80.5話 ユリウス冒険譚(8)勇者・聖女編
※『ユリウス冒険譚』の続編です。
物語の大筋には関係が無いように書くつもりなので、飛ばしてもらっても構いません。
勇者は馬車で3週間ほどの距離にある大きな氷山地帯にまでやってきました。
その氷山地帯の頂上付近では、万年溶けることのない雪があり、頂上へ向けてより険しい傾斜になっています。
東の地から北の地へ行くには、この氷山地帯を越えていくか、大陸の中心へと向かってから北の大地へ続く大道を通っていくしかありませんでした。
今は、中心の道は魔族の侵攻によって遮られていますので、この氷山を越えるほか北の大地へ進む道はありません。
「ここが『エントマの氷山』か」
勇者ユリウスは、エントマの氷山を見上げながらそう呟きました。
ナルニー火山を見た時も感じたことでしたが、やはり話に聞く氷山の光景と、実際目の前に広がる光景とでは雲泥の差が生じていました。
彼の肌を劈く冷気は勿論、目の前の氷山地帯から受ける圧倒的な威圧感は、こうして目にしたものにだけしか知ることはできません。(読めない人が多いかなと)
「貴方様が勇者様ですかな?」
氷山地帯を進んでいくと、草が落ち切り今にも枯れてしまいそうな木の影から、一人の青年が勇者ユリウスに話しかけてきました。
彼は獣の皮で作ったであろう分厚いコートで身を纏い、飢餓状態であることが容易に想像できるほどに痩せこけて青ざめた顔色をしていました。
「僕はユリウスです」
勇者ユリウスはそう名乗ります。
すると、その青年は片膝を地面について天を仰ぎます。
「おお、神よ。我々の願いを聞いてくれたのか!!」
その青年は涙を流しながら大きな声で天に向かってそう言いました。
「あなた達は何か困っているのですか?」
勇者ユリウスは彼にそう尋ねます。
すると、その青年は現在彼がおかれている状況を話し始めました。
「実は我々は魔族の襲撃以前から『エントマの氷山』に住んでおりました。
魔族は寒さに弱いのか、ここには襲撃をかけませんでした。しかし、ここ数年で状況は変わりました。魔族が攻めてくるようになったのです。
我々も必死の抵抗をしましたが、徐々に追いやられ、今ではずっと奥まで逃げてきた次第です。私は村の者たちの代表として、助けを呼ぶために麓まで降りてきたのです」
北の大地が魔族からの襲撃が少ないことはよく知られたことでした。
しかし、ここ数年で襲撃を受けるようになったということに、勇者ユリウスはことの重大さを理解します。
「分かりました! 僕が何とかして見せます!」
「それは本当に心強い。では、我々の住む村までお連れします」
勇者ユリウスの言葉に青年は感激し、勇者ユリウスを彼らの村へと案内します。
とても険しい山道を、彼は簡単に進んでいきます。
後ろをついていく勇者ユリウスからすると、ついていくだけでも一苦労でした。どんどん進んでいくと、一つの村らしきものが見えてきます。
「勇者様、止まってください! 魔族です!」
ユリウスたちの目に飛び込んできたのは、人の形をしてはいるが目が赤く、真っ黒な翼を生やした存在が、村を襲っている光景でした。
「貴方は逃げてください! 僕が魔族の相手をします!!」
勇者ユリウスは鞘から剣を抜いて、村の方へ走っていきます。
村人たちは各々逃げてはいるが、圧倒的強者である魔族からはそう簡単に逃げられないようでした。
勇者ユリウスは一直線に魔族の方へ駆けていき、追いつくと魔族の目の前に立ちはだかります。
「貴方の相手は僕です!」
勇者ユリウスは魔族にそう宣言します。
魔族は何も言わず、顔には笑みが浮かんでいました。その笑顔はひどく残虐的で、人を殺めることを楽しんでいるようでした。
ユリウスは聖剣で魔族を斬りつけます。
魔族は人間を侮っており、勇者ユリウスの攻撃は魔族に直撃します。魔族の片翼が宙を舞い、地面に落ちました。
魔族はそのことに驚きます。
まさか格下の人間族に翼を切られてしまうとは思っていなかったその魔族は、先ほどまでのゆるんだ表情から一転して険しい表情へと変えます。
そして、何かを叫びながらユリウスに襲いかかりました。
魔族の速度は非常に速く、勇者ユリウスはその動きを目で追うことが精一杯。魔族の鋭くとがった爪によっていくつかの切り傷が生まれます。
しかし、尚も魔族の攻撃は止まりません。幾重にもできた傷に、勇者ユリウスは非常に困難な立場に追いやられます。
ユリウスが諦めかけたその時、綺麗な光がユリウスを覆いました。
その光によって傷はどんどん回復し、ユリウスに勇気を与えます。そして、普段以上に彼の力を高めていきます。
「勇者様、あなたに神のご加護を!」
その光を放ったであろう女性は、勇者ユリウスにそう告げます。
勇者ユリウスは不思議と勇気が湧いてきました。
そして、再度魔族を見ます。
魔族も、最初に勇者ユリウスから受けた傷によって弱っています。勇者ユリウスは、そのことを見逃しませんでした。
勇気を持って再度魔族に攻撃をします。
さっきまで彼に巣くっていた恐怖は消え失せ、いまや何の迷いも無く一直線に魔族へ聖剣を突きつけます。
聖剣からは青い光があふれ始め、魔族の胸を貫きます。
すると、魔族は真っ黒な霧と化し、その場からいなくなりました。
「魔族は消え失せました! 我々の勝利です!」
勇者ユリウスは村人たちにそう宣言します。
すると、村人たちから大きな歓声が沸き起こります。その歓声に包まれながら、勇者ユリウスは先ほど助けてくれた女性の元へ駆けつけます。
「先ほどは助けていただきありがとうございます」
勇者ユリウスはその女性に礼を告げました。すると、その女性は首を横に振ります。
「勇者様。私が貴方を守るのは当然このことです。すべては神の神託なのですから」
「では、あなたが私を導く方なのですね」
勇者ユリウスはドラゴンから聞いた話を思い出しながらそう聞きます。
すると、その女性はただ一つ首を縦に振って応えます。
「ご神託によると、次はここより南にあります『べランゲの谷』へと向かう事となっております。よろしいですか?」
「はい。私の仕事は皆を守ること。あなたの剣となり悪を斬ることです」
勇者ユリウスはそう告げます。
すると、この村へ案内してくれた青年が鉄でできた靴を持ってやってきます。
「勇者様。あなた様のおかげで村が助かりました。これは村に伝わる聖なる靴です」
そう言って靴を手渡します。
「どうかこの世界をお救い下さい!」
青年はそう言って頭を下げます。
勇者ユリウスは靴を受け取ると、こう宣言しました。
「私は必ず皆を守ります。そのためにここに居るのですから」と。
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