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死神の物語  作者: 笠井
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第二十一話 死神は修理をする。

 『黄泉』社長室より


「とまあ、そんな訳で坂塚さんより遅れました。」


 俺は遠野さんに塔の報告をした。


「ああ、マフィアの秘密兵器か・・・面白そうだな。」


 遠野さんはニヤついた笑みを浮かべた。


「面白そうって。」


 俺は呆れた。


「まあ、それよりお前、身体はどうだ?報告によると、負担のかかる技を連発したそうだが?」


 遠野さんはそう聞くと、


「ああ、確かにものすごい激痛がありましたけど大丈夫です。」


 俺がそう言うと、


「嘘だろ。」


「ハイ、ぶっちゃけ、動くだけでも辛いです。」


 ばれていた。あんだけの連続技を制限つけたままやったので凄く痛い。


「お前は普通の一般人なんだから無茶はするなよ。」


「だったら、仕事減らして下さいよ。」


「嫌だね。仕事は雨のように降ってくるのに、人員はいつも不足してるんだ。だから、しょっちゅう怪我してもらっては困るんだよ。」


 この世界は死者の世界。だから精神の強さが魔力や生命力を左右するのだが、やはり生前の身体を変えることはできない(死霊の場合は色々無くしちゃってる方々なので異形化する人もいれば普通の人もいる)。俺以外の死神はほとんどどっかの戦場で戦ってる人達であり、色夢クラスになると、どっかの勇者や魔王や魔術師など、普通の人間と明らかに違う人達ばかりだ。制限がつけられる理由は現世に影響を与えないためだ。しかし、俺みたいな一般人の身体が壊れないためのブレーキでもある。制限を解除すれば武器の創造の負担は減るが、身体のダメージが蓄積されてしまう。蓄積されたダメージは治りにくい。だから制限をつけて蓄積させずにこまめに出そうということだ。


「まあ、今日の仕事はこれで終わりだ。明日からまた働いてくれ。ゆっくり休んでろよ。」


 遠野さんはニヤつきながら言った。


「社長。あんたまだ俺が休めないこと知ってるからって、ニヤつかないで下さい。」


 まだ俺にはエイレンシアに会いに行かなくてはならない。


「いやいや。お前が困ってるところを見ると面白くてな。」


「地獄に堕ちろや!!悪趣味社長!!」


 俺が怒鳴れば、


「地獄には週に3回は仕事で行ってるぞ。」


 経験済だった。


「もういいや。無駄なエネルギーを使いたくないし。」


 なんかもういろんな意味で疲れたので社長室に出ることにした。










 交通班・研究所より


 社長室を出て、俺は放送のとおりにエイレンシアに会うことにした。研究所に行けば、


「もっと早く来て下さい!!」


 研究員AとBが死にそうなくらい疲れ果てた顔で叫んだ。


「仕事あったから仕方ないだろ?あ〜あ。そんなこと言うなら帰っちゃおうかな〜」


 さっきの遠野さんのやり取りのせいか、俺はこいつらを困らせようと思い、ニヤニヤしながら言ってみたら、


「すいませんでした!!」


(うん、必死だね。)


