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死神の物語  作者: 笠井
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第四十三話 死神は不調に陥る。

 自室より・・・


 ピピピピピピピピ!


「・・・ん。」


 うるさい目覚ましの音で目が覚めた。しかし、


「くあぁ〜〜〜〜」


 神騎士のいざこざ、縫いぐるみの夢のせいで、まだ眠く、しかも身体が痛くてベッドから抜け出せない。このまま寝たいところだが、


「仕事があるし・・・な。」


 俺はまだ寝ているノルンを起こさないように、外套を着て、社長室に向かった。










 死者のたまり場より


 今日の仕事は身体の関係上、ガイドとカウンセリングのみとなった。うまくいけば早く部屋に戻ることができ、存分に惰眠を貪ることができる。


「え〜と、ジェバンニさんは5番号船、デイビットさんもです。」


 俺は死者たちに指示を送る。すると、


「なあ、兄ちゃん?少し聞きたいことがあるんだが?」


 少し厳つい顔のオッサンが話しかけてきた。


「どうしました?」


「コイツの顔を知らないか?」


 と、オッサンは写真を見せた。写真には金髪の外人さんが写っていた。たしかこの人はついさっき見た人だった。


「ああ、その人なら3番号船にいますよ。でも、その人がなにか?」


 好奇心から聞いてみるが、


「ちょいと訳ありでね。」


 と、オッサンはそれだけ答えた。なんかイヤな予感がする俺は、


「あの〜、くれぐれも運転中は騒ぎを起こさないように願いたいのですが・・・」


 と、遠慮がちに言ってみると、


「ああ、カタギには迷惑はかけん。」


 見た目どおりの発言がかえってきた。










 5時間後・・・


「やれやれ、やっと終わった。」


 俺はガイドとカウンセリングを終わらせ、部屋に戻っている。


「しかし、今日は疲れたな〜」


 いつもはこの後死霊狩りをやらされるが、それよりも疲れた。理由は、まだ身体が痛むことと、


「あんなグロい話聞かされたら身体に悪いよ。」


 カウンセリングの約2名の方が自分の死亡体験を聞かされたからだ。


「ハリーさんは、山羊さんに足を舐められ、あげくには鉄の処女でグサグサ。月島さんは謎の小型生物に全身を喰われたって、想像しただけで寒気がする。」


 その話をした途端、ハリーさんはガタガタ振るいながら奇声を上げ、月島さんは俺に抱き着いてきて、両者ともども宥めるのに苦労した。


「て〜か、自分の傷を自分でこじ開けなくてもいいじゃん。」


 と、愚痴りながら部屋に向かっていく。


「さ〜て、今日は疲れたし、マイケルに薬もらって、ノルンとあそ・・・っ!!」


 びますか、と言う前に、


 ヒュン。


 『流れ読み』が胴体を後ろから斬られる感覚がした。なので、


「くっ!!」


 俺は前方に飛び込む。さっきまで俺がいた場所には何かが空を斬り、


「いい感じだ。いつでも避ける態勢が身についてる。」


 いつもどおり伊織が刀を握っていた。


「伊織!!お前、マジでそれ止めろ!!今回はマジで死ぬと思ったぞ!!」


 俺は伊織を怒鳴り付ける。


「なんだ。今日はいつにも増して怒ってるな。」


 伊織はなんでもないように言った。コイツ、前々から思っているがうっかりで人を殺しそうだ。


「当たり前だ!今日は身体が動かしにくいんだ!!下手すりゃ上と下が二等分にされた自分と御対面という笑えない事態になるぞ!」


 と、俺は伊織に叫ぶと、


「まあ、そんなことはどうでもいい。悠志、ちょっと付きあえ。」


 俺の叫びをスルーして、歩きだした。


「はあ、少しは聞いてもいいんじゃないか?」


 俺はため息をつき、仕方なく伊織についていった。










 修練場より・・・


 伊織が付きあえと言ったら、だいたいは訓練という名のストレス発散の相手をしろということだ。相手する身にもなってほしいが、このことばかりは伊織は他人の懇願なんてちっとも聞いていない。まあ、俺も出会ったらすぐに此処に連行されているから慣れているのだが、


 ガキン!ゴトン。


「くっ!」


「おい。全然なってないぞ。」


 2分も持たずに剣を弾き落とされた。伊織はものすごく不機嫌そうだ。


「だから言っただろ、身体が痛くて、動けないって。」


 俺は、双剣を創り、とりあえず構えておく。


「だからって、コレはない。私のイライラが消えない。もう少し頑張れ。」


 伊織はまだ続けるらしい。刀を構え、いつでも斬りかかる態勢になっている。このままだと御臨終(もう死んでいるが)になる確率が高い。誰かコイツを止めてくれる生贄という名の英雄が来てほしいと心の底から願った。


「といっても、ここに来る酔狂なヤツがいるとは思えないしなあ。」


 俺はそうボヤき、そして諦め、今持っているものをフルに使い、生き抜くことに集中した。










 2分後・・・


 ガキン!カラン、カラン。


「なあ、伊織。もう無理・・・のわっ!!」


 と、言いかけたら切り掛かってきた。


「確かに・・・真剣でやってたらうっかり死ぬな。」


 伊織はそう呟き、刀を鞘に納めた。やっと終わったと安心したら。


 バコッ


「痛っ!」


 鈍器みたいなものを投げ付けられた。


「なにしやがる・・・」


 俺は伊織を睨みつけると、


「真剣が駄目なら木刀だ。」


 と木刀を握りながら言ってきた。










 さらに2分後・・・


 カン!カン!カン!カン!カン!カン!ドス!


「ぐふっ!」


「ほら立て。」










 1分30秒後・・・


 カン!ドカン!


「かはっ!!」


「手を抜くな。」










 1分後・・・


 ガン!


「・・・・」


「起きろ。」


 ガン!


「〜〜〜〜〜!!!」


「悶える暇あるなら立て」










 30秒後・・・


「・・・・・」


「・・・・・」


 つんつん


「・・・・・」


「返事がない・・・ただのしかばねのようだ状態か。」










 2時間後・・・


「ん・・・寝てたのか・・・」


 俺は痛む身体を動かし、周りを見渡す。


「おはよう。目は覚めたか?」


 と、伊織が俺の目の前にいた。


「伊織・・・言っとくがもう無理だからな。もう戦えないからな。」


 俺は念のためにこれ以上は無理であることを訴えた。


「判ってるよ・・・私が悪かったからそんなに睨むな。」


 伊織はそう言って立ち上がる。俺もそれに立ち上がろうとしたら、何かの包みがあった。伊織にこれについて聞こうと声をかけるまえに、


「じゃあな。それと、その包みは今日の詫びだ。」


 そう言って、とっとと帰っていった。


「詫び?」


 俺は包みを開くと、弁当が2つあった。



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