第四十二話 死神は縫いぐるみと語る。
社長室より・・・
「それにしてもよくここに帰ってこれたな。」
遠野さんがいつものニヤけ顔で言う。
「まあ、いろいろありましてね。」
俺はそう答えた。実際、クレアが去ったあと、俺達は神騎士達に恨まれ、神騎士は、
「どう責任とるつもりだ!!」
と、怒鳴り、俺は、
「死神は『命を大事に』が目標なんで、その目標にそってたら仲間を見殺しにしないかぎり多少の責任は免除されま〜す。」
と、言ったら、ブチ切れ、
「貴様らを連行する!特に貴様ら死神は死刑!上位精霊はあの御方に献上!!」
と、叫びだしたので、俺はなけなしの魔力で双剣を創り、『クロノ・トリガー』で加速し、ノルンは神騎士たちの足場を凍らせ、ミリアは配付された閃光弾を投げつけ、怯んでいるすきに二人を抱えて、近くにある非常用のゲートまで逃げたてきた。
「てわけで、フォロー頼みます。」
俺はこれから来るであろうトラブルのフォローを頼んだ。
「神がきたときのフォロー・・・ね。分かったよ。今回、事前に連絡もいれてないあいつらに非があることで帳消しにするようにしてみるよ。」
遠野さんはため息をついて言った。
「ありがとうごさいます。んじゃあ、俺は今から蕎麦屋に行ってきます。」
と言って、俺は社長室を出た。
5時間後、自室より
「いや〜、食った食った。」
俺は蕎麦屋で蕎麦を食い、そのままベッドに倒れた。
「ニャ〜〜(悠志、身体、大丈夫?)」
猫になったノルンは心配そうに聞いてきた。
「ああ、魔力はゼロに等しいし、疲れもある。まあ、寝てれば回復するだろ。」
そう言って俺は目を閉じる。
「おやすみ、ノルン。」
「ニャン(おやすみ)」
そうして俺は意識を手放した。
夢を見た。今回は縫いぐるみの夢らしい。目を開ければ自分は確認できるが周りは黒一色だった。
(とりあえず、やることは1つだな。)
俺はもう一度目を閉じる。とりあえず、うるさい縫いぐるみの夢は休まることがないのであまり見たくない。と、思ってたら、
「おきろーーー!!」
ボフン。
縫いぐるみがダイブしてきた。綿のくせに意外と重く、なんかムカついたので、
「うらっ!」
ボフッ。
「ふみゅ!」
蹴り上げ、
「てあっ!!」
バン!バン!ボフン。
蹴飛ばした。縫いぐるみは蹴飛ばされたあと、すぐにこっちに向かってきて、
「何するのさ!!」
怒鳴った。
「うるさい。黙れ。寝かせろ。」
俺は縫いぐるみの頭をチョップしながら言った。すると縫いぐるみは、
「僕の頭は太鼓じゃな〜い!!」
まるで子供のように手を振り回しながら俺を叩く。
「無駄に痛いから止めい。」
「じゃあ、君も叩くの止めてよ!!」
こう言われては仕方がないので、俺は叩くのやめ、代わりに、
「で?何か用?」
この縫いぐるみに聞いてみた。
「ん〜、お知らせにきた。かな?」
縫いぐるみは首を傾げながら答えた。
「お知らせ?」
「うん!とりあえずは僕と君の距離が前より近づいたことを。」
と、縫いぐるみは言った。
「前に言ってた。浸透ってやつか?」
この縫いぐるみは自分は俺の力と言っていた。そして俺の力とか言ってるくせに俺と同化してないから俺の考えが読めないとわけ分からないことを言っている。
「んじゃ、俺が何考えてるのか分かるのか?」
俺がそう言うと、縫いぐるみは、
「う〜ん。まだ表面だよ。例えば、蕎麦食べたい。ノルンと遊びたい。寝たいとか。」
「大正解です。」
ホントに考えていることが分かるらしい。だけど、
「おい、あと1つ考えてることがあるんだが?」
俺は腕を組み、ニヤリと笑う。それを見た縫いぐるみは、
「ぼ、暴力は反対だよっ!!」
すぐに5mくらい離れてビクビクしていた。
(あ、やっぱり分かるんだ。)
