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幕間 学園生活

※アリア視点




 学園に通い始めて大体1か月が過ぎました。



 学園生活にも少しずつ慣れて、授業で課された課題や予習・復習で思っていたよりも忙しい生活に追われていました。私の周囲の環境は一気に変わり、同年代の方たちに囲まれた生活が始まりました。



 学園は大きく二つに分かれています。



 一つ目は、初等学園です。


 初等学園は平民を中心とした8~11歳までが通う学校で、基本的な読み書きや計算、アイザック帝国の歴史や初歩的な法律など、日常生活に必要最低限の知識を学ぶ場所です。基本的には平民の為の学校とされていますが、貴族の中でも幼少期に学力やコミュニケーション能力に問題があると判断された子たちが通うことになります。



 二つ目が私が今通っている高等学園です。


 初等学園が必要最低限の知識を学ぶ場所であるのに対して、高等学園ではより専門的な知識を学ぶ場所とされています。12~18歳の貴族の令息と初等学園を成績優秀者として卒業できた数十名のみが入学を許される学校です。


 入学試験の点数によって、A~Eまでクラスを分けられることも特徴の一つです。


 魔法か剣術をメインとして、魔法科A~E、剣術科A~Eと振り分けられてメインの授業を受け、あとは政治学や地理学、歴史学、天文学などの分野で自分の学びたい科目を選択して学習する単位制がとられています。


 つまり、将来を見越した学習が必要とされているのです。









「魔法科Aクラスは校庭に集まるように」



 高等学校の魔法教員であるサルサ先生は、魔法科Aクラスの扉を開けるとそれだけ言ってまた出て行ってしまいました。基本的に、午前中はメイン科目の時間に充てられています。私たち魔術科は「魔法理論」の時間なので、クロービア先生の担当であり、おそらく校庭で魔法の授業が行われるのでしょう。



「あれだけじゃ何をやるのか分からないね」


「そうですね」



 一緒にいたノーラさんは先生が出ていった方角を見ながらそう言います。ただ、先生にとってはいつもの事なので気にしても仕方がありません。



「とりあえず、行こっか!」



 ノーラさんは私の手を引きながら教室を出ていきます。すると、教室の外に小さな人だかりが見えました。そして、その人だかりの中心にいた男子生徒は私たちに気が付いたのか、集団をでてこちらへ歩いてきます。



 長い金髪に少し吊り気味の目。特徴的な顔ですが、顔つきとしては整っています。その男子生徒は私たちの前で立ち止まり、片膝をついてこちらに礼をしました。



「アリアさん、今日もお美しいですね」


「今日も懲りないね、ルーベルト君は」



 ルーベルト・オリオール。去年のお茶会の時から私に言い寄ってくる男子。新進気鋭のオリオール伯爵家の長男です。



「お世辞は結構です。ではこれで」



 私は早々に話を切りあげてその場から離れます。


 もともと目立つことはあまり好きではありませんし、あまり思わせぶりな態度を取るのも良くないからです。私にはもう心に決めた人がいるのですから。








「今日は魔法の概要を学んでもらう」



 魔法の概要?


