない。
『仕方ない。お前が嘘つけるようなやつなのは分かりきってるし、信じるよ。』
「分かってるならそれでいい。とりあえずお前は・・・」
私はそう言いかけると、
『ああ、分かってる。書類をまとめないとな。アイツは・・・』
死神になったということを・・・・