俺は今、あの縫いぐるみをぶちのめしたいと思っていた。
「まあ、それはまた今度。それより、お知らせは終わったんだろ?早く寝かせてくれ。」
俺は縫いぐるみそう言うと、
「あ、あともうひとつ!!」
縫いぐるみは慌てて言う、そして続けて、
「神さまがクレアを狙ってるのは世界のためじゃないよ。」
そう言ってきた。
「やっぱりか。あいつら、なんか世界平和なんかするっていう顔じゃないし。」
神騎士を見てると、クレアを重要視しすぎていると感じた。クレアは雇われていると言っていた。なら捕まえたって大した情報なんてないはずなのに、陣まで張らせる魔術を使うのはおかしい。
「最初は最強の死神だからだと思ったんだが・・・今の神サマの現状をみるとね〜」
「あ!わかるわかる!大昔とは違ってあんまり大したこと出来ないからね!」
神話が現実にあったことなのか調べてないから分からないが、昔は人の感情、性格、人生すらも自分のやりたい放題に変えることができ、さらには天変地異を起こし世界を危機に追いやることも、逆に木々を増やし、水を浄化させ、空を晴らしたりと世界を平和にすることも出来たらしい。
しかし、今の神は人間の人生には干渉できず、世界を危機に追いやることも、平和をもたらすことも出来ない。人間と違うところといったら生れつきの膨大な魔力を持っていることと、殺さないかぎり(毒殺、自殺は除く)はどんなことをしても死なないことくらいだ。そして昔の神は人間の世界に干渉しまくっていたが、現在では街が死霊に襲われても知らん顔。真面目にやってるのは神のトップと地獄で審判やってる閻魔たちだけという始末。
「まあ、神サマの職務放棄はムカつくから気にしない方向でいくとして、何で俺の力がんなことを知ってんだよ?」
俺は縫いぐるみに聞いてみるが、
「まだ聞いたら廃人モノだよっ!」
縫いぐるみは親指を立てて言う。どうやら時間が解決してくれるらしい。
「んじゃあ、この話は中断して、お前に聞きたいことがある。」
俺はノルンに聞いた魔力の色が元々灰色だったのが白(あの後、ノルンやエイレンシアに調べてもらったが灰色に戻ったと言われた)に変わったことと、その白の魔力について話した。
「それは浸透が進んでる証拠だよ。多分、君の限界を超える度に浸透が急激に進むからね。」
と、縫いぐるみは言う。
「おいおい、下手すりゃ俺が消えるみたいなことを言われたんだが、まさかお前、下剋上をするつもりか?」
こんな縫いぐるみに主導権を奪われるのは嫌だ。
「ふふふ、どうかな〜?案外、大丈夫かもよ?」
縫いぐるみは楽しそうに言う。めちゃくちゃ嫌な予感がする。そうなったら全力で阻止しようと誓ったところで縫いぐるみが暗くて見えなくなってきた。どうやら夢は終わりらしい。俺はそのまま目を閉じ、夢から醒めようとした。
縫いぐるみ視点・・・
「ふぅ。現在の浸透率は20%か〜」
僕は独りそう呟く。
「しかし、いつもより・・・いや過去の例を見ても浸透が遅すぎる。」
今までは死後の世界にきた瞬間、浸透が完成されることが多く。また、そうでない場合は大体2週間で浸透を終える。しかし、悠志は浸透の開始がここ最近になってやっとスタートし、スタートしたのに浸透速度が遅すぎる。
「たまたま、神騎士に遭遇して限界を超えたまではいいがそれでも20%・・・」
最低でもあと4回限界を超えてもらわなければならない。
「浸透が完成すれば僕の目的が達成できる。だけど今回はそれだけじゃ不安だ。」
悠志だけは浸透が完成するだけでは目的には至れないかもしれない。
「悠志は自分でも言うように普通の一般人、それは他の誰よりも知っている。僕がいなければ、たいしたことは出来ないはず。」
だけど、何故か悠志には全力を出さないと勝てない気がした。