第四十一話 死神は防ぎきる。
神騎士視点・・・
「フハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
私は心の底から笑った。あの死神はこれで死んだだろう。なにせこの魔術は使いどころによっては街一つを消し炭にできる威力をもっているからな。
「さて、これで任務も終わった・・・早く、帰って美酒でも・・・」
飲もうかと思い、私はあの死神の亡骸がある方へ背を向ける。その時、
「な、なんだと!?」
部下が騒いでいたので振り向くと、
「な!?」
死神は亡骸どころか、無傷で立っていた。
神崎 悠志視点
「な!?」
神騎士がめちゃくちゃ驚いているのを見て、ほくそ笑んだ。あの魔術に絶対の自信を持っていたのだろう。
「はは、いい気味だね。」
俺はニヤついてる。あの神騎士がこの世の終わりを見たかのような顔を見ているからだ。
「先輩!!無くなりかけた魔力が急に上がるなんて、ホントに普通の人なんですか!?」
ミリアが叫ぶ。
「ミリアが言ったよね?魔力イコール精神力って、いやいや、火事場のクソ力とはよく言ったものだよ。人間、死ぬ気になれば奇跡をおこせるんだね。」
俺は笑いながら言った。ハイになってるからだろうか少し喋り方がおかしい。
「確かに言いましたけど・・・」
ミリアはまだ納得がいかないようだ。
「悠志・・・その魔力、消して?」
と、ノルンが俺にしがみついた。
「え?どういうことだい?ノルン?」
俺はわけもわからなかった。
「悠志、その魔力は悠志のモノじゃない。悠志の魔力の色は灰色。だけど今は白。しかも悠志と比べものにならないくらい強い。このままだと・・・」
ノルンは一拍おいて、
「悠志が消えちゃうよ・・・」
今にも泣きそうな悲しそうな顔で言った。
「なっ!?」
俺は自分が消えると言われて唖然とした。恐怖を感じたからか、今まで溢れていた魔力が消え失せ、代わりに、
「ブホォッ!!」
パシャ!
息苦しくなり、咳込んだら、血を吐いた。
(最近、血の色をよく見るのはなんでだろう?)
と、頭の片隅でそんなことを思っていた。
ミリア視点
「ブホォッ!!」
先輩がいきなり咳込み、吐血した。
「先輩!」
私は先輩に駆け寄り、声をかけた。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・ゴホッ、ゴホッ!!」
先輩は苦しそうに咳込む。そういえば、医療班の班長さんが言っていた。
「ボーイはね、イレギュラーな力を持っているんだ。白夢の時からリッチと同等の力を持ち、伊織の訓練、エイレンシアのトラブルにも負けずに生き抜いてきた。だけどね、ボーイがいつも言ってるようにボーイは普通の人間なんだ。そのイレギュラーな力に蝕まれることが多い。特にクレア関連の時は確実にね。だからボーイと一緒に行動するときは注意してほしい。」
確かに先輩は異常だった。魔力イコール精神力とは言ったが、それはあくまで上限での話だ。無くなりかけた魔力がいきなり増えるなんて有り得ない。異常な力に蝕まれることもあるのも当たっていた。刀に込めた魔力が強すぎて込めた本人がボロボロになっている。
「悠志・・・落ち着いて。」
先輩の猫は先輩の背中をさする。いや、これ酔った人の対応のような。
「っと。今はそんなことを考えてる場合じゃなかった。」
先輩の猫と私は先輩に治癒魔術をかける。先輩は少しだが落ち着いたみたいだ。とりあえず応急処置はこれでいい。
私はクレアが静かなのに気がついた。前に、先輩が倒れたとき、クレアは慌てていた。なのに今は静かだ。私はクレアの方を見ると、
(え?)
私は目を疑った。だってクレアは、
先輩を見つめて笑っていた。
私はその顔を見て寒気がした。それはとても歪んでいて、だけどとても綺麗な笑顔。私はすぐにその顔を見なかったことにした。
神崎 悠志視点・・・
「はあ、はあ、はあ。」
ミリアとノルンのおかげで大分楽になったが、息苦しさはまだ残る。
気絶してしまいたいが、気絶したら、結界は解除され、ノルンたちに危険がおよぶため、必死に耐えた。すると、
「馬鹿な・・・防ぎきったというのか!?」
神騎士とその部下たちが降りてくる。
「貴様は何者だ死神!?なぜ防げる!?あれは使いどころによっては町一つ滅ぼせる力を持つのだぞ!!」
神騎士は苦虫を噛み締めたような顔で叫ぶ。
「さあな、クレアの魔力がテメーらに勝ったんだろ?」
俺はそのまま口にする。
「馬鹿な!?そんなこと・・・!?上位精霊!!そうかそやつの力を使えば他者の魔力も使用できる。」
神騎士はノルンを見てながら言った。
「ノルン、仕事の話ではあんま気にしなかったけど、そんなにすごいのか?」
俺はノルンに聞いてみると、
「うん。私たちはあんまり気にしてないけど意外と位は高いらしい。」
ノルンはそう答えた。
精霊は世界の特定なエネルギーが結集し、なんらかの原因で意識体に昇華したとても珍しい生命体である。その中にも格差があるとは驚いた。
「しかし、あれを防ぎきるのに多大な魔力を消費しただろう?ならば・・・」
神騎士は剣を抜き、それと同時に部下たちも自分たちの武器を取り出す。
「さあ、死神。結界を解け!」
神騎士は何度目かになる命令をした。
「だ〜か〜ら〜・・・」
俺も何度目かになる拒否をしようとしたら、
「ふふふ。悠志。うるさいのの言うことを聞く必要はないわ。」
クレアが前にのりだして制する。
「あんなに時間がすぎたもの。もうすぐ・・・」
その瞬間。
ザシュ!
「ぐあっ!!」
神騎士の部下の1人が倒れた。そこには、
「たくっ、アンタは目立つんだから大人しくしてろって言っただろ〜が。」
明らかに染めている金髪。チャラ男な服。そして血に染まった腕。不良Aがそこにいた。
「何者っ!?」
神騎士が叫ぶ。
「テメーに名乗る名前なんてね〜よ。オイ、クレア。早くずらかるぜ。朱美がキレたら手がつけられねえ。」
不良Aは不機嫌そうに言った。
「そうね。悠志。結界を解いて。」
クレアは笑いながら言った。俺は突き刺さった刀を抜き、結界を解く。
「馬鹿め!!」
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
神騎士が閃光をクレアに向けて放つ。このままだと俺らにも被害がくる。
「ふう。」
ブン!
クレアはため息をつき。3本の鎌を出し、片手で振るい、閃光を打ち消した。
「その程度の魔術で私を殺せると思ったの?」
クレアはニヤリと笑った。そして、不良Aのもとへ行き、
「さよなら、悠志。また会いましょう。」
そのまま消えていった。