 事態は深刻だったみたいだ。俺はとっととエイレンシアの仕事場に行くと、


「う〜〜〜〜〜〜〜〜」


 なんか唸ってた。


「どうした?エイレンシア?」


 俺が声をかければ、


「ゆ〜君。私寂しい。」


「いや、それは放送で聞いた。」


「寂しいから仕事に力が入らない。」


「わがまま言うんじゃありません。ほら、さっさとやる。」


「ゆ〜君も手伝って〜」


「自分の仕事は自分でやりなさい。」


「そんなこと言わないでよ〜」


「はあ。分かった分かった。なにやりゃいいんだ?」


「やった〜!じゃ、ゆ〜君これやって!」


 エイレンシアに渡されたのは書類だった。


「何コレ?」


 俺はこの書類が何なのか聞いてみたら、


「それ、今日渡された書類でね。たしか・・・なんかのロボットの図面みたい。」


 エイレンシアはそう言って、仕事に移った。


「待てコラ。素人にロボットの図面渡してどうすんだよ?」


 まさか図面見ながらそのロボット組み立てろ言うのかと思ったら、


「う〜ん。ゆ〜君に頼みたいのはね〜。そのロボットの修理なの。」


 どっちにしろ無茶苦茶な相談だった。


「いや、無理だから。」


「え〜。男の子でしょ〜。機械いじってるでしょ〜」


「あのな。ロボット直せって専門的な技術がないから直せるわけねーでだろ!」


 そんな素人が直そうとしたら逆にそのロボットは確実に天に召されるだろう。


「大丈夫、大丈夫。その図面を見てれば、ちゃんと分かるから。」


 エイレンシアはそう言って、修理に使う道具一式を俺に渡した。もう諦めるしかないと思い、俺はため息をついた。


「壊れても知らないからな。で、どこにあんだ?」


「ありがと〜。ロボットはそこにあるからがんばってね〜」


 エイレンシアはロボットの場所を指差す。俺はその先を見ると、


「エイレンシア・・・無理だ。」


 ガラクタと化した部品が転がっていた。しかも部品は熱で溶かされた跡があって、修理不可能な状態だった。


「あ、言い忘れてたけど、まだ壊れた部分の部品が届いてないの。今、ゆ〜君がやることはコアを取り出すことよ。」


 と、エイレンシアは言った。


「仕方ない。やるか。」


 長い夜になりそうだと思った。










「え〜と、ここはこうハズして・・・ここは・・・ああ、くそっ!部品が溶けてて、ドライバーが通らない。」


 俺はロボットのコアを取り出すために黙々と解体作業をしていた。


「ふー、喉かわいたな。ノルン悪いけど、水持ってきてくれない。」


 とりあえずノルンも手伝ってもらうことにして連れてきた。ノルンはすぐに水を持ってきた。


「ありがとな。」


 俺はノルンを撫でた。


「ん」


 ノルンも気持ちよさそうにしていた。そして俺は作業に取り掛かる。


「このコードは・・・切ってもいいな。たまに電流が流れてるコードがあるからな。注意しないと・・・」


 電流が流れたときは死にかけた。ノルンがいなかったらまた病院送りだろう。


「ねえ、悠志。」


 ノルンが俺の外套の裾を引っ張る。


「なんだ?ノルン?」


「おなか空いた。」


 確かに時計を見ればもう夕飯の時間だった。


「そうだな。食堂行くか。」


「うん。」


 俺達が食堂に行こうとすると、


「ね〜。私も行きたい。」


「いや、別にいいが・・・仕事は?」


「大体終わった〜」


 エイレンシアは手を突き出し、ぶいっと言った(まあ、似合わないわけではない)。そんなわけでエイレンシアを連れて食堂に行くことにした。










 食堂より


「すいませ〜ん!蕎麦くださ〜い。」


 と、俺が言えば、


「また蕎麦かい!?あんたなんでいつも蕎麦しか頼まないんだい!?」


 食堂にいるおばちゃんは呆れたように言った。


「まあ、好物なもんなので・・・」


 俺にはこれしか言えなかった。


「蕎麦ばっかりじゃなくて、他の物を頼みな!!」


 なんか蕎麦を頼むといつもこんなやり取りが続く。しかし諦めるわけにはいかない。


「しょうがないな〜。じゃあ山菜蕎麦とサラダ、あと、チキンナゲットを下さい。」


「けっきょく蕎麦を頼むんかい!!」


 いい加減、諦めてもらいたいものだと思う。


「ね〜、ノルン?ゆ〜君っていっつもああなの?」


 と、エイレンシアがノルンに聞いていた。


「うん。悠志は毎回食堂で蕎麦を頼む。まるで麻薬中毒者のように・・・」


 と、ノルンは答えた。俺はなぜか傷つく。


「いや、なにそれ?俺ってそんな廃人みたいに見られてるの?」


「うん。みんな悠志は蕎麦を食わないと発狂するって言ってる。」


 ノルンは頼んだケーキを食べながら言った。


「まあいいや。今更人の目なんか気にするのもバカらしくなった。」


 俺はそう言って、蕎麦を啜った。


「ゆ〜君もそうだけど、ここの人達って変人が多いよね〜」


 その変人の1人であるエイレンシアはドリアを食べながら言った。


