第五話 死者は審査を受ける
俺の発言に遠野さんは、
「ふむ、そうきたか。確かに彼女に勝つためには、死神になるか、死霊になるしかない。」
納得したように話した。俺は、今までに感じた疑問について答えた。
「あのその前に、いくつか聞きたいことがあるんですけど・・・」
「ん?何だ?」
「まず一つ目、なんで俺がアイツに対してなんの恨みが無いと分かったんですか?」
「ああ、そのことか。理由は憎んでいれば、死霊になっているからだ。」
「二つ目の質問です。
死霊ってなんですか?また、死者との違いは?」
「死霊とは、悪霊の総称だ。死霊の中には三つのクラスに分類している。クラスについてはいつか話してやる。死者との違いは害があるか、ないか。と、たいして違いはない。元は同じ人間だからそんな違いはないのは当たり前だがな。」
「じゃあ、最後の質問です。どうすれば死神になれるんですか?」
「テストを受けて、合格すれば、なれる。」
遠野さんは軽いノリで言った。
「いや、テストってどんなことするんですか?」
「まあ、筆記試験ではなく、実技試験だな。学力は、いらないな。死神になってから運が良ければたぶんやらされるだろう。」
「それって運が悪ければの話なんじゃ?」
どう考えてもやりたくない。死神になったとき気をつけよう。
「そ、それで実技試験はどんなことをやるんですか?(実技試験なんだから、死霊ってやつを倒したりするんだろうか?いや、下っ端だし、死者のガイドあたりだろう。)」
俺はそう思っていたが、
「ん?いきなり死霊を倒すことだ。」
いきなりレベルが高かった。
「何も訓練を受けずに?」
俺はそれはないだろうと思った。遠野さんは、
「いや、普通は訓練を二年くらいやって受けるもんだ。」
と、言ったので安心はしたが、続けて
「これは、生前、戦士だったり、魔術師だったりと戦い方をあらかじめ知っている者での基準だ。」
絶望的な一言が返ってきた。
「え、えーと。一般人の場合は?」
嫌な予感がするが質問した。
「普通は受け付けていないぞ。」
絶望が俺に追い打ちをした。
「ふ、普通はって、れ、例外があるんですか?」
俺は少ない願いをこの一言に託した。
「それを今から、審査する。」
願いは半分通じたらしい。
「審査って?」
俺は審査について聞いた。
「審査は死神になる適正があるかどうかを調べるものだ。」
遠野さんはそう答えた。そして続けてこう言った。
「ごく稀に、ただの一般人が死神になることがあったから、最近、試験とは別に審査をやることにしたんだ。ついてこい。今から審査をしてやる。」
遠野さんはそう言って歩きだした。
(つまり適正がなければ、アイツを追うことは不可能ってことか。)
俺はそう考えていると、
「お〜い、早く来い。迷子になるのはいやだろう?」
と、遠野さんが言ってきた。そして俺は、
「やるしかねぇか。」
ため息をして、後を追い掛けた・・・・
遠野さんに連れられた先には大きなホールがあった。
「うわ、すげーなコレ。」
俺はあまりの広さに驚いた。
「ここは俺たちの修練場として使われている。普段はある女がここを占領しているから使う機会が少ないが、そいつは今仕事でいないんだ。」
と、遠野さんは言った。俺はホールの中を眺めてた。
「観客席まであるな。なんか周りに木刀やら、薙刀やらあるんですけど?
(占領している女の趣味か?まあ、修練場として使われているんだから当たり前か・・・)にしても、広いな。」
俺が眺めている間、遠野さんは、
「お、ちょうどいいものがあった。ほらよ。」
落ちていた木刀を拾って俺に投げた。
「っと、んで、審査ってのは具体的になにをやるんですか?」
投げられた木刀を掴み、質問をした。
「今から、俺の幻影と戦ってもらう。」
ハイレベルな審査だった。
(つまり、俺に死ねと?)