 私はサルサ先生の言葉の意味があまり分かりませんでした。他の生徒の方々も私と同じように不思議そうな表情で先生の方を見ています。



 すると、サルサ先生が移動用の黒板に魔法陣を描きだしました。



「魔法は『詠唱』するか、このような魔法陣を行使する必要がある。場合によっては両方が必要な場合もあるが」



 それはこの場にいる誰もが知っていることで、みなが首を縦に振ります。


 その様子を横目で確認したサルサ先生は、なおも言葉を続けます。



「私が描いたこの魔法陣は、君達がよく使用する初期魔法の一つだ。……そこの君、これが何の魔法か分かるか?」



 サルサ先生は一人の男子生徒にそう聞きます。その男子生徒は、困った顔で先生の方を見るばかりで、答えられません。


 それもそのはず。そんなことを習わないから。



「ふむ。これは火魔法の『ファイア』だ。火属性に適性がある者がこの魔法陣に魔力を流すと、その魔法が行使できる。……詠唱せずに」



「魔法陣にはちゃんと意味がある。まずこの部分は……」



 そこから20分ほどサルサ先生による魔法陣の講習が始まりました。その授業の内容はとても専門的なもので、私が今まで学んできた魔法の概要とは一線を画すものでした。



「……よって、この魔法陣で『ファイア』が発動するのだ。では……次はそこの君」



 一通りの説明を終えて、サルサ先生は周りをザっと見回しました。そして、また別の生徒を指名します。


 その生徒は急にあてられたことで少し驚いた表情を見せます。



「ここまでで、私が何を言いたいか分かるか?」



 サルサ先生の設問に、その生徒は少し考え込むような表情を浮かべました。しかし、10秒ほどで答えを導き出します。



「……魔法陣によって、魔法は無限の可能性がある?」


「その通りだ!!」



 その生徒の答えに、サルサ先生は今までの無表情から一転して笑顔を見せます。そして、「よく話を理解しているな。」と答えた生徒を褒めながら、生徒全体の方に向きなおしました。



「そう。魔法陣の構成次第で魔法はいくらでも変化できる。この授業では、君達に魔法陣の書き方を教えつつ体験してもらい、新たな魔法の研鑽に打ち込んでもらいたい!」



 サルサ先生は私たちにそう宣言しました。


 新たな魔法の研鑽。私はその言葉に心動かされながら、授業に没頭していったのです。









「ただいま帰りました」


「あらあら、今日は早かったのですね」


「はい、今日は午後の授業は一つしかなかったので」



 王都にあるサントス公爵家の屋敷に帰り着くと、いつもの様にマーリスさんが出迎えてくれました。マーリスさんはお父様の側室の方で、王都の屋敷を管理しています。



 普通は王都に正妻を置くのが主流の様ですが、サントス公爵家が外交の仕事を請け負うことが多いことから、領地にいられることが少ないという理由で、本妻である私のお母様が領地に居続けるという形がとられています。


 マーリスさんはどうやら子供ができにくい体質のようで、私の事を本当の娘の様に可愛がってくれます。とてもいい人で、私の相談にもよく乗ってくれます。



「そういえば、また彼から手紙が届いていますよ」


「本当ですか!?」



 私は大きな声でそう聞き返します。私が思っていた以上に声を出してしまったので、数人の使用人さんたちが「何事か?」とこちらに視線を送ってきました。


 私は恥ずかしく思いながらも、その手紙のことが気になって仕方がありませんでした。



「ふふふ。今日は早く帰ったことだし、お部屋でゆっくりしなさい」


「マーリスさん……。ありがとうございます!」



 私はマーリスさんにお礼を言ってすぐに部屋の方へ向かいます。淑女たるもの屋敷内であっても走ることなどあってはなりませんが、すこし足早になってしまうのは仕方がないと思います。



 部屋に入ると、私の机の上に2つの手紙が置かれていました。


 1つは、お父様からです。本当ならば、こちらの手紙から目を通すべきなのでしょうが、私の手は既にもう一つの手紙の方に向かっています。



 その手紙には、綺麗な字で私の名前が書かれています。この綺麗な筆跡を私は忘れることができません。


 手紙をひっくり返すと、私の思い人の名前が書かれています。



「やっぱり、アル様だ!」



 私は自然とこぼれる笑みを浮かべながら、その手紙を読み始めました。


 内容は特に変わったことなどありません。


 私の体調を気にしてくれる文章から始まり、ガンマ様の息子であるロン様の話や中庭に咲いている花の話などの他愛のない内容が書かれています。


 しかし、どの文章からも私はキラキラとした風景が思い浮かび、なぜか幸せな気持ちになれるのです。



 私は手紙を大事に机の中にしまい、アル様にあてる手紙を書き始めます。



 今日の魔法の概要に関する授業の話、ノーラさんとの学園生活、マーリスさんの話……ルーベルトさんの話は、やめておこうかな……。



 そんなことを考えながら。





今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!


割り込み投稿を活用して更新させてもらいました。学園編の話が本格的に展開する前に投稿したかったので。


いつもの様に、誤字脱字等ありましたら「誤字報告」にて知らせていただけるとありがたいです。感想もお待ちしております。

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