「そうだな。俺は普通の一般人だけどね。」


 毎日蕎麦食ってるだけで変人扱いされたくない。そう思ってると、


「よお、蕎麦好き。今日も蕎麦食ってるのか?」


 伊織がいた。


「なんだ伊織か。珍しいなお前が食堂に来るなんて。お前確か自分でメシ作ってるんだよな?」


 伊織は性格は乱暴だが、料理はうまい。いつか夕飯をご馳走になったことがあって、その料理がうまかったから驚いたものだった。


「しょうがないだろ。私もお前が仕事の時に仕事がきて、今帰ってきたんだから。こんな時間にメシなんか作れないだろ?」


 伊織は俺の隣に座って頼んだであろう焼き魚定食を食べる。


「ところでエイレンシア、悠志に何の用があったんだ?」


 伊織はエイレンシアを睨みながら言った。


「な、なによ〜。寂しいから来てって言っただけだもん。」


 エイレンシアは伊織の睨みに怯んだ。


「お前のことだ。どうせ仕事手伝ってって悠志に泣きついたんだろ?」


 伊織は真実を言い当てた。


「うっ(汗)、そ、ソンナコトナイヨ(滝汗)。」


 エイレンシアはかなり動揺している。


(そう思うなら、カタコト止めろ。)


 と、思うくらい動揺していた。


「まあいい。そんなことは悠志に聞けばすぐに分かるからな。」


 伊織はニヤリと笑った。


「うぐっ!!」


 伊織の笑みにエイレンシアはダメージを受けた。


「で、悠志。お前、エイレンシアに何された?」


 伊織は笑いながら俺に聞いてきた。よく見れば、目が笑ってないのに気付き怖くなった。


(あの目は嘘言ったら殺す目だ!)


 と、断言できるくらい怖かった。だけど別に隠す必要はないので


「エイレンシアに機械の修理を頼まれただけだ。」


 俺は正直に答えた。










 交通班研究所より


「ふ〜ん。コレがエイレンシアに押し付けられた機械ねえ。」


 伊織は解体途中のロボットを見ていた。なんで伊織がいるかというと、俺が正直に答えたあと、


「ヒマだから、お前についていく。」


 と、言ってついてきたわけだ。


「で、この鉄クズの中にこの機械の核があるんだな?」


「ああ、直そうにも、もう部品が溶けてて修理不可能だから、コアを取り出して最初から組み立てようという話だ。」


 俺は伊織に解体の理由を説明した。


「思うんだけどさ、溶けてるってことは、簡単には解体できないよな?」


 伊織が俺に聞いたきた。


「ああ。」


 俺はその問いに肯定した。実際試したが、部品が溶けてて、解体しようにもできない部分があり、今それについて悩んでいた。


「もうこうなったらさ・・・」


 と、伊織はニヤリと笑いながら言った。どうやら、


「ああ。こうなったら・・・」


 俺と同じことを考えているらしい。


「「こうなったら・・・」」


 チャキ。


 俺達は刀を取り出し


「「ぶっ壊す!!」」


 ぶっ壊したほうが早いのでロボットに向かって切り掛かったが、


「ダメーーーー!!」


 ズドン!!


 エイレンシアに雷を落とされた。俺だけに


「殺す気か!?」


 加減はしているが、俺は静電気体質なのでその類はすごーく嫌いだ。


「なんで壊そうとするのよ!機械はね、すっごくデリケートなの!壊れたら直すのは大変なのよ!それから、取り出すコアを破壊した瞬間、この辺一帯が焼け野原になるから止めてよね!」


 俺に雷落としたことをスルーして、エイレンシアは怒鳴った。終わらせるには、まだまだ時間がかかりそうだ。










 30分後










 キュイィィィィン!!


 あれから俺達は地道に熱で切るタイプの電動のこぎりで少しずつ削り取ることにした。


 ギイィィィィィィン!


「耳が痛い(涙)。」


「泣き言を言うな。」


 削り取る音はものすごくうるさい。さっきから、耳が痛くてしょうがない。


「痛い・・・」


 ノルンも耳を塞いでいる。


「早く終わらせるぞ。このままだと倒れる。」


「ヘーイ。」


 伊織が1番平気みたいだ。










 1時間後・・・














「やっと取り出せた・・・」


 ついに俺達はコアを取り出すことができた。コアは赤く輝いた、球体だった。


「おつかれさま〜。よくがんばったね〜」


 エイレンシアも仕事が終わったらしい。よく見ると耳栓を付けていた。


「耳栓あるなら、よこせよ!」


 伊織が叫んだ。


「え〜聞こえないな?〜」


 エイレンシアは笑いながら言った。


「エイレンシア・・・お前は子供か?・・・」


 少なくとも、大人の女性がやる行為ではない。そう思ってると、


「ゆ〜君達、もう寝てていいよ〜。部品は明日届くことになったからね〜」


 と、エイレンシアはそう言って部屋を出た。

まだまだ機械いじりは続きそうだ。



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