俺が絶望している間に
「ああ、別に勝たなくてもいい、それに幻影は俺の十分の一の実力だ。」
と、遠野さんは軽く言った。
「いや、あんたの全力知らないし、それ・・・『それでは審査開始〜』人の話を聞けーー!!」
無情にも審査は開始された。
次の瞬間・・・
「なっ!?」
振り向いた目の前に幻影が現れ、木刀を振り下ろされ、俺はぶっ飛ばされた。
遠野視点
「あら〜よく飛ぶな〜」
俺はぶっ飛ばされた神崎を見ていた。
「さて、見たところ戦闘経験はなし・・・か。」
俺は神崎の構え、呼吸、殺気の具合、今の攻撃の対応で判断した。すると、
「騒がしいな、一体何をやっているんだ?」
女の声が聞こえた。
「なんだ?もう帰ってきたのか。伊織」
声の先に視線を向けると黒髪で凛とした顔立ちをした和服を着ている女性がいた。 「たかだか、リビングの始末に時間をかけるものか。それで、私の縄張りでなにをしているのだ?」
伊織と呼ばれた女性は無愛想に答えた。
「なに、死神の適正審査をやっているところだ。」
俺はそう答えると、伊織は、
「審査?一般人に死神を諦めさせるやつか?そんなものを見たって意味ないだろう?」
疑問を口にしていた。
そう、審査とは名ばかりのもので死神としての覚悟のない一般人に死神を諦めさせる余興(俺が暇を作るために)で意味のないものだった。
「まあ、最初はそのつもりだったんだがな・・・」
俺は神崎にたいしてなにかあるのでは・・・と感じている。
「しかし、アイツは何だ?全てが素人じゃないか。よく一撃で気絶しなかったな。」
伊織はつまらなそうに言った。
「ともかく、早く諦めさせて私の縄張りを返してくれないか?中途半端に動いたから身体が疼くのでな。」
その言葉に俺は、
「いや、もう少しかかりそうだぜ。」
確信をこめて言った。
神崎視点に戻る。
「ハア・・・ハア・・・・ハア・・・いってぇ〜。」
俺は最初の一撃をかろうじて防ぎなんとか立っていた。
(たくっ、いきなりぶっ飛ばされるとはねぇ・・・。さて、どうしますかっと。)
俺はとりあえず目の前の幻影を見た。
(さてさて、 相手は、死神のトップの幻影で実力はオリジナルの10%<オリジナルの100%は知らないが>であると、俺と比較すると、全てがアイツの方が高い。)
絶望的な審査だ。
俺は木刀を構えた。
(どうする?今んとこ向かってくる気配はないが。)
こっちが突っ込めばさっきの二の舞だ。だが、
「やってみねぇと・・・分かんねぇだろうな!!」
俺は幻影に向かって突っ込んだ。そして、
「ハアッ!!」
木刀を振るった。
「・・・・・・・」
だが幻影に防がれてしまう。
(あきらめてたまるか!!)
「セイッ!!テアッ!!」
俺は何回も木刀を振るった。だが
「・・・・・・」
全て防がれ、
「・・・・!!」
隙をつかれぶっ飛ばされた。
「ぐあっ!!(くそっ!これじゃ勝ち目がない。)」
俺はまた幻影から離れた。
(せめて、アレの動きが読めればなぁ・・・。)
俺は無い物ねだりをした。しかも熟練の戦士でないと得られないものを。
(だったら、今それを習得するしかないな。)
いや、一般人にそんな才能ないから。
(とにかく、適正なかったらアイツを追えないんだ。不可能でもやるしかないんだ。)
俺は木刀を構え、そして・・・
「うおおぉー!!」
幻影に向かっていた。
(まず、今の俺ではアレには勝てない。なら!)
俺は木刀を振るった。
「・・・・・・」
幻影は無言にそれを防いだ。そして、
「・・・・・・」
無言のまま俺に襲いかかった。
「くっ。(くそっ!やっぱり速い。だけど・・・)」
俺はそれを木刀で防ぐ
(アイツの動きをよく見ろ。どう動いている?どう攻撃している?どう防いでいる?どうすればあんなに速く動ける?)
今の俺では勝てないなら、今ここでアレを模倣して強くなるしかない。そして少しでも理解できたならば、
「そらっ!」
すぐに実行する。
「・・・・・」
幻影の動きにズレがでてきた。
(よし、この動きは正解のようだな。)
そう確信して、
「次だ!」
次の模倣に移った。
遠野視点
俺は神崎の動きの変化を見ていた。
「ふ〜ん。アイツ、アレの動きを真似しているな。」
隣にいる伊織が見たままに答えた。
「幻影とはいえ、俺の模倣をするとはなぁ。しかし、ああも簡単に真似できるものではないんだが。」
俺の気持ちは複雑だ。
「あの幻影がオリジナルの10%の実力しかないからだからだろう。動きが鈍い分真似しやすい。それに真似していると言っても、基礎部分だしな。」
伊織は俺の気持ちを察してか、フォローしてくれた。
「そりゃどうも。で、お前から見てアイツはどう?」
俺は伊織にアイツの評価を聞いた。
「それなりに適正はあるようだな。まあアイツが自分の能力に気付けば・・・の話だがな。」
意外と好評価だった。
評価されてから間もなく・・・
ドゴーーーーーン!!
「ま、審査は珍しく合格ってことで。
たった今ぶっ飛ばされた神崎を見て、ため息まじりに俺は言った。